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6・今世のワインが不味すぎるだけ

土日は忙しいので、小説のクオリティが著しく低下しております・・・。


もっと読みたい、などと思いましたらぜひともポイント評価やブックマークをお願いします。


ポイントが増えれば増えるほど更新速度やクオリティも上がりますっ!


よろしくお願いします。


「はぁ、そろそろワインが恋しいなぁ...」


 ティフェルバーニャ伯爵家との縁談の一件の後、私は兄であるライアスと相談して、後日縁談の破談を伝えることを決定した。

 ライアスは、最初の方こそ渋っていたものの、最終的に私の説得に応じてくれたのだ。


 そしてウィリアムからどぎつい言葉を浴びせられてから私は、さらにハードな運動と食事制限を行なっていた。

 シシアや他のメイドは心配しているが、今の私には関係ない。ただ痩せれればそれでいいのだ。


 徐々に【転生】後の世界に慣れてきた私は、そこで元の世界でよく嗜んでいたワインのことを思い出した。


 自慢になるが、私は自分でワインを作ってしまうほどワインを愛していた。

 魔王になってからは、国中から最高級のワインを集めて、品質比べをしたりもした。


 だが今世に【転生】してから10日、ワインの一滴も飲んでいない。

 この世界での飲酒法は、醸造酒は15歳から・葡萄酒は13歳からと年齢のハードルが低めなので、葡萄酒なら私でも飲める。


 そこで私は、兄であるライアスにワインを飲ませてもらえるように打診することにした。

 最初は驚いていた兄だったが、最近の私の変化が大きすぎてこの程度のことなど全く気にならなくなったのか、夕食の後にワインを出してくれると笑顔で答えた。



 鶏肉料理を中心とした、南国風のヘルシーなディナーを平らげた私は、(体感的には)何週間ぶりかのワインを心躍らせて待っていた。

 

 シシアを筆頭にメイドたちが、キッチンワゴンをガラガラと押しながら調理室からダイニングルームへとやってきた。

 ワゴンにはいくつかの料理と、ワインクーラーに氷とともに入れられた三本の違う種類のワインがあった。パッと見る限り、全て赤ワインの類である。


「おぉ……これは楽しみですね、お兄様」

「ふふっ、そうだね。実は僕もワインは久しぶりでね。ちょっと前まで集めてたのがあって、それを持ってこさせたんだけど……自慢じゃないけどね、王都でも最高級のやつだよ」

「最高級!! なおさら飲みたいですねぇ……ごくり」


 聞けば聞くほど飲みたくなる。

 王都でも最高級のものとなれば、それはそれは極上のうまさなのだろう。

 かなり期待しつつ、私はメイドが持ってきたワインボトルにくぎ付けになる。


「それではお嬢様、ライアス様、お入れいたしますね」


 よく磨かれた綺麗なグラスに、紅い液体が半分ほど注がれる。

 グラスに顔を近づけてみると、葡萄酒特有の甘さを含んだ熟成された重みのある香りが漂って来る。

 上品にグラスを一回転させて、それから期待を込めて一口口に含んでみる。


「……ッ!?」


 私は思わずグラスを机にたたきつけるようにして戻していた。

 あまりに美味しすぎた_______からではない。むしろその真逆だ。

 ______とても不味い。


(なん、だ、これ? 酷い味だ…しかも何かしらの甘味料が追加されているのか、妙な違和感があるな。しかも酸味が強すぎて全体のバランスが崩れている。これ本当にヴィンテージものか? ていうかマジでこれが最高級だとしたらやばいぞ……)


 眉をひそめた私の前では、同じ種類のワインを注がれたライアスが美味しそうにそれを嗜んでいた。

 いやこいつよくこんな美味しそうに飲めるな、と呆気にとられる私に、何を勘違いしたのかライアスは憐れむような視線をこちらに向けてきた。


「やっぱりアイリスにはちょっと早かったかな? どうだい、他のも試してみる?」

「え、えぇ……お願いします」


 ほかの二種類のワインも同様に一口ずつ飲んでみたが、やはり飲むに堪えないものだった。

 ワインに『不味い』ものはない、と私はある程度のワイン通の常識として心得ていたつもりだったが、さすがの私でもこれらのワインにはノーと言わざるを得ない。

 ほんとうにこれらが国内最高級なのか、と疑いたくなるというか疑ってしまう。

 

 私は慄きながら、恐る恐るライアスに尋ねた。


「あの、お兄様……? これが美味しいと感じます??」

「んー、まぁ、ちょっと酸味が強いけど、今まで飲んだ中で一番か二番目くらいに美味しいものだと思うよ。アイリスはどう?」

「えぇ、まぁ、やっぱり私にワインは早かったようです……」


 私はワインとともに用意されていた生ハムを食べて、強い塩分で口の中に残った嫌な残り香を放つワインの存在を抹殺した。そのままメイドに命じてワインを下げさせる。

 

 この世界でのワインの【美味しい】という基準があまりにもぶっ飛んでいることに絶望した私は、小さな声で挨拶をしてから自室に戻った。

 あれなら、元の世界にいくらでもある酒場の安い醸造酒を飲んだ方がまだましだ。


 __________本当に、この世界に来てからは驚かされることばっかりだ。



 あの悪夢のようなワイン試食会の翌日、私は朝起きた瞬間にぱっと閃いた。


「そうだ! だったら私が自分の葡萄でワインを作ればいいんじゃないか!!」


 同時に、頭の中に様々なプランが浮かび上がる。

 もし私が『王都の最高級ワイン』の品質をはるかに超える代物を作ることが出来たら、市場へ売り込むことによってこのフェルヴェルフォン領の財政難を解決する一手となりうるかもしれないのだ。

 

 善は急げ、とばかりに私は急いで洗顔や朝食を済ませて、シシアとともに領内にある葡萄畑へと向かった。伯爵家の屋敷からは街を挟んだ向こう側にあるためちょっと遠いが、朝のランニング代わりに走って向かうことにした。

 年配のシシアは他の二人のメイドとともに、わざわざ馬車に乗って私と並走してくれた。

 

 大通りでは、すでに領内に住む人々が活気づき始め、店などがどんどん開かれていた。

 そんな道路のど真ん中を全力疾走するデブス伯爵令嬢と、豪奢な伯爵用馬車を見て人々はいったい何を思ったのだろうか。

 

 ときどき、通りすがりに若い女たちがくすくすと笑ったり、年配の夫婦らしき男女が微笑みを浮かべてこちらを見ていたりする。

 

 やはりデブが疾走する姿は滑稽なのか、とちょっぴりブルーな気分になりつつも、荒い息をつきながらなんとか葡萄畑に辿り着くアイリス。

 そして馬車に揺られてきたメイドたちが息を乱さずに私の左右に並ぶ。


「はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ……ふひゅう、ここが、はぁ、葡萄、はぁはぁ、畑、はぁ、ね……」

「お疲れ様です、お嬢様。帰りは馬車に乗られますか?」

「えぇ、帰りはお願いするわ……」


 青色の爽やかなワンピースを、脇汗と背中の汗で濃い青に染めつつ、私は葡萄畑に入っていった。

 葡萄畑の持ち主である農家の主人と少し話をして、特別に葡萄の試食や見学もさせてもらえることになった。


 広大な葡萄畑は、山脈の緩やかな傾斜に沿うようにして広がっている。

 垣根づくり、だろうか。葡萄の木々が直線にずっと奥まで並んでおり、適度な間隔を保っている。

 どうやらこの畑は東側と西側で違う種類の葡萄を植えているらしく、パッと見たところ、東側が黒葡萄で西側が白葡萄のようだ。


 私はこの畑を保有している農家の老人とともに、東側の黒葡萄の畑から見ることにした。

 ちょうど収穫時期のため、まだ実がたくさんなっている木々もちらほらと見られた。


 一房手に取って、よく見てみる。


「へぇ……一粒一粒がおっきいわね。これの種類は?」

「えぇと、これは『アルネル・シャトーゼ種』でございますね。強い酸っぱさとほのかな甘みが特徴で、現在うちでしか栽培していない特別な品種ですねぇ。果皮が厚いので果肉部分が少ないのが特徴ですが、独特の酸味が好みの人も多くいて、市場ではだいぶ価値が上がっとるらしいです」

「なるほどね……」


 いま農家の老人が言ったことは、全てワイン用葡萄としての基準を満たしている。

 試しに一粒かじってみると、明らかにワイン用の葡萄であることがわかった。普通はワイン用の葡萄は食用としては適さないのだが、この種類なら食用としても葡萄酒用としても使えるだろう。


「えっと、農家さん。もし、私がこの畑の葡萄を買い取りたいって言ったら売ってくれます?」

「あぁ、そりゃあもちろん!! ただし、いまこれは市場でも値段が高騰しとるからのう。わしとしてはあまり安い値段は売りたくないが…」

「もし、市場価格の二倍で買い取ると言ったら?」

「即決じゃよ」


 食い気味で答える老人。

 どうやらお金が入ればなんでもいいらしい、と私は思わず心の中で苦笑をした。


 その後西側の畑で育てられている『エルスタニア種』を試食してみたが、こちらは白ワインの原材料としては十分だ。過去の経験からして、この種はおそらく甘口から辛口まで様々な種類のワインを作れるだろう。フルーティーな香りが特徴で、こちらもまた王都の市場で大ヒットしているという。


 まだワインをどのように作るかも考えていないが、一応これで原材料の段階はクリアした。

 農家の老人とはいつでも契約ができる状態にしておくことを約束しながら、私は葡萄畑を後にした。

 

 なんというか、突拍子もないのに案外うまくいってしまった。

 これが完全食用の葡萄だったらアウトだった、と今更ながら向こう見ずに突っ走ってしまった自分の行動を反省する。


 馬車の窓から外を眺めつつ、私は前世で仕入れたワイン造りの知識をフルに活用して、かならずフェルヴェルフォン伯爵家の財政難を救って見せる、と決意した。


 元魔王の名に懸けて。

 

 

 

 

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