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3・ 遠大な夢への第一歩なだけ

「・・・よし、こんなもんかな!」

 私が大きめの紙にびっしりと書いたのは、これからの計画や改善点などだ。


 書いているうちにかなり時間が経ち、書き終わった頃には起床を報せる鐘の音が領内に響いていた。

 羽根ペンとインク壺を、丸めた羊皮紙とともに机の中にしまっておく。


(よし・・・食事の前に、料理係の人たちにダイエットのことを知らせておかないと!)


 固い決意を胸に部屋から出て、一階にある調理室に向かおうとする私。

 だがドスドスという特有の足音に気づいたのか、廊下の向こう側から歩いてくる年配のメイドと鉢合わせてしまった。


 私と目が合った瞬間、メイドの目が驚きで大きく見開かれた。

 そのまま焦って駆け寄ってきて、蹲み込んで私と同じ位置まで目線を下げる。


「おっ、お嬢様、どうされたのですか!? お体の具合でも悪いのですか!?」

「あ、いや、別にそういうんじゃなくてね」

「それに、お着替えまでお一人で為されたのですか!? 申し訳ありません、お手伝いできれば...」

「いや、本当に大丈夫なの。私は今日から生まれ変わると決意したわ...、その、ダイエットとか始めてみようかなって思ってるだけで...」


 言葉も失い、呆気に取られる年配メイドだったが、すぐに気を取り直して微笑みを浮かべた。


「とてもよい心掛けだと思いますわ、お嬢様。私に出来ることがあれば、なんでもお申し付けください」

「えっ?」


 確か記憶によれば、このメイドは私が幼い時からこの家に仕えている古参だ。

 しかしその分、私の嫌味や悪口が最も向けられてきた一番の被害者なのだ。

 そんな相手が、こうも純粋な喜びを顔に出すなんて私は信じられなかった。


「応援、してくれるの...?」

「えぇ、もちろんですわ。早速お手伝いしたいのですが...、何をすれば良いでしょう?」

「えっと、じゃあ、さっき脱いだ服が部屋に置いてあるから、あとで洗濯して...ください」

「御意。あと、私に敬語はおやめ下さいませ。立場はお嬢様の方が上ですので」

「あ、はい」

「それでは直ぐに洗濯いたしますわ」


 年配のメイドはニコニコして、私が出たばかりの部屋に向かった。汗だらけの服を洗わせるのも心苦しかったが、なぜかそんな命令をしてしまった。


(みんなが彼女のように、すんなり私の変化を受け止めててくれればいいけどなぁ)


 やはり記憶が戻る前の私がヤバすぎた。

 なんだか頭痛がしてきたが、首を振って本来の目的を思い出す。

 そう、まずは調理室に行かなければ・・・!



 そうこうしているうちに階段まで辿り着いた。

 体力の消費を抑えるために、極力ゆっくりと下る。

 一階について調理室に向かうと、慌ただしい足音が聞こえてきた。

 どうやら専属のコックたちが朝食に間に合わせようと急いで支度しているらしい。


 フェルヴェルフォン家の調理人たちは皆優秀な腕を持っている。まぁ理由は簡単、兄のライアスが食事にうるさいのだ。

 デブな私は割と雑食なので、高かろうが安かろうがあまり食事に頓着はない。強いて言うなら肉が好きなくらいだ(完全にデブの思考のそれ)。


 そういえば前にライアスが朝食に肉類を出されてちょっとキレたことがあったらしいが、その時に調理人たちはすぐに新しい別に料理を持ってきたという。


 だから私が急にオーダーを出しても大丈夫、かも。


(くんくん・・・おぉ、これはココットの匂いか! 生ハムにバター・・・美味しそうだな・・・)


 調理室の前から漂ってくる悪魔の誘惑。

 すぐに突入して食べ尽くしたいという欲望が湧き上がるが、それをぐっと抑える。


「ごくり・・・よし、入ってみるか」


 調理室の鉄の分厚い扉を開いて中に入る。


 すると、中にいた調理人たちが一斉にこちらを見る。

 料理長らしき人物が訝しむような目をしながらやってきた。


「おはようございます、アイリス様。一体こんな場所に何の用ですかな?」

「おはよう。ちょっと頼みがあるんだけどいいかしら?」

「はぁ・・・」


 困り顔で首を傾げる料理長。

 だが気にせず私は言葉を続けた。


「今日から私の食事は三食全部量を減らして、野菜を増やしてちょうだい。油や脂肪も極力取り除いてくれるとなお助かるわ!」

「お嬢様、それはつまり・・・」

「えぇ、ダイエットをするつもりよ!」


 その言葉に響めきが広がる調理室。

 ......おいお前ら、そんなに騒ぐことか。


料理長は少し考えた後、


「わかりました。ですが朝食はもう用意してしまったので、ライアス様の予備の食事を代替用として用意させていただきます。よろしいですか?」

「了解。食べられるものでヘルシーならなんでも結構よ」

「ありがとうございます。......さあみんな、持ち場に戻るんだ!!」


 以前とは違い、物腰も柔らかくなりまるで人格が変わったような(実際変わってる)私を見て驚いていた料理人たちも、料理長の掛け声ですぐに持ち場に戻った。


「くっくっくっくっく...」


 満足げに不気味な笑いを漏らす私。

 どうやら、前世の笑い方の癖が残っているらしい。

 うーん、いずれこれも直さなきゃなぁ...。



 さて、料理人と話をつけた後はようやく朝食だ。

 わざわざ三階に戻る必要もないので、一階のエントランスに置かれている装飾品の鎧などを物色する。


「ふぅん......高価そうなものばっかりね。もしかして割と領地経営上手く行ってるのかしら...」


 置かれているのは全て陶器や鎧で、素人の私から見ても高そうだった。

 感心していると、ダイニングルームからメイドの呼ぶ声が聞こえた。


「アイリスお嬢様、お食事の用意が出来ましたのでダイニングルームへお越しください!」

「あ、今行きます!!」


大声で返事をして、すぐさまそちらへ向かう。

どこからか漂ってくる美味しそうな香りが鼻腔をくすぐる。


 ダイニングルームについた私は、並べられた料理を見て感心した。部屋の中央に置かれた正方形の大きなテーブルには、ライアスと私の二人分の朝食が並べられている。

 ライアスは元々小食のため、朝はパンとサラダ、コーヒーというメニューだ。

 大して私のところには、野菜が大盛りにされてオリーブ油がかけられたサラダとパン、そして______トマトジュースだろうか?何かしらの赤い野菜ジュースが置かれている。


(さすが料理長、こんな直前にオーダーしてもこれだけいいものを出せるなんて感心ね。というかココットとかハムとかはやっぱりないのか‥‥‥っておい、私はダイエット中だぞしっかりしろ)


 危うく欲望に流されかけた自分を叱咤しながら、席に着く。

 反対側の席にはすでにライアスが着席しており、メイドや使用人たちは壁に並んで待機している。

 ライアスは微笑みを浮かべながら、不思議そうな顔で私の顔を眺めている。


「どうしました、お兄様? 私の顔に何か?」

「いや、そうじゃなくてさ。本当にどうしちゃったのアイリス? 朝あんなに早く起きてたのは一時の気の迷いとか、寝ぼけてたとか思ってたけど……ダイエットまでするなんて。びっくりだよ」

「だから朝言ったじゃないですか。私はマジな方で痩せなきゃいけない理由があるんです!!」

「痩せなきゃいけない理由、ね……」


 少し俯いて考えたライアスは、次の瞬間目を輝かせながら顔を上げて、


「もしかして好きな男でも!?」

「ぶふぅっっっ!?」


 思わず口に含んでいたトマトジュースを吹き出すところだった。

 げほげほとせき込みながら、私はライアスの顔を正面から見つめ返してこう言った。


「別に今は好きな男なんていませんからね!? ただ、ちょっとこれまでの自分の所業を反省して、なんていうか……そう、生まれ変わり、生まれ変わりたいなぁって思ってるだけです!!」

「なぁんだ、いないのか……」

「やめてくださいお兄様、私だって自分の価値がどのくらいかはわかってますよ!!」


 ちょっと残念そうに口をとがらせて目を逸らす兄。いったい何を期待してたんだ。

 気を取り直して私は、フォークとナイフを太い指で器用に使いながら、大小さまざまな野菜を食べる。

 ちゃんとキャベツやレタス、ブロッコリーからトマトに至るまであらゆるヘルシーな野菜がわんさかあるため、量を気にせずガツガツ食べる私。


「ボソッ…(やっぱり食べる量は変わらないんだね…)」

「??? なにふぁいいまふぃふぁ?」

「んーん、なんでもないよ。ほらもっと食べなよ」


 コーヒーを嗜みながら、こちらの様子を微笑ましく見ながら、何事かを呟いた兄を訝しみながらも、私は野菜接種を続行する。

 

 さて、これを食べ終えたら次は運動だ。

 ______この身体でランニングやジョギングをすると一体どうなるのだろうか、と一抹の不安を抱えつつ、それに備えて野菜やパンを貪るのだった。


今回から段落ごとに一ます頭を開けてみることにしました。

後ほどこれまでのも修正するつもりです!


相変わらずスローペースですが、できるかぎり早く更新するので乞うご期待です!

お読みいただけましたらポイント評価、ブックマークをよろしくお願いします。

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