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36・王子と友好関係を結ぶだけ


「それでは________私を、殿下の御友人にしてくださいますか?」


 突拍子もない一言だった。

 思い掛けない返答に対してイザヤは、小さく驚きの声を漏らした。


「えっ?」


 アイリスのその言葉の裏にはこんな意図が潜んでいた。まず、此の状況でイザヤに対し何か物品を要求するのは無礼に当たる。しかしだからといって、イザヤの謝罪を受け入れないのも無礼に当たる。

 そんな八方塞がりの状況でアイリスに出来るのは、イザヤと何か精神的な取引を行うことである。

 考えた末に思いついた最善の策が『友人』。これならば、アイリス側もイザヤ側もこれといって困ることはないし_____イザヤ側は多少嫌かも知れないけど呑んでもらはなくては_____問題無いのである。


(お、おぉ〜!? 我ながら良く頭を使ったものだ。第二王子という後ろ盾を得ることが出来れば、ワインの流通も加速するだろうし、何より私が今後何かしらの無礼を犯しても罪には問われにくい! 処刑オチなんていう安易な結末を迎えずに済む……よかった)


 心の中で誇らし気に思うアイリス。

 しかし一方、顔を上げたイザヤの表情に浮かんでいたのは呆気に取られたようなものだった。

 彼は呆然としたように呟く。


「あ……そんなことで宜しいのですか?」

「ええ。金品なぞより殿下の御友人になりたいですわ。そうなれば、寧ろ私の方から感謝したいくらいですの」


 ニッコリと微笑んだアイリスの顔をじーっと見ていたイザヤだったが、暫くして小さく頷いた。

 そしてその美麗な顔に満面の笑みを浮かべ、アイリスの手を思いっきり握る。


「これから宜しく御願いします、アイリス嬢」

「こちらこそ宜しく御願いいたしますわ、殿下」


 手を握られて若干照れ臭くなったアイリスだが、直後に動き回ったせいで手汗が激しいことに気付き、優しく殿下の手を解いて後ろで組む。

 イザヤは納得したのか、先程まで思い悩んでいた重苦し気な表情とは一転して晴れやかな笑顔を浮かべていた。アイリスも一安心し、微笑んだ。


 なんだか幸せな雰囲気になっていた応接間だが、そのムードは階段を勢い良く駆け下りる足音によって中断された。足音は真っ直ぐ応接間にやってきた。扉を僅かに開けて、こちらを覗き込んだのはリリスである。

 彼女は緊張した面持ちで、


「お嬢様、お部屋の掃除が終わりました。其方のお客様をお運びして、応接間の掃除を行いますので一旦お庭の方にお越し頂けますか?」

「わかったわ。ちょっと散らかり過ぎたけど、出来るだけ綺麗に掃除を頼みわ。あと花瓶のことはライアスには内緒にしててね、今日怒られたく無いもの」


 リリスは勢い良く「了解しましたぁ!」と叫ぶと叫ぶと、数人の使用人たちと応接間に入り、一体どうやって作ったのか担架のような物でアグラヴェインを運んで行った。

 入れ替わるように入ってきたのはシシアだった。


 流石老齢の熟練使用人、部屋の惨状を見渡してイザヤの姿を確認すると頭を深々と下げた。


「大変申し訳御座いませんお嬢様、そして殿下。折角の持て成しが私共の不手際により、大変見苦しいものになってしまったことをお詫び申し上げます」


 イザヤは公の場に出すときのような、真面目な顔になったかと思うと先程とは違う声色で答えた。


「構いません。僕は怪我もしていませんし、何なら彼は僕の騎士ですので責任はこちらにあります。フェルヴェルフォン伯爵家が謝ることではありません」


 それを聞いたシシアは一瞬顔を上げて私の顔を見た。私が片目で合図をすると、小さく微笑みを浮かべてまた頭を下げた。


「しかし殿下のご気分を損なったのは事実です。お詫びという程のものではございませんが、庭園の方に茶会の準備を致しましたので、其方にてお寛ぎくださいませ」


 シシアはそう告げると、丁寧にもう一度お辞儀をして退室して行った。アイリスは庭園の準備がされていることに感謝し、イザヤに向き直ってこう告げた。


「それでは殿下、一度庭園の方に参りましょう。そもそも殿下と未だ本題の話も出来ておりませんし、友人となったのであればもっとお話ししなければ!」


 矢鱈とぐいぐい行っているのは、やはり第二王子という強力な味方を得れたからだ。


 ここで仲良くなれば、この先の伯爵令嬢としての人生に新たな道がいくつも開けるだろう________


 というちょっと腹黒い考えを持ちつつも、単純に第二王子と親睦を深めたい気持ちもあるためいつも以上に押しが強いアイリスなのである。


 そんな考えに気付いているのかいないのか、再び表情に笑みを浮かべたイザヤは頷いた。


「それでは積もる話もあるので、庭園の方に行きましょう。……あ、アグラヴェインが起きたら叱らなくてはいけませんね。本当に彼の無鉄砲さには呆れますよ……」


 アイリスはイザヤを先導し、応接間から館の廊下を西に進んで庭園へと向かった。その道中でも、途切れさせず会話を続ける。


「えぇと、何でしたっけ……『悪い意味で純粋』でした? アグラヴェイン様の事を揶揄されてましたよね、殿下」

「あぁ、それのことなんですが……」


 イザヤは王子に似つかわしく無い動作で顳顬を掻き、困ったような口調で打ち明けた。


「彼、最近巷で有名な()()物語に憧れているんですよ。それでその本の中に『悪役令嬢』という存在が出て来ましてね。これがとんでもない精神異常者なのですよ」

「……なるほど?」

「その『悪役令嬢』とやらは策略に長け、広い領地を運営する優れた経営手腕を持つのですが性格が悪いのです。王太子の婚約者となった後、幼馴染みであった令嬢が王太子と恋に落ちると_____まぁ、毒を盛ったりして殺そうとする訳でして」

「恐ろしいですわね」

「実はここに来る前、アグラヴェインと少し話をしてて、噂に聞くアイリス嬢がこの『悪役令嬢』に似てるなーと笑ってたんですよ」

「……少し酷くないですか?」

「まぁまぁ、そんなに気にしないで下さい。実際会ってて思いましたが、貴女は予想以上に魅力的ですよ」


 イザヤから何の気無しに投げかけられたお世辞の言葉に、一瞬顔を赤らめるアイリス。魅力的などという単語、妹馬鹿のライアス以外から聞いたこともないような世辞を受けて思わず照れてしまったのである。


 それを出来るだけ動作に表さないよう我慢しつつ、アイリスは話を続けるよう促した。


「そ、それで、私が似てるから何ですの?」

「アグラヴェインは少しお馬鹿な所があり、貴女のことを『悪役令嬢』と重ねてしまったみたいなのです。恐らく、僕が飲んだ紅茶に毒が入ってるとでも思ったのでしょう」

「とんでも無く迷惑な方ですのね、アグラヴェイン様って……」


 アイリスが呆れたように告げると、イザヤは取り繕うかのように護衛騎士の弁護をした。


「いやまぁ、少し思い込みが激しいだけで、アレでも護衛騎士の中では優秀な方ですよ。子爵家は代々王家に誠心誠意仕えていますし、信頼は出来ますよ」

「……その割には私がちょっと殴っただけで吹っ飛んでいたではありませんか」

「……あは、あはは、きっとヴェインも相手が令嬢だったため手加減をしたんでしょう……多分」


 確かに素であの実力だとしたら王宮騎士団の練度を疑いかねない。元魔王とはいえ、体重のデバフが強制的に枷となっているただの令嬢に懐まで潜り込まれ、胸板に拳を当てられるなど言語道断だ。


 すると殴ったという単語で思い出したのか、イザヤは訝しげに呟いた。


「……というかアイリス嬢、先程の武術は何処で習得したのです?」

「え、いや、その、何と言いますか……」


 そういえばこの貴族社会では、令嬢が武術を学ぶのは慎みが無く品位を落とす行為だとして、あまり快く思われていない。その事をすっかり失念していたアイリスは、一気に冷や汗を滴らせる。


 やばい、品位の無い雑魚令嬢だと思われる_____


 焦ったアイリスの背後で、あっと声を上げたイザヤは思いついたように言葉を発した。


「もしかして、最近治安が悪いから兄君から教わっているとかですかね。フェルヴェルフォン伯は嘗て王宮騎士団に所属していたはず、やはりそちらから?」


 ナイスッ!、と心の中で叫んだアイリスはその考えに便乗した。


「そっ、そそそ、そうですの。ライアスから簡単な武術の手解きを習い、万が一の事態に備えています」

「なるほど……それは良い心掛けですね」


 後ろで小さく笑うイザヤの声が聞こえ、冷や冷やしたアイリスは安堵する。同時に心の中でライアスに礼を言い、この場を切り抜けたことに感謝する。


 ふぅ、と嘆息したアイリスは長い廊下の突き当たりにある硝子戸を開けて庭園へと出た。イザヤを通し、花で左右を飾られた小さな歩道を歩き、東屋(ガゼボ)へと辿り着く。

 

 白い建材を組み合わせて作った質素なパビリオンの中では、既に椅子が二脚用意されて菓子の類も揃っていた。素早い仕事してくれたシシアたちに感謝しつつ、イザヤを招いて東屋に入る。


 第二王子が椅子に座るのを確認したアイリスは自らも席に着き、話を始めるべく促した。


「殿下、本題のお話に参りましょう」


 イザヤは一転、真剣な面持ちになって語り始めた。


「そうですね。まず僕がここに来た理由は……」



 


 

連日投稿できてますね〜!


次回はもっとシリアスな話です✨

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