表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
21/45

19・歴史好き伯爵子息は悩むだけ

 

「ふわぁ...眠いなぁ...」


 僕________ウィリアム・アース=ティフェルバーニャは眠気を感じて目を擦りながら、大きな欠伸をしていた。今日は夜明け前に起きてしまい、しかも全然寝れなかったので仕方がなく【シェイストーム帝国伝記】を読んでいたのだ。しかしそれが予想以上に面白く、思わず読み耽ってしまっていたのだ。


 本の上に覆い被さるように寝ていた僕は、伸びをして身体を解しつつ、棚に本を戻した。

 ふと時計を見てみると、もう朝はとっくに過ぎていた。一瞬顔を青くしたものの、壁に掛けてあった予定表になんの記入もされていないことを確認し、安堵する。


 バスローブを脱ぎ捨て、部屋の中で一糸纏わぬ姿になる。その姿のまま窓を開け放ち、部屋の換気をしながらのんびりと着替えをする。

 今日は公務や勉強の用事もないため、白い木綿の服に半ズボンというラフな格好を選ぶ。


「......はぁ、それにしてもあの夢は一体...?」


 気になったのは昨夜視た夢のことだ。

 確か『アーヴェナ陛下』という人物が民衆に讃えられている姿や、彼女が魔法陣(?)に飲み込まれて消える場面や、怪しげな人物と夢の中で目があった______とかいう、意味不明な夢だったはず。


(にしても、『アーヴェナ』か...)


 聞き慣れない名前を脳内で反芻する。

 偶然ではあろうが、シェイストーム帝国を統一した女性騎士の名前もアーヴェナだったはず。

 奇妙な一致に違和感を覚えたが、そういう系統の話をあまり気にしない僕は適当に結論づけた。


(...ま、どっかで『アーヴェナ』という名前を聞いたから夢に出できたんだろうな。だけど流石にあの男は怖かったな......漏らしてなくて良かった......)


 ぶんぶんと頭を振り、不気味な男の姿を記憶から消し去る。男の姿を思い出した瞬間、妙な胸騒ぎを覚えたものの、既に記憶の中の男の表情は思い出せなかった。というか姿形も朧げだ。


 気を取り直した僕は、部屋に設置された呼び鈴を鳴らして起床を知らせる。この呼び鈴は使用人室と直に繋がっており、何か用事があればこれでメイド達を呼ぶことになっているのだ。


 もう昼時に近いが、一応軽めの朝食はとっておこうと思い、部屋にやってきたメイドに命令を出した。既に用意がなされていたのか、朝食はすぐに運ばれてきた。


 二斤の葡萄パンに、少量の冷製コーンスープ、そして大きな目玉焼きだ。

 朝食は少なくていいと言ったが、この食欲を掻き立てる香ばしい匂いは僕の腹の虫を鳴らした。特にうち(ティフェルバーニャ)のシェフが作る目玉焼きには特産品の特別な卵が使われているため、何度食べても飽きない絶品の一品となっている。

 冷製のコーンスープは初夏の暑さにはピッタリ、そして葡萄パンは僕の好物と至れり尽くせりだ。


 メイドに礼を言って、早速自室で食事を摂る。

 外出先では仮にも貴族であるため、徹底されたマナーの下で食事をしなければならない。しかし部屋の中では別。


 普段なら下品と言われるような、本を読みながら食べたりだとかナイフを使わずにフォークだけで切り分けたりだとか、そういったマナーに縛られない行動ができる。

 ......まぁ知り合いの中には普段の生活まで堅苦しいマナーを律儀に守っているのもいるが、僕はその類ではない。


 そんなことを考えつつ、左手で葡萄パンを摘んで、右手で【シェイストーム帝国伝記】のページを捲る。

 ちょうど今は統一に成功したアーヴェナ=シェイストームが、諸外国と農業関連で駆け引きをしている場面だ。


(ふぅん.....しかしまぁ、よく3つの大国を相手取って正面から交渉を挑もうと考えるよな。勢力を広げている真っ最中の国は『基盤が整っていないが故に脆弱な部分を持ってる』って言われてたはずだが...)


 当たり前のことだ。

 発展途上ということはつまり、内部で強固な繋がりがあるとは言えないということと同義なのだ。

 ただそのハンデを物ともせず、侵略を進めたアーヴェナ=シェイストームの手腕には、何か特別なものがあったのだろう。


 口に冷たいスープを含みつつ、ぼんやりと考える。


(...というか、そもそもこれは大昔の話なんだよな...うわぁ、なんか情けない...)


 確かこの大国制圧をしたのは、紀元前200年頃だったはず。今がちょうどフェゾス暦672年のはずなので、約900年も前の話だ。


 14歳になってからちょっとしか経っていない僕にはあまりピンと来なかったが、そもそも漠然的に『900年前=大昔=原始時代』と捉えていた自分を恥じる。今と同レベル、もしくはそれ以上の文明を誇っていたシェイストーム帝国の例を見れば誰だってそう感じるだろう。


(...というかやべぇこれ、すごい面白い...!)


 こうして僕は左手で食事を、右手で本を持ちながら器用に朝食の時間を過ごすのだった。


 ♡


 彼此しているうちに、半刻が経った。

 食事を終えて、呼び鈴を鳴らしてメイドに食器を下げさせる。

 そして僕は、次に何をしようか考え始めた。


 ふと机の端に目を遣ると、そこには積み重なった手紙や書類の山があった。ついこの前、フェルヴェルフォン伯爵家の令嬢であるアイリスと共に『中央商会』へ商談に行ったことを思い出す。


 ......正直にいうと、僕の出番はほとんど0だった。

 なぜなら交渉から契約金の相談まで、何から何まで全てアイリスが行ってしまったからだ。しかも、僕も彼女も、そして相手の『中央商会』すらも一切損を出さない契約を取り付ける、という卓越した手腕を見せつけられた。


(......それにしてもあそこまで威圧的に交渉に出るなんて、よっぽど自分のワインと薬に自信があったんだろうな......)


 僕自身も、アイリスには『万能回復薬(エセス・ポーション)』の材料となるマンドラゴラを提供したが実際に薬を作り上げたのは、他でもないアイリスその人だという。


 卓越した交渉術、一人で高難易度の薬物を製造する、そして極め付けに最高級ワインの製造。

 分野は様々、しかしその全ての出来が恐ろしく素晴らしいものなのだ。


 ______才女。


 思わず、あの愚鈍な外見には似つかわしくない言葉が脳裏に浮かんだ。

 姉や噂で聞いた『アイリス=フェルヴェルフォン』とは全く違う姿に、一度彼女に問いかけてしまったことがあったがその時の彼女の反応は、全くもって自然なものだった。


(......そうか、もしかして失恋でもして性格が悪くなったのか?実は根は優しくて、才色兼備なヤツだったり...?)


 窓の外を眺める僕の脳裏に、彼女の髪と眼の色を受け継いだ全くの別人の像が構成される。

 華奢な身体に、溢れんばかりの魅力を醸し出すその()()()を平坦な目で見つめる。

 しばし考えて、一言。


「ないな」


 ♡


「ッッッ!! 今誰か私のこと馬鹿にした!?」

「どっどど、どうされましたお嬢様、突然お怒りになられると危ないです!?」

「別に怒ってなんか_______えっ?あーやばいやばい引火した! ちょっと水! 水早くほら火! 火でてるってぇぇぇぇえええええ!?」


 ♡


(......一体、あいつは何者なんだ。ただのデブス伯爵令嬢なのか、それとも...?)


 腕組みをして考えるが、一向に答えが出ない。眉間にしわを寄せて思案に耽る僕だったが、パッとあることを閃いた。


(...ッ!そうだ、オフの時の姿を見に行けばいいんじゃないのか?これなら、僕に気を遣って態度を変えているのかそうじゃないのか分かる!かも!)


 ピッカーン!、と頭上で豆電球が光った。


 善は急げ、とばかりに支度を始める。

 今回はお忍びで行くため普段の格式ぶった正装はしない。なんてったって、バレちゃいけないのだから。


 急遽メイドたちを呼び出し、クローゼットの奥深くから長年来ていなかった私服を出してもらう。

 数枚あるうちから、黒っぽい半袖のシャツを取り出して瞬時に着替える。

 しかしいざ来てみると予想以上にサイズが大きいことがわかった。袖や首回りもだぼだぼだが、この際贅沢は言ってられない。


 ......なぜこんなに急いでいるかというと、この前アイリスと今後について話し合った時にこんな会話があったからだ。


『じゃあ、木曜日とかはどうだ?明後日だが、中央商会の手続きは終わってるだろ』

『あー、私その日は無理ですね。領内でのイベントが午後からあって、ちょっと広場に出向かなきゃいけないんですよね〜』

『ふーん。何時までやるんだ?』

『日が沈むくらいまで、ですかねー』

『ふーん』


 現在時刻は正午前、初夏で日の沈みが遅れてるとはいえこの平日の真昼間に馬車を走らせるとなると、十中八九渋滞に巻き込まれるだろう。


 その旨をメイドに伝えると、その中の一人が迅速に行動してくれたらしい。僕が着替え終わり、最低限の荷物を持って屋敷から出た時には既に馬車がスタンバイしていた。


 御者は執事のベルディヒが務めるようだ。

 彼には僕が幼い頃からずっと世話をしてもらっていて、ある意味では父上より頼り甲斐のある存在と認識している。

 しかし庭師の仕事も御者の仕事もなんでもこなせるという、万能ぶりにいささか戦慄を覚えるが...。


「坊ちゃん、用意しときましたよ。行き先はフェルヴェルフォン領でいいんですね?」

「あぁ、頼む」


 僕が馬車に乗り込むと、ベルディヒはからかうような口調で尋ねてきた。


「最近よくフェルヴェルフォンに行かれますよね。あそこの令嬢さん......アイリス嬢とは、仲良くされていますか?」

「仲良く?」

「えぇ、そうですね。()()()

「......いっ、いやいや、ただの仕事仲間だ!」


 ふん、とそっぽを向いた僕を見てベルディヒはからかう様に笑っていた。ムカつく。


 そんなやり取りをしながら、窓の外を流れる景色を見る。

 今日は晴天、雲ひとつない空が遠くまで広がっている。そのせいで直射日光が容赦なく照りつけているので、内陸部に位置する領地の人々は苦労していることだろう。

 まぁ、うち(ティフェルバーニャ)は海に面しているから潮風の影響で暑さは軽減されるのだ。つまり海最高、って話だよ。


 ♡


「坊ちゃん、着きましたよ!」

「......あぁ」


 馬車が着いたのは、フェルヴェルフォン伯爵領を一直線に横切る大通りから少し外れた脇道だ。

 渋滞を避けるルートで来たため、あまり人のいない薄暗い通りへと到着してしまった。


 馬車から降りた僕はまだ日が暮れていないのを確認し、ベルディヒにここで待機するように命じた。

 メイドたちの付き添いは断り、一人で大通りのイベントがやっている場所へと向かう。


 フェルヴェルフォン伯爵領の大通りはいつになく、大勢の人々でごった返していた。

 彼らの話を聞いてみると、どうやら領地で年に一回行われる豊穣祭の前夜祭的な感じのイベントが行われているようだ。

 確かに豊穣祭となれば、伯爵家の面々も顔を出さなくてはならないだろう。


「......どこだ? これだけ屋台が出てるんだから、どこかしらにいるかと思ったが......」


 改めて考えてみれば、かなり無計画だった。

 アイリスが豊穣祭に顔を出しているからと言って、別に街中巡りをしているとも限らないし、もしかしたら家で引きこもっているかもしれない。


(......あぁちくしょう、失敗したかな)


 自分の無計画さに肩を落としつつ、雑踏の中で首を伸ばし、見知った顔のデブス伯爵令嬢を探す。

 そんな時だった。


「......ん?」


 ある店の前で、幼い女の子が一人で立ち止まっているではないか。手には人形を抱え、何故か泣きじゃくっている。

 基本的に事勿れ主義の僕は一瞬立ち去ろうと思ったが、良心がそれを許さなかった。小さく溜息を吐き、少女の元へ雑踏を縫って歩いて行く。


「......どうした。何かあったのか?」


 気の利いた台詞が言えなかったのが苦々しく思ったが、蹲み込んで目線を合わせて尋ねる。


 その少女は突然僕が現れたことにびっくりして一瞬泣くのをやめたが、直ぐに泣くのを再開してしまった。

 無論、返事はない。


(......困ったな。たぶん、親と逸れたとかそんな感じだろうけど......)


 そこで質問を変えた。


「もしかして、お母さんやお父さんとかと逸れたのか?」

「......うん」


 泣きながら僅かに頷く少女。

 どうやら前夜祭に訪れた時に両親と逸れ、ずっとこの場所で待っていたらしい。その情報を得た僕は、しばらく考えた後、少女にゆっくりと伝えた。


「いいか、僕はこれから、助けを呼んでくる。だからここで待っているんだ、いいね?」


 コクリ、と頷く少女の頭を軽く撫で、近くにあったベンチに座らせる。一応退屈しないように、持ってきていた飴を持たせてその場を去る。


 これから向かうのは、伯爵領の役所だ。迷子の届けなどもそちらに出すはずなので、職員を呼んで来れば話は済む。

 今頃両親も血眼になって探しているだろうな、と思いつつ走って、フェルヴェルフォン伯爵領の市役所のある建物を探す。


 ♡


 数分後、僕は役所の女性職員を連れて少女の元へ戻っていた。迷子の知らせは届いていなかったようだが、じきに届くだろうと思われたため、少女は一度役所で保護されるらしい。


 慣れない道を辿って、なんとか大通りまで出た時、僕はふと足を止めた。

 少女は未だにベンチに座っていた。

 しかしその隣には、見知った金髪碧眼の誰かさんが並ぶようにして座っているではないか。


 ザザッ!!、と慌てて建物の陰に隠れる僕の行動を見て、女性職員が訝しげな目をする。


 おそるおそる二人のやり取りを見ていると、そんな緊張は直ぐに消え去った。

 誰かさん______アイリス=フェルヴェルフォンは、少女の隣で何かを頻りに少女に話しかけていた。

 その顔には笑顔が浮かんでおり、いつの間にか泣きじゃくっていた少女も笑顔になっていた。

 どうやら、アイリスも少女が迷子だということを知って相手をしているらしい。


 なんだか朗らかな雰囲気が漂うその場面を見た僕は、心の中でひっそり呟く。


(......アイリス=フェルヴェルフォン。やっぱり、悪いやつじゃないんだな......)


 子供に優しくできるヤツに、悪いヤツはいない。


 そんな言葉を思い出しつつ、僕はふっと微笑んだ。女性職員に場所を指差して少女の居場所を伝えると、すぐに馬車があったところまで戻る。


 馬車に乗り込み、ほっと一息つく。


 やっぱりアイリスは悪いヤツじゃなかった。というか、むしろ良いヤツの部類に入る。

 そう、ということは。


(......あぁ、じゃあこれから豚って呼ぶのも控えないとな。普通に『アイリス』って呼ぶか...?)


 そういえばこの間、フェルヴェルフォン領の山の上で話をした時には勢いで『アイリス』と呼んでいたが、今思い返してみれば大分恥ずかしい。


 これは徐々に呼び方を変えて慣れるしかないな、と考えつつ僕は溜息を吐くのだった。



お久しぶりです...!

今回もお読みいただき、ありがとうございます!!

皆様からの評価やブックマークが、執筆活動の原動力となっております。『また読みたいなぁ』、と思った方はぜひぜひブックマークをッッ!


今回は後書きにアイリスとウィリアムからの、ちょっとしたメッセージも盛り込んであります。

それではどうぞ✨



「あっ、あー?聞こえてます?」

「聞こえるも何もちゃんと向こう側のヤツらは見てるだろ、アイリス」

「あぁ、そうですね」

「じゃあ始めるか」

「えぇ」


「ごほん、えー、本日まで【女魔王様は恋がしたいだけ】を読んでくれた皆様にはほんとーに感謝しております!」


「『稚拙な作者の文章を、300人を超える方がブックマークをしてくださり、30人を超える人が評価をして来れてとても嬉しく思います』」


「えーですが、しかし、作者は諸事情により執筆活動を暫く停止することとしました」


「『でも安心してください、3月の上旬には必ず帰ってきます。学年末考査が終わるので』」


「なので、それまでどうか待っていてください」


「『みんなが楽しみにしてると分かれば、作者も勉強により一層力を入れられます』」


「だから待ってて......っておいウィリアム!! さっきからカンペ見てんじゃないわよ!!」


「うっわー、バレたー(涼し気)」


「うっせぇ!!(迫真)」


...というわけで、三月上旬には戻ってきます。

それと同時に【新シリーズ】も開始する予定なので、どうかお待ちください。


これからもご愛読いただければ幸いです...!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ