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勇者、食卓を囲む

「おかわり!」

「はい、ただいまお持ちしますね」


 人が十人は座れそうなテーブルに並べられたたくさんの料理。

 忙しなく手を動かすブリスを横目に、俺は野菜スープのようなものを一口啜った。

 野菜の旨味が余すことなく活かされている。同じ材料を使っても同じようには出来る気がしない。

 美味い。久しぶりに料理と呼べる料理を食べた気がする。


「おかわり、いかがですか?」

 

 気付けば手にした器は空になっていた。

 これじゃブリスのことを笑えんな。俺は器を手渡しながら苦笑する。


「……あむ、あむ」


 俺を挟んで左側、ブリスや俺とは違ってゆっくりと食事を取るアコ。


「おばさん、これもおかわり!」

「ふふふ、それだけ元気に食べてもらえると作った甲斐があるわ」


 あれだけあった食事があれよあれよと無くなっていく。

 ブリスは普段からよく食べる方だが、今日は目に見えて顕著だ。まぁこれだけ美味しい食事なら仕方ないか。

 しかしいつも思うのだが、この小さな身体のどこにこれだけの量が入るのだろう。

 

「……ん? ボクの顔に何かついてる?」


 視線に気付いたブリスが、器を置いてこちらを見つめ返す。

 シチューによって出来た白髭を隠そうともしない。

 視線の意味を誤魔化す必要もないくらい付いてやがる。

 

「ちょっと動くな」

「……んゆ」

「ほら、取れた」

「ん、あんがと」


 食い意地を貼るのもいいが、少しは行儀よくしとけよ。

 なんてことを言おうかとも思ったが、水を差すようで悪い気がしたのでやめておいた。

 

「それでさ、イーク」

「……とりあえず、口の中の物は飲み込んでから話せ」

「んぐ……それでさ」


 口の周りをパスタのソース塗れにさせながら何か言おうとするブリス。

 こいつ全然人の話を聞いてないな。


「おう、なんだ」

「これからどうするの?」


 口回りをぺろりと舐めながらブリスが聞いてきた。

 これからのことか、確かに考えていた方がよさそうだな。

 俺はブリスの前に追加された肉料理に手を出しながら、料理を運んできた少年の母に尋ねてみる。


「そうですね……この辺りで大きい街と言えば、洞窟を抜けた先にある辺境の都でしょうか」

「辺境の都……」

「この地域を治めている貴族様がお住まいの都ですので、情報収集にはもってこいだと思います」


 いきなり有力情報が得られた。

 人助けってのもしてみるもんだな。


「よし、そこに決まり!」


 骨付き肉の残骸を皿の上に放り投げながら、ブリスが指をぱちんと鳴らす。

 からんと軽快な音が部屋に響いた。


「お前が勝手に決めるな」

「えー? 他に何かあるのイーク」

「いや、ないが。こうなんて言うか、形式的なもんだ」

「ふーん」


 いかにも興味なさげな顔でこちらを見返すブリス。

 こういう場でぐらい主導権をくれって話だ。

 

「アコちゃんはどう?」

「……問題ない」


 もさもさとサラダを頬張っていたアコが答える。

 お前はお前で気配が無さすぎだ。

 言いたいことはちゃんと言っていいからな。


「……別に」


 そう答えるとおかわりのサラダをもさもさと食べ始めるアコ。

 分かりやすいのも問題だが、分かりにくいのも問題だな。


「ふー、お腹一杯だぁ」

「……ふっ」

「ん、なに笑ってるの?」

「いや、なんでも」

「むー、なんだよー」


 分かりやすいほうがやりやすくていいな。

 ブリスを見ながらそんなことを俺は考えていた。

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