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勇者、新たな仲間を得る

「……勇者、様」

「うむ、勇者様!」

「……やめてくれ、それ」


 妙な自信に満ちたブリスの言葉を手をひらひらと振って躱す。


「誰彼構わず勇者と触れ回るのは今後やめろよ」

「えー」

「えーじゃない」

「……」


 少女が俺とブリスを交互に見ながら目をぱちくりとさせる。

 俺が勇者なこともブリスが魔法使いなことも、奇妙に見えて仕方ないのだろう。


「……私は、僧侶……アコ」


 俺たちのやり取りが一段落したのを見てから少女……アコが改めて自己紹介をしてきた。

 格好通りの役職。実は戦士です、とか言い出されたほうが面白くはあったが。


「僧侶ってことは、回復魔法とか得意なんだよね?」

「……一応、一通り」

「いいなー、ボクそっち系統はからっきしなんだよー」


 腰に手を当てながらにししと笑うブリス。昔から感情がコロコロ変わるやつだ、さっきまでの不機嫌もどこ吹く風。

 相変わらず無表情に見えるアコは綺麗に対照的だ。


「ねえ、イーク」

「なんだ」

「アコちゃんにも一緒に来てもらおうよ」

「……は?」


 突然突拍子もないことを言い出したブリス。流石に俺も予想外で思わず呆けた声で聞き返した。


「イークの回復魔法もさ、基本的なのしかないわけじゃん」

「悪かったな」


 確かに俺の回復魔法は初歩の初歩、それこそかすり傷の治癒くらいしか出来ない。それは補助魔法も同じこと。

 それを考えれば確かに今後旅を続けるならばきちんとした回復役も検討したほうがいい。

 加護を受けている俺と違って、どんなに強くてもブリスは生身の人間だ。


「もー、そういうことが言いたいわけじゃなくてさ」


 ブリスが口を尖らせてから、もう俺のことはいいとばかりにアコへ近づくとその手を取った。


「アコちゃん、一緒に旅しない?」

「そんなこと突然言われて答えれるわけが……」


 俺の数少ない役割が奪われるだろ、なんて情けない言葉は口が裂けても言わない。

 

「……」


 ブリスの言葉にアコは目をぱちくりさせてから俺の方を見て、それからもう一度ブリスの方を見る。

 そして、ゆっくりと頷いた。


「やりぃっ」

「なっ……お、おい。本当にいいのか?」

「……うん、いい」


 まさかの展開に俺は狼狽えた。

 もちろん役割どうこうの話ではない。ないって言ってるだろ。


「恩を返すためとか、気にしなくていいんだぞ?」

「……」


 今度はゆっくりと首を横に振るアコ。

 そういうことではないらしい。では即決の理由とはいったい。


「……魔法使いのこと、気になる」

「ボク?」

「……ん。だから、着いてく」


 今度はブリスが目をぱちくりさせ、アコを見つめる。

 それからなぜか、俺の方を向いた。なぜにこっちを見る。

 さらに俺を見ながらにんまりと笑う。なぜにこっちを見ながら笑う。


「やったねイーク、ヒーラーゲットだよ」

「……そう、だな」

(また影が薄くなるな……俺、勇者なのに)

「これからよろしくね、アコちゃん」

「……ん」


 アコの腕をぶんぶんと振り喜ぶブリス。

 俺たちのいた村の子供は俺とブリスくらいなものだったから、同性で年齢の近い人間に出会えて嬉しいのかもしれない。


「あ、そういえば」

「……?」


 ブリスが思い出したように背中に手を伸ばす。

 そこには普段背負っている斧の他に、見慣れぬ杖が下げられていた。

 よく見る僧侶用の杖と比べるとやや細身の杖。


「これ、アコちゃんの?」

「……あ」


 アコはゆっくりベッドから立ち上がると、杖を受け取った。

 先端にあしらわれたガラス玉が光を反射してきらりと光る。


「……あり、がとう」

「たまたま通り道に落ちてたから拾っただけだけどね」

「荷物も無事だったか?」

「うん、ばっちり」


 ブリスがピースをしながらにっこりと微笑む。

 そこでまたドアの方から音がした。今度はきちんとノック付き。


「食事のご用意ができましたので、よろしければどうぞ」


 さきほどの母親の声。

 わざわざ食事の用意までしてくれていたのか。


「わーい! ごっはん、ごっはん」 


 声の主に付いてブリスは部屋を出ていってしまった。

 まったく、食べ物に弱いやつめ。


「俺たちも行くか」

「……うん」


 杖を越しに携えなおすアコ。

 その姿を見ていた俺は、ふと浮かんだ疑問を口に出す。


「お前はその杖で魔物を撲殺したりしないよな?」

「……」


 俺の問いかけにアコは立ち止まり、少し言葉を溜めてから、小さくだが確かに頷いた。

 そうだよな、うん。やっぱりあいつが特別おかしいだけだよな。

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