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勇者、出会う

「ふぅ、お腹いっぱい」

「保存食が多くて助かったな」


 港町から半日ほど進んだ場所で、俺たちは野営していた。

 火を焚き、結界を貼る。それだけで低位の魔物は寄り付かなくなるのだ。

 元々は獣で魔王の魔力により変質したものが多いからなのだろう。


「料理するのも嫌いじゃないけどね」

「……料理?」


 聞き間違いでなければ、料理と聞こえたので俺は思わず聞き返してしまう。


「お前のは料理というより、錬金……いや、魔術だろ」

「……イークだって、食べ物の見た目残ってたことないくせに」

「俺のは食べれるからまだマシだろ。お前のは毒か炭の二択……」


 言葉の途中で俺の身体がふわりと浮き上がった。襟首がきゅっと締め付けられる


「……うー」


 ジト目で俺を睨みつけるブリス。燃えるような赤い髪とは対象的な青い瞳が揺れている。

 機嫌が悪ければ即投げ飛ばされていたかもしれない。

 だがこの目をするときは、どうしたらいいか本人の中でも決めかねている。小さい頃からよく見てきた表情だ。


(あーあー、俺も弱いなこの目に)


 こういう時は俺が折れてやらないと、ブリスはいつまでもこのままだ。


「すまん、悪かったよ。言い過ぎた」


 身体を浮かされた状態なのが実に格好付かないが、俺はブリスの頭をぽんぽんと撫でながら宥める。


「……料理は頑張って練習する」

「お、ぉぅ……」


 試食に付き合わせるのは正直勘弁なのだが、その向上心だけは認めてやろう。

 余計なこと言って投げ飛ばされたくないわけじゃないぞ、断じて。


「それでさ、明日からはどうするの?」


 気持ちが収まったのか俺を地に降ろしたブリスが、焚き火の前で寝転がりながら聞いてくる。

 やっと地に足付いた俺はその対面に腰掛け、空を見上げる。


「そうだな……魔王が復活したのは間違いなさそうだし、とりあえずこのまま街道沿いに進んで地道に情報を集めるしかないな」


 魔王を打ち倒す存在ならば、その居場所を感知するような力もあればよかったのだが。

 しばらくはアテのない旅になるだろう。


「ボクとイークなら大丈夫だよ、きっと!」


 ブリスの満面の笑み。

 確かにこいつと一緒ならきっと大丈夫。

 そう思えるのはブリスの強さだけが理由ではない。


「それじゃとりあえず、今日は寝るか」

「うん、おやすみぃ〜」


 野営など初めての事なので眠れやしないのではないかと不安だったが、身体は疲労に正直で意識はすぐに闇の中へ落ちていった。

 


「この先の町はどんな所なんだろうね?」

「さあな、港町より先に行ったことなかったし」


 昨日野営した位置からそこそこ歩いてきたが、まだ次の町は見えてこない。

 ちなみに故郷から港町に着くのにかかるのは半日ほど。

 本来は馬車なんかで移動するものなのだが、魔物が活発になってからというものそれらを見かける機会も減ったものだ。


「……ん」


 ふいに、ブリスが足を止めた。

 多分俺と同じ理由で足を止めたのだろう。

 俺たちは耳を澄ます。


「──ぇーん──」


 道を外れた森の中から、微かな子供の鳴き声が聞こえた。

 

「イーク、今のって」

「ああ、急ぐぞ」


 声のした方向を頼りに、森の中を突き進む。


「うえーん!たすけてぇ!」


 今度ははっきりと声が聞こえた。

 茂みを抜けて躍り出た先で、俺とブリスの目に泣きじゃくる子供とその子供を庇うようにして膝を付く少女の姿が映る。

 

「ケケ、ケケケケッ」

 

 そんな二人を取り囲むように、植物型の魔物が多数。

 ちょうど俺たちは子供の背中側から現れた形だ。


「ブリスッ」

「うん、分かってる!」


 俺の言葉よりも早く、ブリスの身体が一筋の線に変わる。

 それに遅れること数秒、俺も剣を抜き放ちながら子供を庇う少女を更に庇うように前へ出る。

 盾になるぐらいなら俺でも出来るはずだ。


「……あなた、たちは」

「説明は後だ、とりあえず……」

「うるああっ!!」


 目の前で旋風が巻き起こり、斧の通り道にいた魔物の群れが次々にただの木屑に変えられていく。

 盾になる必要性すらなかったらしい。


「……よかっ……た」


 小さく少女が呟いたかと思うと、その身体ががくんと崩れ落ちた。

 すんでのところでその身体を受け止め、無事を確認する。どうやら緊張の糸が切れただけらしい。

 ブリスと違い、癖っ毛の無い艷やかな黒髪。

 そしてブリスとは大違いの……


「……随分とお楽しみみたいだね」

「はっ」


 気付けば魔物の気配は消え失せ、事を終えたブリスが目の前に立っていた。


「いや、お前。これは不可抗力ってやつで……」

「ふんっ!」


 弁明の余地もなく、俺の顔面に拳が叩き込まれる。

 前が見えねぇ。


「さてと……キミ、このあたりの子?」

「……うん」

「おうちまで案内してもらえるかな」

「……こっち」


 図らずも次に行く場所の目処がたった。

 俺はブリスを一瞥してから、未だ目覚めぬ少女を背負いあげる。

 またいつ魔物が襲ってくるか分からない。

 となればこの役割分担はいつも通りだ。

 だから他意はない。ない、はず。

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