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勇者、上着を貸す

「うー、寒い寒い」

「……雪」


 あれから歩くことしばらく。

 雪山の頂上が地上から確認出来なくなったあたりで雪がちらつき始める。

 ローブのような司祭服のアコは平気そうだが、腕も脚も見えているブリスはもろに受けていそうだ。


「火でも付ければ温かくなるかな……?」


 ぶるぶると身を震わせながら物騒な事を言い出すブリス。

 手元を温める程度で済めばいいが、今のブリスにそんな器用な真似が出来るとは思えない。

 

(仕方ないな)


 ブリスが暴挙に出る前に、俺は手を打っておく。


「ほら、とりあえずこれでも着て落ち着け」

「わぷっ……」


 俺が着ていた獣革の上着。

 厚手ではないが、ないよりはずっとマシだろう。


「……イークは寒くないの?」


 頭に被せられた上着を羽織りなおしながらブリスがそう尋ねてきた。

 

「お前よりはな」


 再びアコとブリスの恰好を見比べてから答えてやる。

 町に着いたら早急に防寒着を買わないとな。


「ありがと、イーク」

「おう」

「……暑い暑い」

「なにか言ったか?アコ」

「……特に」

「しっ、二人共……」


 会話の途中で唐突にブリスが人差し指を立てた。

 

「む……?」

「……足音」


 状況を掴み切れていなかった俺は、アコの一言で方向を合わせて耳を澄ませる。

 そこで俺にも聞こえた慌ただしい足音。

 何かに追われるような荒い、滑車のこすれるような音もどんどん近づいてくる。


「来る!」

「……来る」


 二人の声とほぼ同時に、すぐ傍の草むらが割れて荷車が飛び出してきた。

 荷車を引く青年と、荷車にしがみ付く少女と、今まさに飛び掛かろうとしている魔物の姿の三つが映る。


(なんだこの魔物は……)


 青白い炎に手足を生やしたような外見は、元となった生物が全くイメージ出来ない。


「でやあっ!」


 悠長に構えていた俺をしり目に、ブリスが魔物へ先制攻撃を仕掛けた。

 飛び掛かる動作で宙にいた魔物へ放たれた一閃は魔物を横薙ぎにしいつも通り一撃。


「なっ……」


 とはならなかった。

 胴体を真っ二つにされた魔物は一瞬動きを止めたが、すぐに一回り小さい二体の魔物となって立ち上がった。


「……まさか、エレメンタル?」


 荷車を背後に守る位置でアコが呟く。

 エレメンタル。

 大地に眠る魔力を魔法に変換する際に生まれるとされているエネルギー体。

 本来はそのままゆっくりと再び大地へと吸収されるはずのものだ。


(そういえば、昔に一度だけ見たことがあったか……?)


 あれは確か、俺とブリスが魔法を習いたての頃。

 今以上に魔法の制御が苦手だったブリスが魔法を使った時に、大量に湧いて出たのだ。

 しかしあの時見たエレメンタルはもっと小さな光のようなもので、少なくとも襲い掛かったりはしてこなかった。


「そっか、エレメンタル……」


 魔物化したエレメンタル二体がじわりじわりとにじり寄ってくる。

 これが普通の斧使いであったならば、苦戦は必至だったのかもしれないが。


「それなら話は簡単っ」


 地面に突き立てた斧を中心に詠唱を始めるブリス。

 アコもそれを見て防御呪文の準備を始めた。

 俺もそれに倣い横に並んで詠唱をする。


「雷鳴よ、敵を撃て!」


 斧から地面を伝って走った電撃が二体の魔物を襲う。

 流石に今度は四体に増えるようなことはなく、そのまま消滅した。


「す、凄い……」

「……」


 驚嘆の声を漏らす青年と、驚いているのか無言の少女。

 この二人は麓の町から来たのだろうか。とりあえず話を聞いてみるとしよう。

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