勇者、飛ばされる
雪山を目指し歩を進める俺達。
目下の目的地は麓にあるらしい町だ。
(魔物の被害がなければいいんだが)
あれだけ狂暴な魔物の大群がいた場所だ、何があってもおかしくはない。
そんな事を考えていると、歩みも少し早くなってくる。
「獣道みたいになってきたね」
伸び放題の草を踏みしめながら呟くブリス。
膝下辺りまで伸びた野草を見ると、人の往来がだいぶ減っていることを感じさせられる。
「……任せて」
俺とブリスが拓いた道を進み、一歩先へと歩み出るアコ。
「……風よ」
小さな詠唱と共に放たれた剣での一閃。
その切っ先から出た衝撃波が道を作っていく。
「おー、お見事!」
「……御粗末」
ブリスの拍手に剣を鞘に戻しながら答えるアコ。
(魔法剣の応用か)
出会い頭の戦闘でも使っていたのを見たが、こんな使い方もあるとは。
教われるものなら今度教えてもらいたいものだ。
「よーし、それじゃボクも……」
関心する俺の隣で聞こえた不穏な声。
「おい、ブリス……!」
「風よ!」
止めようとした俺の動きも空しく詠唱は一瞬のうちに完了し、前に飛び出した俺と草木を巻き込んで暴風の塊は突き進んでいく。
「だ、だいぶ抑えたつもりだったんだよ。本当だよ?」
「……だろうな。本気なら今頃山頂だ。
天地逆転の態勢で身動きの取れぬ俺にかけられた申し訳なさそうな声。
結構な距離を飛ばされたと思ったが、ブリスとアコはすぐに追いついてきた。
そういう意味では道を拓く手段として大成功だったのかもしれない。
「すまんが、降ろしてもらってもいいか」
情けない話だが二人が来るまでに抜け出そうともがいた結果このありさまだ。
自分の力ではもうどうしようもこうしようもない。
「よーし、任せて」
俺の言葉を聞いて、待ってましたと言わんばかりに斧を構えるブリス。
「……丁寧に頼むぞ」
「わ、分かってるよ……てやっ!」
逆袈裟に切り上げ、そこから逆方向へと振り下ろす。
大振りな動きに反して衝撃はほとんどなく、注文通りの動きをしてくれたらしい。
注意喚起していなかったらどうなっていたかは分からないが。
「……?」
受け身を取ろうと身構えていた俺は、突如感じた浮遊感に目を丸くする。
そのまま俺の身体はゆっくりと、背中側から地面に着地した。
「ふふん、今度は上手くいったね」
「……お見事」
ぱちぱちと手を叩くアコと、ドヤ顔で無い胸を張るブリス。
なるほど、どうやら風の魔法をクッションにしてくれたらしい。
流石にこのくらいは俺でも平気だったのだが。
「ありがとな、助かったよ」
ヘソを曲げられても困るし、助かったのは確かに事実だ。とりあえずは礼を言っておく。
「ねぇ、さっきの移動に使えないかな? 今度は失敗しないと思うんだ!」
感謝の言葉を聞いてなのか、ドヤ顔のまま提案してくるブリス。
それを受けて俺とアコは顔を見合わせる。
特に打ち合わせもしていないのだが、俺とアコの動きは同じだった。




