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勇者、照れる

「あ、勇者のお兄ちゃんっ」


 誰かの声に、立ち止まるブリス。

 勇者のお兄ちゃん、確かにそう呼ばれた。

 この中でお兄ちゃんと言えばブリスでもなく、アコでもないわけで。


「だ、大丈夫?」


 俺の事を心配そうに覗き込んでくる少女。

 俺の記憶が正しければ、この少女はあの時鳥型の魔物に捕まっていた子供だ。

 

「あ、あぁ。大丈夫だ」


 また首元がぐっと引っ張られて、今度は真っ直ぐ立たされる。

 さっきの戦いの時といい、情けないところばかり見せているのに勇者のお兄ちゃん、か。

 

(いかんいかん)


 一瞬、少女の何気ない一言まで皮肉に捉えようとしてしまっていた。

 自分の認識以上に領主の言葉を気にしていたのかもしれない。


「……?」


 そんな俺に少女の無垢な瞳が突き刺さる。

 なんだろう、この感じ。素直に勇者扱いされることに慣れていないせいか、妙にこっぱずかしい気持ちになってくる。

 これならまだ皮肉めいた勇者呼びのほうがマシかもしれない。


「えっと、昨日はあるがとうござい、ました?勇者のお兄ちゃん」


 言葉の途中で少し首を傾げながら、どことなく疑問形の言葉と共に頭を下げる少女。

 あぁ、背中までむず痒くなってきた。 


「何か言ってあげなよ、勇者のお兄ちゃん? にしし」


 助けを求めてブリスの方を振り返るも、変に嬉しそうな顔をしながらからかわれただけ。


「こらこら……勇者様、とお呼びするように言ったでしょう」

「あ、ママ!」


 少女の後方から少し遅れて現れた女性。少女の反応を見るに母親だろうか。


「すいません、勇者様。この子が失礼を……」

「いやいや、失礼だなんて」


 今度は勇者様と来た。しかも媚びや皮肉、疑いと言った感情が微塵もない言葉で。


「……もう、行かれるのですか?」


 子供を足元で抱きながらそう尋ねてくる母親の言葉はどこか不安げで、領主の屋敷から出てきたときとは真逆の罪悪感が生まれてくる。

 俺たちがただの冒険者一行であったならば、ここに留まることが出来たのかもしれない。

 それが例え根本的な解決にならなかったとしても。


(でも、俺は……勇者なんだ)


 ちゃんと勇者扱いされて改めて、勇者の使命のようなものを実感させられた。

 とはいえ、何もせず街を出ていくのも忍びない。


「ねぇ、アコちゃん。防護魔法を貼ることって出来る?」

「……少しだけなら防護魔法を貼れる、かも」


 そんな俺の憂いが伝わったかのように、二人が同時に似たような提案をしてきた。


「ぼーごまほー?」


 今度は首を逆の方向へ傾げる少女。


「わるーい魔物が街に入って来れないようにするんだよ」


 左手を腰に当てながら自信満々のポーズを決めて言葉を返すブリス。


「すごーい!」

「そんなことが可能なのですか……?」


 親子がそれぞれで違う反応を返してくる。


「……多分、できる」


 今度はアコが小さく頷きを返した。

 防護魔法は分類的に回復魔法、アコの領分のはず。


「何か不安なことがあるのか?」

「……ん」


 親子と別れて街の端へと到着したところで、どこか歯切れの悪い返事をしていたアコに尋ねてみる。


「……この規模で試すのは、初めて」


 街の全体を一旦見渡してからアコが呟くように言う。

 確かに個人レベルでの防護魔法は局所的なもの、それこそ領主のように建物一つを守るために貼られるものが多い。


「触媒としてならボクも手伝えるかな?」


 同じように街を見渡してから、アコの方へ向き直ってブリスが言う。

 触媒というのは大規模な魔法を詠唱する際に必要となるもので、力の伝わりやすい物やそれ自体が魔力を帯びた物体を使ったりする、らしい。

 受け売りで俺も詳細はよく分かっていないのだが。


「……助かる」


 ブリスの申し出にアコが小さく頷きを返す。

 どうやら触媒というのは物体に限らず人でもなれるものらしい。

 とはいえ、俺みたいなのでは逆効果だろうな。

 

「俺にも何か、手伝えることはあるか?」

「……それじゃ、陣の下準備を」


 俺の申し出にアコが木製の杭を二本渡してきた。


「……街を線で囲う感じに、四隅に立てる」


 なるほど、これなら俺でも役に立てそうだ。


「……逆側の二本は、私たちで」

「合点!」


 勢いのよい返事と共に、ブリスが走っていく。

 その後をついてアコも門外へと出て行った。

 さて、俺も行くとしよう。

 

 

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