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勇者、蚊帳の外

 ゆっくりと景色が流れていく。

 こんなこと昔もあったな。あれは確か、初めてブリスにぶっ飛ばされた時の……

 などと感慨に浸る間もなく、俺の身体は民家の壁に叩きつけられた。


「ぐっ……」


 肺の中の空気が一気に絞りだされて、思わずうめき声が漏れる。

 そのまま倒れそうになる身体を杖代わりにした剣で支えて持ちこたえた。


(さっきの女の子、は……)

「イーク、大丈夫っ!?」


 ブリスが俺の身体を支えるように隣に立つ。

 その小脇には、先ほどの少女が抱えられている。

 よかった、無事で。


「……この程度の街を落とすのに妙に時間がかかっていると思ったら」


 さっきまで俺が立っていた辺りの位置。

 突風を起こした張本人の魔物が、ゆっくりとこちらを向いた。

 さっきまで街の中で暴れていた鳥型の魔物が人の身体を得た、といったような外見。

 しかし体躯はその数倍で、同じ種類の魔物とはもはや呼べない姿をしている。


「魔物が言葉を……」


 俺の頭にも浮かんでいた言葉を、ブリスが先に口にする。

 魔物は基本的に動植物が魔力を自然に帯びる、又は何者かによって受けることによって生まれる存在だ。

 だからこそ、人の言葉を使うのはある程度上位の魔物に限られるわけで。


「我は鳥人王。我ほど高位な魔物になれば、人の言葉など容易いものよ」


 ぎょろりとした目を細めてブリスを睨みつける鳥人王。

 抱えていた少女をゆっくりと降ろすと、ブリスはその視線を真っ向から受け止める。

 

「その斧……貴様が報告にあった勇者か」


 鳥人王はそう呟くと、両腕を組みながらこちらを見下ろしてきた。

 その視線はもちろん、ブリスに向けられている。

 

「随分と余裕ぶってるね!」


 いつものようにブリスが飛び上がり、いつものように斧を振り下ろす。

 そしていつものように魔物が真っ二つ。


「……なるほど、下級の魔物では手も足も出んわけだ」


 にはならなかった。

 雀の涙とはいえ、俺のかけた肉体強化呪文も乗った一撃。

 それが受け止められたのだ。


「ふんっ!」


 両手の爪でがっちりと斧を受け止められたブリスが、そのまま斧を軸にして地面に叩きつけられそうになる。

 

「はっ……轟け、雷鳴!」


 しかしすんでのところでブリスは身を捻りながら斧から手を離し、そのままきりもみ回転しながら詠唱した。

 以前は魔力不足で不発した魔法。

 両手から発された電撃が斧を伝って鳥人王を襲う。


「ぬっ……ぐおっ」


 たまらず斧から手の離す鳥人王。

 そこにすかさずブリスが飛び込み、斧を奪い返しながら再び振り下ろす。


「喰らえっ!」

「ふん、甘いっ!」


 今度の一撃は躱された。地面に突き刺さった斧が地鳴りを起こす。


「ぬんっ!」


 隙だらけになったブリスの腹に、鳥人王の蹴りが叩き込まれた。

 かに見えたが、その一撃は見えない壁をぶち破りブリスの身体を少し仰け反らせるだけに収まった。


「むっ……」

「……間に合った」


 額に押し当てていた杖から顔を離し、大きく息を吐きながらアコが呟く。

 詠唱の連続で疲労が溜まっているのだろう、額には玉のような汗が浮かんでいる。


「くそっ、こやつら……」

「だりゃあっ!」

「ぬぐあっ……」


 ブリスの放った一閃が、鳥人王の片翼の半分を斬り飛ばす。

 バランスを崩して地面へ落ちる鳥人王。衝撃で激しい地鳴りが辺りを襲う。


(……しかし、あれだな。見事に蚊帳の外だ)

 

 

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