第一章 皇子は芸人になれるのか? - 06 - 出会い
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 06 - 出会い
なので起こしてみることにする。
寝ている頭の方に回ってかがむと、上から覗き込むように話しかける。
「よう相棒。いい加減起きようぜ」
まずは軽めのジャブ的な感じで声をかけてみた。
これくらいじゃ起きないだろうな、とそう思っていたのだが。
「寝てねぇよ」
目を閉じたまま、その男は答える。
答えただけで、体の方はピクリとも動かない。
「いや、どう見ても寝てるだろ」
この時すでにニヤつきながらライトがツッコミを入れると。
「寝てねぇよ」
まったく同じ答えが帰ってきた。
もちろん、動く気配はまったくない。
「なるほど、とりあえず寝てないってことにしよう。それじゃ、今なにをやってるんだい、相棒?」
ライトは一旦受け入れた上で質問をしてみる。
すると。
「寝てるよ」
真逆の答えが返ってきた。
「ふむふむ、中々奥が深いね、相棒。でも、なんでここなんだい?」
結局ライトは当然のようにどっちも受け入れた。
そのうえで、新たな質問をする。
「相棒相棒、さっきからうっとうしいなぁ。そないなこと相性の問題に決まってんねん」
目をつぶったまま、男は若干キレ気味にそう答えた。
「なるほど。でも俺は、地面との相性なんてことがあるなんて思わなかったよ」
本気で楽しそうにライトが言うと。
「どこの田舎モンか知らん。けんどなぁ、帝都では常識っちゅうもんやねん」
相変わらず微動だにすることなくめんどくさそうに男は答えた。
「うーん。それって、常識に対して挑戦状叩きつけるのかな? それとも、俺が知らない間に常識の意味が変わっちゃったのかも知れないな。でも、相思相愛の地面とお別れするのは辛いかも知れないけど、そろそろ立ち上がった方がよさそうだよ、相棒」
酒場の正面とは言っても、真っ昼間ということもあり、人通りはそれほど多くない。
さすがに路上で大の字になって地面との相性を謳歌するような人間はこの男だけだろうが、そのくらいのことを気にかけるような住人では貧民窟には暮らせない。
なので今までは男の行為が問題になったことなどなかった。
ところが今は事情が異なっている。
というのも、ライトはこの場にふさわしくない連中がやって来ているのを目にとめたからだ。
数は三人。頭からかぶるタイプのローブを羽織り、正体を隠しているつもりなのだろうが、周囲の人間を見下したような態度といい、優越感に浸った表情といい貴族感が半端ない。