第一章 皇子は芸人になれるのか? - 04 - 17才
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 04 - 17才
魔術師として生きてきたゾルダには、このチャンスをふいにすることはどうしてもできなかったのである。
この取引成立によって、ライトはゾルダとの間に命の盟約ができた。
綿密に打ち合わせをして、誰にもバレないように工夫をした上で宮廷を抜け出すことのできる時間を確保できたのである。
それゆえに、ライトの持つ魔法の才能のこともライトとゾルダ以外には誰も知ることはなかった。
そして現在。
17才になったライトは、宮廷で暮らす皇子としての立場と、市井で暮らすライト・カーゼルという二つの立場をうまく使い分けるようになっていた。
未だに、そのことを知る人間はライト本人以外には宮廷魔術師であるゾルダしかいなかった。
そのために必要なことは全てやっていたからである。
なぜなら、ライトは自分が生まれる以前の記憶を全てもっており、かつて自分が売れないお笑い芸人であったこともはっきりとおぼえていた。
お笑いがなによりも好きであることはまったく変わってはおらず、6才の頃から頻繁に宮廷を抜け出していたのもお笑いを求めてのことであった。
ところが、自分が生まれてきたこの世界には、大道芸やサーカスの道化師はいても、ただひたすら人を笑わせることを追求する芸人は存在していなかったのである。
だから、ライトはお笑いの専門家である芸人という職業を認知させるための準備から始めなくてはならなかった。
まず、何をするかなのだが、話術中心である漫才ではなく、動きや小道具を利用するコントの方が受け入れられやすいのではないだろうかと考えて、コントのネタを考えることにした。
そのネタをやるためにどうしても必要なのものがあった。
それが、お笑いを理解する相方の存在である。
これが想像以上に、ライトに苦難を強いることになった。
サーカスや大道芸人や見世物小屋には同世代の友人もいたが、彼らは自分の親の後を継がねばならずそのための修業も必要であったため、ライトの誘いに乗る人間は誰もいなかった。
そもそも、いくら話して聞かせたとしても、他人を笑わせることだけでお金を取れるということを理解してくれる友人はいなかった。
それで、最近は帝都の街をひたすら歩き回っては、相方になりそうなヤツはいないのか、ひたすらずっと探し続けていたのである。