第一章 皇子は芸人になれるのか? - 03 - 取引
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 03 - 取引
誰にもバレないよう、ライトはゾルダと取引をした。
油断してゼルン・ベルンに見つかったことがトラウマとなり、ずっと抜け出すための方法を考え続けていたのである。
そこでライトはゾルダにある提案を持ちかけた。
禁断の魔法とされる数々の蔵書が保管されているという機密管理された帝宮地下にある、古代帝国の遺跡への扉を開くという想像を絶する提案であった。
帝国への忠誠を誓うならば、そんな提案を受け入れられるわけがない。
というのも、世界の破滅をもたらしたとされる、その知識を永遠に封じるために、帝宮は遺跡の直上に建てられたからである。
これがライトでなければ、嘘か冗談だとすませたところだろうが、ゾルダは誰よりもライトの魔法の才能を知っている。
天賦の才などという生易しいものではない。
まるで、息をするかのように魔法を扱えるような存在など、長く生きて魔術師として研鑽を積んできたゾルダにとってもまったく前例を知らなかった。
そして、魔術師であるからこそ、ライトの提案を無視することはできなかった。
もし、そのことが公になれば、ライトはともかくゾルダは確実に死罪になる。
助かる道は絶対にない。
たとえ得られた古代の知識をもってしても、敵うかどうかわからないような手練が、帝国にはゴロゴロといた。
そして、皇帝ザフト本人が魔法剣士として最強の強者であったのである。
他の者なら互角に戦えても、皇帝ザフトは強さの桁が違っている。
剣においても、魔法の実力においてもだ。
そしてそれは、戦場において何度も実証されていた。
ひとつの例としてこういうことがあった。
ある時戦場において、それまでずっと可愛がっていた部下を暗殺によって失った。
怒り狂った皇帝ザフトは、単騎で一万の敵陣に突入してこれを壊滅させた上で敵将を討ち取っている。
万夫不当という呼び名を、皇帝ザフトは文字通り戦場で実践してみせたのだ。
正直、皇帝ザフトと互角に渡り合える存在かいるとしたら、魔王レグルスくらいのものだろう。
さすがに皇帝ザフトは桁違いとしても、その配下には豪傑と言われる将が何人もいる。
巨大な帝国がゆるぎのない存在である所以であった。
そんな化物達が集う帝国に正面から逆らって、生きていられるはずがなかった。
ライトの持ちかけた提案はそう言った提案であったのである。
常識的に考えたら、受けるという選択肢はないはずであった。
だが、ゾルダは受けてしまった。




