第一章 皇子は芸人になれるのか? - 33 - ゲノ・ニノラ証言
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 33 - ゲノ・ニノラ証言
それは被疑者と弁護人の表情に余裕があることからも明らかだ。
「弁護人。被告人による答弁を許します。被告人は前へ」
流れとしては不自然さはなく、普通に被告人となったゲノ・ニノラに対する呼び込みを行った。
だが、ゲノ・ニノラはいかにもめんどくさそうな態度で立ち上がると、舐めきった態度でゆっくりと証言台の前に歩いてくる。
「それでは、事件現場に行った理由も含めて何があったのか話してください」
弁護人が態度の悪いゲノ・ニノラに対して質問をする。
その時、まったく表情を変化させなかったのは、中々の玉だった。
「はい、現場に行ったのは、盗まれた剣を取り戻すためでした。現場でたまたま剣を持った男を見かけて、取り戻そうと話しかけたところいきなり剣で襲いかかってきました。その時一緒にいたオーゾ・タグとケーリ・ラセは大怪我を負ってしまい、どうにか自分だけが軽傷で逃げ帰ることができました」
証言の最初から最後まで完全に棒読みで、予め決められていることを言ってる感が半端なかったが、内容自体は整合性がとれていた。
「それで、その時襲い掛かってきた人物はこの場にいますか?」
弁護人は証言人に質問したのと同じ質問を被告人にもする。
すると、ゲノ・ニノラはニヤつき笑いを隠そうともせずに、まっすぐライトを右手の人差指で指し示す。
「あの男です。あいつに友人二人が斬られて深手を負いました。自分も、被害を受けています。ですから見間違えるということは絶対にありえません」
本来ならばここが一番盛り上がるところなのだろうが、あまりに棒読みがきつ過ぎて傍聴席の間に微妙な笑いが起きた。
すると気になったのか、ゲノ・ニノラは反射的に傍聴席の方を睨んだが、その行為がまた別の笑いを誘ってしまう。
その様子を見て、初めて弁護人であるカリュ・ドゥーラが焦りのような表情を見せる。
ゲノ・ニノラの耳元に口を寄せて小声で何かをつぶやいたが、ゲノ・ニノラこの時すでに頭に血が登った状態で止まりようがなかった。
しょせん肥大した自我を抑えることのできない幼児性を持った人間だった。
ライトのことを指差したまま、傍聴席の方を向いて駄々っ子のように喚き始める。




