第一章 皇子は芸人になれるのか? - 22 - 真実
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 22 - 真実
基本的に本当の事をいっている。もちろん、都合の悪いところはしっかり省いていた。
この時初めてアルテ姉姫はライトではなくドゥイの方を見る。
「なるほど、それが真相のようですね。でも、肝心なことが幾つか抜けてますよ? いつ、どこで、なんのためにということ。そして、移動手段です」
じっとドゥイの目を見て嘘がなさそうだと判断したアルテ姉姫は、すぐにさらなる指摘をしてくる。
こういった所はさすがとしか言いようがないが、追求されるほうはたまったものではない。
こうなったら、さすがにライトも腹を括るしかなかった。
これまでずっと秘密にしていたことだが、もうこうなったら打ち明けなくてはならないだろう。
「申し訳ない、姉上。言われたとおり、この剣は非道を働いていた貴族の子息からつい先程取り上げてきたものです。場所は貧民窟の中心部でした」
ライトはこれ以上小賢しい言い訳をすることは諦めて、素直に頭を下げる。
だが、それだけではまだ足りないことも承知している。
だから、
「できれば、これからお見せすることは内密にお願いしたいのですが……」
話しながら、ライトは意思の力だけで転移ゲートを開く。
「…………」
それを見てアルテ姉姫は絶句していた。
部屋の中に開かれたゲートの向こう側には、貧民窟の様子が見えている。
貧しい身なりをした年配の男が一人通り過ぎていったが、ゲートの存在にはまったく気づいていない様子だった。
「今開けたのは片道ゲートです。向こう側からこちらを見ることは出来ないし、当然やってくることもできません」
捕捉でライトが説明を付け加えると、ようやくアルテ姉姫が復帰してくる。
「ライト、今一体何をやったの? 転送ゲートを開いたのに、転送陣も使ってないし、呪文の詠唱すらしていない。そんなこと、絶対にありえないはずなのにあなたはやっている。一体何が起こったのか説明してください」
武の国であるアクラ帝国の皇女として、剣の修業は欠かせないが、同時に魔法の習得もきちんとやっている。どちらかではなく、どちらもきちんとやるのがアクラ帝国の習わしだ。
だから、アルテ姉姫は魔法の基礎もきちんと習得している。
その初歩の初歩として、魔法の発動要件もきちんと理解できている。
アルテ姉姫がここまで驚いたのは、今ライトがやってみせたことが、自分がこれまでに学んできたすべてを否定するような出来事だったからである。




