第一章 皇子は芸人になれるのか? - 20 - 分析
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 20 - 分析
「刃にまだ新しい血糊の跡がありますね。つい今しがたのものです。片側だけではなく、刃の両面に綺麗についています。これは刺したか、切断したかを示していますが、剣先には血糊がなく片側に小さな刃毀れがある所を見るとおそらく腕か足を切断したものですね。この剣の持ち主が人を斬ったのは一度ではない。何度も人を斬っています。ただし、戦場で使われた剣ではありません。武器も盾も持たない相手を一方的に斬っています……」
剣一本を見ただけで、アルテ姉姫はそれだけのことを読み取った。
ライトの方へと歩いてくると美しい顔を目の前に近づけて、覗き込むように瞳を見つめる。
「殿下……いえ、ライト。貴方はわたしの可愛い弟です、だから正直に答えて下さい。わたしの見たところ、この剣の持ち主は、そこにいるドゥイとやらが言ったとおりのことをやっているでしょう。だとすれば、この剣の主は何より恥ずべきことをやっております。そんな相手が、到底素直に剣を渡したとは思えません。しかもこの剣は、誰かを斬ってからまだそれほど時間が経っていない。なのに、剣は主の手を離れて今ここにある。ここは帝宮の中心部です。この程度のことは、わたしですら見破れたのです。帝宮には常時たくさんの強者がいます。つまり通常の方法では誰にも見咎められることなく、このような物を持ち込むことは不可能です。一体どういうことなのか、包み隠さずにお話しください。これは皇女としてではなく、弟を思う一人の姉としてのお願いです」
三人の姉姫は例外なく弟のことを可愛がっている。
その中でもアルテ姉姫は年が近いせいもあるのだろうが何かにつけて、ライトのことをかまいたがる傾向が強かった。
幼いころは誰にも見つからないように、ライトの寝ているベッドに潜り込んできたことも一度や二度ではない。
そういう時には、どんなにライトが嫌がろうが抱きしめたまま朝まで放してくれようとはしなかった。
それが大きくなってくると、そういうことが出来なくなってしまった。
この国において、姉弟の間で子を成すことは普通に行われている。
特に貴族や皇族ではその傾向が強い。政略結婚は普通にあるが、逆に外部の影響力を排除したい場合だと、手っ取り早く身内で子供を作る方が良い場合も多いからである。