第一章 皇子は芸人になれるのか? - 19 - アルテ姉姫
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 19 - アルテ姉姫
それでもアルテ姉姫の剣の腕はそこらの兵士よりもすごい。それで、自分が戦場に行けないことを気にしていて、何かにつけてライトに稽古を付けたがっていた。
そうはいっても、これまでに自室まで乗り込んでくることはめったになかったため完全に油断していた。
「語り部です。異国の話しなどを聞こうとしておりました」
ライトはとっさにウソをついた。まだ打ち合わせ前で、まるで設定をつめていない状態だったから、ドゥイがうまく話しを合わせてくれることを願いつつの発言だ。
「ほう? 異国とは、一体どこの国のことなのですか?」
明らかに怪しんでいるようで、アルテ姉姫は具体的につっこんでくる。
「あちこち、我らが見たこともない場所を歩いてきたとか。ただ、どうも来る途中で質の悪い奴らに襲われたとかで、先にその話を聞いておりました」
ライトは深く突っ込まれないうちに、話の流れを逸らすことにする。
「達の悪い奴らとは、一体どういった者達なのです? 盗賊とかそういった類の者達のことですか?」
ライトの誘導は実に効果的に働く。
というのも、アルテ姉姫はライトも含めた姉弟の中で最も正義感に溢れる姉である。
この手の話にはかならず食いつくことは分かりきっていた。
「私が話しを聞いた限りでは、どうやら通りがかりの人間相手に試し斬りをしていたらしいのです。なぁ?」
ライトは話しをうまく合わせてくれるようにドゥイに目で合図を送りながら話を振る。
「いきなり斬りかかられたんですわ。せやから、足をすくってひっくり返した後、悪さできんように、そいつらの剣を持ってきたんですわ」
ドゥイは急に振られた話しを、真実を交えつつみごとに帰してくれた。
その話しに合わせて、ライトは持ってきていた紐で括った三振の剣をアルテ姉姫に見せる。
すると、アルテ姉姫はライトが見せた三振の剣を自分の手にとってじっくりと調べ始める。
「この剣には家紋が入ってます。ニノラ子爵家、タグ子爵家、ラセ男爵家の紋章のようですね。もし、その話しが本当ならば、由々しき事態です」
アルテ姉姫は厳しい表情になり、至って冷静な声で指摘する。
「やはり、この剣の持ち主は貴族の誰かということなのですね」
ライトもアルテ姉姫の口調に合わせて答える。
その間も、アルテ姉姫は剣の一本だけを右手に持ち直して、目線の先に水平になるように刃をまっすぐ先に向かって翳し、確認し始める。