第一章 皇子は芸人になれるのか? - 01 - 再誕
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 01 - 再誕
「よくやった、ついに授かった。でかしたぞ、アルネーデ!」
そう言ったのは、白く長い髭を蓄えた鎧のごとき筋肉を身にまとった大男であった。
部屋の中には大きなベッドがあり、年を重ねてはいるが美しい女性が横たわり、その傍らには生まれたばかりの赤ん坊が純白のきぐるみに包まれてすやすやと眠っていた。
「はい。長いことおまたせいたしまして申し訳ございません、我が君。大地母神セレにお祈りして、三人の子は授かりましたものの生まれてくるのは姫ばかり。大切なお世継ぎとなる皇子をさずかることは叶いませんでした。しかし、これでどうにかわたくしの使命を果たすことができました」
美しい女性、アルネーデが我が子を見つめながら答えた。
「何を言うアルネーデ。皇子を健やかに育て、我が帝国の後を継ぐその日まで息災でいてくれなくては。まだまだ、そなたの使命は果たされたとは言えぬぞ」
出産に立ち会ったメイドと家令、それに皇子の姉となる三人の姫達が見守る中、皇帝ザフトはそのたくましい腕に妻アルネーデと生まれたばかりの皇子を抱いた。
「アルネーデ、皇子の名を決めたぞ。ライトだ、我が皇子の名はライトである。我が帝国を照らす光となるのだ」
宣言するように皇帝ザフトが腕の中にいる妻アルネーデに話すと。
「いいお名前です、我が君。ライト、我が愛しの皇子。健やかに育つのですよ」
こうして、ハーラント大陸西方を支配する巨大なアクラ帝国の皇子は誕生した。
それが今から、十七年前のことであった。
ライトは健やかには育っていたが、両親が想像していた通りに育っているのかは甚だ疑問が残る所であった。
アクラ帝国唯一のお世継ぎである皇子として、なに不自由なく育てているはずなのだが、少しでも目を放すとすぐにいなくなっていた。
幼い頃は、やたらと使用人にくっついて歩き回り、厨房やら使用人の部屋に入り浸っていて自分の部屋にいることがほとんどなかった。
そこから少し成長して6才くらいになると行動範囲が広がり、広大な帝宮から抜け出すことができるようになった。
さすがにこの年の子供が、大人の足でも一時間以上もかかるような距離を自分の足で歩いて抜け出すことが可能だと誰一人として想像すらしていなかったので、当然誰も気づいてはいなかった。
帝宮を抜け出したライトは、途中で使用人の子見て供から借りた服に着替えて街の中にいたのである。




