第一章 皇子は芸人になれるのか? - 18 - 洗濯
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 18 - 洗濯
普通洗濯など皇族は当然として、貴族の中にもやる人間はいない。そんなものは使用人の仕事だからだ。
だが、ライトはけっこう早い時期から服の洗濯であれ部屋の掃除であれ、使用人に任せたことはない。
そんなことをすれば、服を着替えて頻繁に街に行っていることがすぐにバレてしまうからである。
だからこの服も、ライトが街に持っていって洗濯するつもりだった。
「へぇ。皇子はんも洗濯なんてするんやなぁ。ワイなんて一度もしたことないわぁ」
感心したかのようにドゥイが言った。
おそらく、洗濯のやり方すら知らなのいだろう。
言葉を知ってただけでも大したものだとライトは思った。
「それより相棒。やっぱり、俺の服だと小さいな。街の仕立て屋で、サイズを合わせてもらおう」
並んで立って分かったが、ドゥイはかなりの長身で、ライトよりも頭一つ分以上も大きい。
なので、大人が子供の服を着ているように見える。
「ほないか。そんでキツかったんやなぁ」
感心しながら、今さら分かったかのようにドゥイが言った。
普通なら冗談か嫌味のように聞こえるだろうが、ドゥイの場合本当に今更気づいたのだとライトには分かっていた。
「それじゃ、一旦ゾルダの書庫に帰るよ。打ち合わせ前に、誰とも顔を合わせたくないからね」
ドゥイに向かって言いながら、ライトは部屋の中に常設しているゲートが隠されている鏡付きクローゼットの扉を開こうとしたその時だった。
入り口のドアがいきなり開いた。
あまりに突然だったので、ライトはドアの方を振り向くのが精一杯で何もできない。
「ライト殿下! お帰りになられたらなら、お帰りになったとおっしってください!」
ドアを開けていきなり入ってきたのは、実に美しい女性であった。
ただし、着ているのは女性らしいドレスではなく、剣術の稽古をするときに着るための道着である。
「あ、アルテ姉上。今日も元気そうですね」
ライトは振り返りながら、乾いた笑いを浮かべて返事を返す。
入ってきたのは、ライトの三人いる姉の三番目。アルテ姉姫である。
「元気そうねじゃありません、殿下。最近ずっと剣の稽古をされていないと聞きました。されば、私が稽古をつけて差し上げようと来たのですが……この方はどなたですか?」
武の国アクラ帝国とは言っても、女人の武将は存在しない。