第一章 皇子は芸人になれるのか? - 17 - 自室
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 17 - 自室
確かに、貧民窟の中でも一二を争うような汚い服を交換して着ていたので、ゾルダの言うことは最もなことだった。
さらにドゥイに至れば、ずっと地面の上に転がって大の字になっていたのだ。
大量の砂や泥が衣服に付着しており、少しでも動けばすぐに床が汚れるような状態であった。
ゾルダの提案にライトは同意して、自分の部屋へ繋がっているゲートに入る。
この部屋と自室の間は、常にゲートが開いている状態になっていた。
秘密を守るためには内密で行き来するための手段が必要だったからである。
ライトはゲートを通って自分の部屋に入ると、すぐ後からドゥイもついてきた。
「へぇ。皇子さんの部屋って、おもてたより随分せまいでんなぁ」
クローゼットから、宮廷でも外でも兼用で着ることの出来る服を二着選んでいると、周囲を無遠慮に見ながらドゥイが言ってくる。
ライトは選んだ服のうちの片方をドゥイに渡しながら尋ねる。
「広い部屋はどうにも居心地が悪くてね。本来は使用人が使うはずの部屋を使っている。誰かを迎えるためだけの部屋はあるにはあるが普段は使っていない。それに、狭くて散らかっている方が、見られたくないものがあるときには便利だからね」
ようするにこの部屋は、趣味と実益を兼ねた部屋だった。
そんな部屋の中を見ながら、ドゥイは渡された服に着替える。
「そないなもんないか。ワイはこないな狭い場所じゃ、息苦しくてよう寝れんけどなぁ」
それはそうだろう、とライトは思う。
壁も無ければ天井すらない場所で、地面との相性を大切にしているやつだ。
どんなに広い宮廷の部屋だろうと、その広さに比べたら砂粒のようなものである。勝負にすらならない。
ライトは着替え終えると、今まで着ていた服を畳みながら言った。
「着ていた服はこっちに投げてくれ。あとで洗濯をして渡すから」
すると、すぐに来ていた服をドゥイが投げてよこす。
地面に転がっていただけのことはあって、けっこうな匂いがする。
ただし、匂いのきつさの勝負ならライトの着ていた服といい勝負であるので、今更そこまで気になるようなものではなかった。
クローゼットから袋を出すと、そこに匂いのきつい二人分の服を押し込んで、袋の口を紐できつく縛る。
さすがにこの匂いが外に漏れたら、あらぬ疑いを掛けられてしまいかねないので、洗濯が終わるまでの予防策である。