第一章 皇子は芸人になれるのか? - 16 - 相方
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 16 - 相方
正式に相方となったドゥイに話すまで、長い間唯一ライトの秘密を知る存在であった宮廷魔術師のゾルダである。
「おや? そちらの方は?」
ライトのすぐ後から入ってきたドゥイを見てゾルダが聞いてくる。
「ようやく見つけた。俺の相棒のララン・ドゥイだ」
部屋に入ってきた途端、あからさまに嫌そうな表情をしているドゥイをライトが紹介すると。
「それはようございました。これで、ようやく前に進めそうですな」
ゾルダはいたって冷静に答えた。
いきなりの登場でも驚いていないのは、いずれこうなることが分かっていたからだ。
人生を共に賭けるような相方が出来たなら、秘密を共有することになるであろうと予想していたのである。
「どこやねん、ここは? そんで誰やねん、そのおっちゃん」
部屋の中の殆どを古書が占めており、しかも薄暗く独特のカビの匂いがする。
しかも、部屋には窓がないので、蝋燭の明かりが唯一の光源であり、夜並に薄暗い。
なので、ドゥイの言葉は寧ろ当然であった。
「ここは魔導書の保管庫で、彼は宮廷魔術師のゾルダ。君意外に俺の正体を知る唯一の人間だ」
ライトは簡単に説明する。
「正体? 何やねんそれ?」
やはりドゥイはピンときてない様子だった。
カナン区に直接向かわなかった理由の一つはだった。
一応ライトが置かれている状況を簡単に説明して、話を合わせておかないと今までの苦労が一瞬で消えてしまいかねない。
「俺が皇子って話だよ。これから行くカナン区に、そのことを知っている人間は一人もいない。ついでに言うと、宮廷の中に俺が外でやってることを知る人間はゾルダしかいない。これから先、君にも協力してもらう必要があるから、今から三人で打ち合わせをするんだよ」
簡単に説明をすると、ドゥイは軽く手を上げて訳知り顔で言う。
「まぁまぁ、みなまで言うな。あんじょうしたるさかいに、一通り話し聞かせてくれたらええよ」
妙に自信ありげなドゥイの態度は、とても貧民窟に住むような人間とは思えなかった。
もっとも、貧民窟にあっても貧民窟の住人とは明らかに異質だったのだが。
「その前に、お願いなのですが。お二人とも、着替えていただけないでしょうか? ここには貴重な書物が沢山あるので、その状態でうろつかれるのは大変困るのですが」
ライトが答えるより先に、ゾルダが提案してきた。