第一章 皇子は芸人になれるのか? - 15 - 返答
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 15 - 返答
そして、ドゥイの答えはやはりライトの予想と違うものであった。
「かめへんで。そのかわり、メシおごってぇな」
あっさりと承諾した。
もちろん、お笑いっていうのがどんなものであるのか、まったく分かっていないだろうとライトには分かっていたが。
ただ、ドゥイにとってはメシをおごってもらえるということだけが大切で、その他のことは瑣末な出来事にすぎない。
少し考えたら、そんなとこだろうと理解できた。
「もちろん。ただし、ここを出てカナン区にいかなきゃなんないけどね。カナン区には俺の知り合いが沢山いるし、ドゥイのことを紹介したい。そもそも僕らの仕事はそこから始めるつもりだからね」
帝都というよりは、この世界において芸人という職業はない。
コンビを組んだからといっても、すぐに立つことの出来る舞台があるわけではないのだ。
改て考えるまでもなく、ライトが転生する前にいた世界の芸人のように、恵まれた環境にいるわけではない。
本気でこの世界でお笑い芸人を目指すというのならば、一からひとつづつ全て自分たちの手で作っていく必要があった。
そうなると、皇子という肩書はお笑いにとって足かせにしかならない。
ライトが最初に全てを告げようと考えたのは、そういった厳しい状況にあるということも含めて告げておきたかったのである。
「いくいく、なんなら今すぐいったるで。それに、ワイはライトはんのツッコミけっこうすっきゃで。ようするに、あんさんの言うお笑いっての、そないなことやおまへんか?」
出会ってからこれが初めてではないが、ドゥイはライトの想像を超えてきた。
まるで一目惚れのように、ライトはドゥイの普通の人間とは違うものを感じて好きになった。
だが、それはやはり表面的なものであって、ドゥイの才能はライトの予想を超えている。
「やっぱ、俺の相棒はドゥイしかいないな。これからよろしく頼むよ。それじゃ、今すぐ行こうって言いたいけど、その前によななきゃならない場所があるんで所付き合ってくれ」
束ねた三振の剣を自分の腰に縛り付けると、紋章が甲に浮かんでいる左手を動かしてゲートを開く。
人間が一人歩いて通れるくらいの大きさで開けた転送ゲートを通り抜けると、薄暗い部屋の中に出る。
部屋の中には足元まで伸びる髭を蓄えた老人がいて、蝋燭の明かりで古書を読んでいた。
ゲート使って部屋の中に入ってきたライトを見ると、すぐに立ち上がる。