第一章 皇子は芸人になれるのか? - 14 - 誘う
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 14 - 誘う
ライトが若干照れながらそんなふうに答えると。
「皇子さんってけったいやなぁ。ワイ褒めたつもりはなかったんやけど、今ので褒めたことになるんかいな。そういや昔ウチの隣に住んでたおっちゃんが言っとったわ。お前は褒められて伸びるタイプだって」
自慢げにドゥイが話すと。
「うーん、なんだか褒めるって言葉が道に迷っちゃったかな? 入り口はともかく、出口がまったく違うとこに行っちゃったけど?」
ライトはきちんとツッコミをいれておいた。
「そういや、ライトはんのもっとるその剣、高こう売れるんとちゃう?」
ドゥイはそこだけは目ざとく聞いてくる。
こんな所に住んでいいる人間は、さすがにそういう所には目端が聞くのかも知れない。
たとえどんなに変わり者であってもだ。
「家紋があるよね、ここんとこ。これって目端の効く商人ならすぐに分かるんだよね。つまり、売りになんてだしたら、その場で警邏に通報されて捕まっちまうよ」
ライトは剣の柄の部分を見せながら説明する。
「ふーん、そないなもんかいな。せやけどおかしいな。三日前に拾った剣を警邏に届ける代わりにって落とし主の家に届けたら、高っかい金で買い取ってくれはったけどなぁ」
呑気そうにドゥイはそんなことを言ったけど、ライトは頭を抱えてしまう。
どうやらドゥイが、人間狩りに合うのは今回が初めてではないようだ。
そして、その時は回収した剣を、クズ息子の実家に買い取らせたらしい。
警邏に持ち込まれら、いくら貴族だろうが極めて厄介なことになる。
そうなるくらいならと、お金で解決したのだろう。
ライトの隠し事は、ドゥイの隠し事くらべたら可愛いものに思われてきた。
今までのことはともかくとして、これからはそういう危ない橋を渡ってもらうのは控えてもらう必要がある。
もう、これ以上回りくどいことはやめて、一番肝心要の本丸に切り込んでいった方がいいとライトは決心する。
「ねぇ、相棒。俺と一緒にお笑いをやらないか?」
ど直球。まったく変化なしのど真ん中に放り込んだ口説き文句であった。
それを聞いて、はぁっとなるのか、なにそれとなるのか、それともまったく聞く耳もたないのか、いずれにしても腰を落ち着けて長丁場になるだろうとライトは覚悟を決めていた。
どんなに困難に思えようとも、宛もなく探し回っていた日々とはまったく違う。
目の前にはついに見つけた相方がいるのだ。どれほど断られようと、苦には感じない。