第一章 皇子は芸人になれるのか? - 13 - ララン・ドゥイ
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 13 - ララン・ドゥイ
失神している仲間はガン無視のまま、ライトに圧力めいた言葉を掛けていたクズ息子は一足先に逃げ出している。
さすがと言いたくなるようなクズっぷりであった。
暫定相棒が訪ねてきたのは、まさにこのタイミングである。
「あーそうそう。ワイはララン・ドゥイ。名乗るの遅れてすんまへんなぁ」
ライトが名前を言おうとした直前、機先を制するように暫定相棒のドゥイが名乗った。
「いやいや、俺も先に名前言っておくべきだったね。俺はライト。よろしく、相棒」
そう言って、ライトは右手を差し出す。
「おっ? これは、もしかして握手ってやつちゃいますか? あの伝説の?」
ドゥイの反応は見事なまでに、ライトの予想の斜め上をいっていた。
「うーん、いつから握手が伝説の仲間入りしたのか記憶に定かじゃないけど、握手であることには間違いないよ」
微妙に遠回しなツッコミを入れると、ドゥイはいきなりライトの手を握ってきた。
「握手握手。そんで、あんさん何者でんねん? ワイ周りには、こないな綺麗な手をしたやつ、ようおらん」
喜んで握手をしてきたドゥイがいきなり核心を突くような質問をしてくる。
ここで、ごまかすような答えならいくらでもできただろう。
もちろん、他の誰であれ、これと同じ質問をしてきたなら、話しを逸らすか普段使っている偽りの身分を名乗る。
だが、さっき名乗る時にライト・カーゼルとは名乗らず、名前だけを告げた。
それは、皇族は名字を持たない唯一の存在であるから、ライトと名乗ったのは嘘偽りのない名前を名乗ったのだ。
それでも正直、自分の相方になるのだと決めた相手だとしても、このことを告げることは不安でしかたなかった。
だが自分の相方になる相手に、真実を告げないという選択肢は最初から存在していなかった。
だから告げる、真実を。
「アクラ帝国の第一皇子ライト、それが俺だ。もっとも偉そうに第一皇子と名乗っても、皇子は俺しかいないけどな」
明らかに日和って余計な発言を付け加えながらライトは自分の正体を明かす。
するとドゥイは驚いたような表情になって答える。
「こりゃあビックリしたわ。皇子さんて、想像以上に貧乏なんでんな。そないなきったない服来てるやつ、ワイの周りにもようおらんで」
どうやらライトが想像していたのとは、違う角度から驚いているようであった。
「いやぁ、そんなに褒めてもらっても、なんにもでないよ?」