第一章 皇子は芸人になれるのか? - 12 - 捨て台詞
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 12 - 捨て台詞
かといって、こんな連中を殺して人殺しになるのはごめん被りたい。
それにライトは、帝国の持つ法の公正性というものをそれなりに信用していた。
「くくくっ、これだから貴様らのような蛆虫には救いがたいな。我が家は子爵家。貴様のような蛆虫の言葉など、誰が耳を貸すものか。身分が違うのだよ、身分が。この帝都に、貴様の味方などいないと知れ」
つい今まで痛みに悶え苦しんでいたとは思えないような嘲りの言葉をクズ息子は口にする。
「そうかい。それじゃ、こいつを届けても平気だってわけだ。その時、あんたの言葉が正しいことを証明してくれ」
ライトは一切余計なことは言わずに、淡々と事実のみを相手に告げる。
子爵家のバカ息子三人衆には、もう完全に興味を失っていた。
元々お呼びではないし、武器を取り上げたので、この後は人を殺すことはできない。
こいつらへの対応は必要だが、それは今やる必要はなかった。
そう思って、暫定相棒に話しかけようと振り向くと、白目を剥いて失神しているクズ息子のズボンから腰紐を抜き取っているところだった。
何をしようとしているのかと見ていると、ライトの方を向いて抜き取ったばかりの腰紐を投げてよこした。
「そのままじゃもちずらいでっしゃろ。これでくくったら持ちやすくなるで」
この時初めてライトは、暫定相棒からまともなことを言われた。
「せっかく地面と楽しくやってた所、気を使わせてすまんな」
お礼を言いながら、ライトは言われたとおりにクズ息子の腰紐で三振の剣を纏めて縛った。
さすがに抜き身のままなので気をつけなくてはならないが、それでもバラバラに持つよりはだいぶ楽だ。
「かめへんかめへん。どないな出会いも、別れはつきものでっせ。ワイはこう見えても、ぎょうさん別れを経験しとる。心配しなはんな」
地面との別れを沢山経験したと言われても、それはそうだろうとしか言いようがないのだろうが、この時の返答の正解はたぶんそうではない。
「なるほど、地面の数をほど別れがあるってことなんだね」
反射的にライトが答えたのはそれだった。
「んっ? そりゃそうと、あんはん誰や?」
ライトの答えには無反応のまま、暫定相棒が突然聞いてきた。
「なるほど、このタイミングで聞くんだね」
仲間から手首切り落とされたクズ息子が自分の止血を終えて、逃げ出そうとしている所だった。