第一章 皇子は芸人になれるのか? - 10 - 魔法
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 10 - 魔法
三人のうち、二人のクズ息子は地面に転がって、悲鳴を上げながらのたうち始めた。
その声でようやく幻影魔法を打ち払ったのだろう、一人無事だったクズ息子が現実を目の当たりにして何が起こったのか理解できずに凍りついている。
クズ息子三人衆が近づいて来た時には、すでにライトの術中にあったのである。
簡単な魔法であっても、詠唱を必要としないライトが使うと、それと気づくことは極めて困難になる。
それでも、悪意がなく殺人に対する欲求を押さえ込めたならば、こんな同士討ちは発生しなかったであろう。
まさしく自業自得の典型的な結末であった。
一人無事だった貴族は、しばらくしてようやく何が起こったのか理解したらしい。
腐ってもアクラ帝国の貴族であるのだから、得手不得手は別として魔法の知識が皆無ということはない。
「貴様、我らに幻覚を見せたな? 我らは貴族だ。こんなことをして、ただで済むと思っているのか?」
そのクズ息子は、怒り狂っていた。
地面で転げ回って苦痛を訴えている仲間の心配よりも、自分が騙されたのだという屈辱のほうが優先されるのだろう。
所詮クズ同士の繋がりなどこの程度のものだ。
ライトは内心呆れながらそう思っていた。
「もともとただで済ませるつもりなんてなかったくせに。それに、どうすんの? どーせ、ノープランで言ってみただけなんでしょ?」
思いっきり馬鹿にするようにライトは言ってみる。かなり安い挑発だが、乗ってくるのかなと思いながら。
すると、一人残ったクズ息子はさらに怒りが増したらしく、足で数回地面を踏みつつけた。
それを見てライトは驚いた。これが地団駄踏むというやつなのだろう。言葉はよく聞くが、実際にやっている所を見たのは初めてであった。
「てめぇ、てめぇ、てめぇ。絶対にゆるさん!」
地団駄を踏みながら、怒りに任せてクズ息子が言った。
こんな状況になっても、まともに自分が見えていないのだろう。
見苦しいことこの上ない。
いかに甘やかされた環境で育ってきたのかすぐに分かる……とそこまで考えてライトは小さく苦笑を浮かべた。
それに関しては、あまり強く言えないからだ。
こんな所で謀略を巡らしてまで相方探しをやっているような皇子が、あまり偉そうなことは言えないだろう。
それはともかくとして、問題なのは地団駄をガチで踏んているクズ息子の方だ。
本気で殺しにくる。