第一章 皇子は芸人になれるのか? - 09 - VS貴族の息子
第一章 皇子は芸人になれるのか? - 09 - VS貴族の息子
さっきと同じクズ息子が舐めきった態度で答えた後、気味の悪い声をたてて笑うと他の二人も同じ声で笑った。
「石は硬いぞ。あんたらに踏み潰せるかな?」
挑発を含めてライトが言うと、クズ三人衆の表情が一瞬で変わった。
おそらく今まで、命乞いをしてきたやつはいても、こんな反抗的な態度をとるやつはいなかったのだろう。
「路傍の石に過ぎない分際で、舐めた口を聞く。ただの試し切りのつもりだったが、貴様だけは簡単には殺さん。腕の先、足の先から細かく切り刻んでやる」
そう言ったクズ息子の顔に浮かんでいる表情は、怒りと恍惚と相まったとても気持ちの悪いものであった。
言っている自分に酔っていることと、殺しを想像して恍惚となっているのだろう。
他の二人もまったく同じ表情になっている。すっかり殺しのモードに入っているのだ。
二人は剣を正位置に、もう一人は下段にかまえている。
その様子はひどく落ち着いたものだ。
すでに何人も殺してきていて、しかもこれまで一切反抗されなかった。その経験から、相手に対する警戒心というものがないゆえの落ち着きである。
同じ落ち着きでも、ライトの周りにいるような豪傑達の持っている落ち着きとはまったく異なっている。
だから、すでにライトが魔法を発動していることに気づいていない。
簡単な幻影魔法であり、これを破るのは難しくない。
それに気づいてさえいれば。
今までライトとやり取りをしていたクズ息子が、真っ先に動いた。
さすがに今まで何人もの人間で試し切りをしてきただけあって、一切躊躇いというものがない。
踏み込みながら下段の状態から切り上げる。
「ぎゃあっ!」
なんとも言えない苦悶の声が上がり、血しぶきが舞った。
血しぶきと共に、切断された左手の指が人差し指から小指まで四本地面に落ちる。
その時にはクズ息子は切り上げた剣を、そのまま振り下ろしていた。
「ぎゃゃゃあっ!」
さっきよりも大きな声があがる。
今度は完全に悲鳴であった。
また血しぶきが舞い、次に地面に落ちたのは、右の手首だった。しっかりと剣が握られている状態のままで。
それとほぼ同時に、振り降ろしたばかりのクズ息子の右腕が斬られていた。
血しぶきはそれほどではない。腕を切断するところまではいかずに、骨のところで刃が止まっている。
もう一人のクズ息子の腕が悪かったためだ。
「ぎゃあああ!」