七話 自作魔法
俺の入学から半年がたった。
学校にもなれ、話せる友達も多くでき…ていない。
身分の差が思った以上に大きかった。貴族は自分より身分が下のものを排除しようとするし、俺みたいな平民には最悪の場所と言っていいだろう。
一方アリスは友達も多くいて、男子からの人気も高い。
まあ、前世でいうリア充みたいなかんじだ。
イリスは俺とアリス以外の友達はいないが、もともとあいつは友達なんていらないっていう思考してるやつだからな。
「うわ、グランホルンだ。あんな平民と一緒に授業なんて受けたくねえな」
「ほんとそれ」
いつものいじめっこグループが俺を見てそう言ってる。これは思った以上にメンタルが削られるなぁ。
そう思ってるとアリスがこっちに近づいてきた。
「やあアリスってごぉぼおっ!」
いきなり腹部を殴られた。
「ルター!やられっぱなしでいいの?ちゃんと注意しないとこのまま卒業までずっとバカにされるよ?」
「仕方ないだろ。身分の差っていうのはこういうものなんだ」
「そういうのが気にくわないのよっ!」
「うわっ、やめろぉぉぉぉ」
アリスに絞め技をくらわせられる。本当のいじめっこってこいつじゃないか?
とりあえずこのまま絞め続けられると死ぬので、話題を変えてみる。
「そ、そういえばアリスは彼氏とかできないの?」
「はっ!?」
「だってそうだろう?今のうちから婚約しておかないとみんな取られちゃうよ?」
「ル、ルターは、ど、どうなの?」
頬を赤く染めながらそう言う。
「は?いや、僕は平民だからこの学校で婚約者を見つけることなんて無理さ。普通の平民の結婚は20半ばらしいからね。成人してからすぐに結婚する貴族とは違うのさ」
つまりアリスは対象外だ。だってそうだろう?いい家の出の長女がそこらへんの平民と結婚なんて聞いたことがない。もともとその家の家族が認めないだろう。
「へ、へぇ〜」
アリスは青い顔をしてそういう。もしかしてアリスってリトマス試験紙なの?
「まあ、アリスも候補は1人2人考えていた方がいいよ。アリスなら誰でも欲しがると思うよ」
「家柄ってこと?」
「うんうん、学校の成績ももちろんだけど容姿もいいからね」
「そ、それじゃあ!」
「ん?」
「な、なんでもない」
何を言おうとしたんだろう、気になる。
今、Cクラスは魔術技能の授業を受けているが、俺は今図書室だ。
なんせ俺はバイアスアビリティだからな。授業中はできないことばっかりで暇なんだよ。
話は変わるが、詠唱とはなんのためにあると思う?
正解は魔力の誘導のためだ。
魔力とは体内の魔力器官から出ている魔術の源だ。
この魔力の流れで、使われる魔法の種類が変わる。
では、無詠唱とはなんだろう。
正解は詠唱なしで魔力を操って魔術を発動させるのだ。
まあつまりは詠唱なしで魔力の流れを操れるってことだな。
流れを変えられるなら自作の魔術も作れるのでは?そう、作れるのだ。
ただ、作れるのは無詠唱が可能なごく一部の人に限られる。
ルイーゼ先生は「無詠唱は、魔力量が多い人ができます」とか言っていたが、あれは間違いだ。あれは軍が公表した研究結果であって、正確ではない。
無詠唱は魔力の適正が高ければできるものだ。
自作魔術は無詠唱だからできるものではない。もしも無詠唱をできる人がこの国に1000人いるとしよう。その中で自作魔法を作れるのはせいぜい100人にも満たないだろう。もしかたしたら50人くらいかもしれない。
しかも魔法を自作しても、実用的な魔法になる可能性は低い。
実用的な自作魔法が使えるのはせいぜい25人と言ったところだろう。
まあ魔法を自作して、実用的な魔法だったもしても、他の魔法の方が強いっていうかのせいもあるしな。ほとんど実用的じゃない。
そんな自作魔法を俺は今から作ろうと思う。
まずはイメージからだ。召喚するのは…前世の神話に出てくるやつがいいな。でっかいやつ。そうなるとかなりの魔力が必要になるな。俺の魔力量は多い。ちなみに最大出力のリフレクターを召喚するには俺の魔力量の10分の1は必要だ。最小出力は100分の1だ。
「さてと…」
イメージする。大きなもの。竜…。水竜。そのイメージだとリヴァイアサン、シーサーペントくらいだろう。リヴァイアサンは最強の生物だ。どんな武器も効かない、最強の生物。嫉妬の悪魔。
「これでいこう」
グラウンドに出てきた。さすがに図書室で召喚するのはマズイ。
っと、C組は今グラウンドで授業してるのか。C組のみんながこっちをみてくる。ほとんどは軽蔑の目だ。アリスは呆れの目、ってあんまり変わらないな。イリスは…興味がありそうな目で笑っている。
実際特別生は授業に出なくてもいいとなっている。それは特別生が学校にいい研究成果を残してもらうためだ。普通の生徒の卒業基準は、その学問の過程を終了したかで決まるが、特別生に関しては研究成果を学校に残すこと、それが基準である。普通の生徒は6年間で卒業できるが、特別生の平均の在校年数は10年とちょっとだ。まあそんなにいる気はないんだが。
あいつらはこのことを知らないんだろうか。まあいいや、何思われようと関係ないし。
よし、イメージしよう。青い体。どんな武器も効かない厚い鱗。鋭い牙。そして、
「嫉妬の悪魔」
そうすると、目の前に大きな魔法陣ができた。かなりの大きさだ。半径20メートルくらいはあるだろう。
「きた!」
リヴァイアサンが顔を覗かせた。これだ!これが俺の思い描いていたリヴァイアサンだ!
全貌が見えた。
「うわああああああああああ」
「きゃああああああ」
周りの生徒は驚いて腰を抜かしている。
「ルター!今すぐその竜を引っ込めろ!」
魔術技能のクライス先生だ。見た目も性格もハリ○ポ○ターのスネイプ先生に似ている。
「す、すみません!」
召喚を解く。やばい、さっきは気にならなかったが、消費魔力量が多すぎる、クラクラするぞ。
「今からこのことを校長に報告しに行く!私について来い!」
「は、はい」
やばい、怒られるパターンだ。
いつものいじめっこはこちらをみてニヤニヤしている。
アリスは…、心配そうな目だな。
イリスはさっきと変わってない。
「さて、ルター君、聞かせてもらえるかな?」
「は、はい」
校長のグリアドス先生だ。村の長老にいそうな、顎に白髭を生やしている人だ。
「報告を聞くと見たこともない魔獣を召喚したと聞いたが、本当かな?」
「は、はい」
「それは、自作魔法かな?」
「は、はい。自作魔法を研究しようと思いまして」
「それは素晴らしい!」
「校長先生!真面目に話してください!これはおおごとです!魔法を自作したルター君もすごいですが、もう少しで生徒に危害が加わるところでした!」
うわ、怒ってる。これは…。
「そうだな、それはそれで処罰を与えよう」
ま、まずい。
「せ、先生。お言葉ですが、ここまで大きな魔獣を召喚する気はありませんでした。これは事故です」
「それはおかしい。自作魔法は自分でコントロールできるそうじゃないか?大きさもコントロールできるはずでは?」
嫌味なのか?本当にこの人俺のこと嫌ってるな。
「いえ、まだコントロールできない状態だったんです。コントロールするには技術がいるので」
「それなら尚更だ。自作魔法なんて使うな」
「先ほども言った通り、僕の研究は自作魔法についてであり、実験はしなければいけません。魔法のコントロールのためにも、研究のためにも」
「ではその研究をやめろ!生徒に危害が加わる可能性がある!」
「見苦しい喧嘩はやめろ、クライス先生、大人気ないぞ。ルター君もルター君でやめろ」
「しかし校長!」
「黙れ、クライス、お前が身分の違いで差別するのは知ってるがそれをが生徒にも通用すると思ったら大間違いだ」
いつもより低い声で校長先生が言う。こわい。
「ルター君、君の処罰は無しだし、研究はこれからも続けてよろしい。ただ、生徒に危害が加わるようであれば即刻処罰する。心するように」
「はい」
そう言って俺は校長を後にする。
「ルター!どうだったの?」
「いや、何もなかったけど?」
「本当?クライス先生は身分差別をする人だから、もしも処罰があったらどうしようと思ってたの…」
「ありがとう」
笑ってそう返す。
「まあルター君ならクライス先生相手でも論破できるでしょう?」
イリスがそう言って近づいてきた。
「いや、それは過大評価だよ」
「そうね、その通りだわ」
お前は褒めたいのか貶したいのかどっちなんだよ…
「まあ、何もなくてよかったわ」
「そうだな」
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次の日の放課後。
グラウンドを自由に使っていいと言われたので存分に自作魔法を試してみることにした。
「リヴァイアサン!!」
「グウォオォォオオオォォォ!!!!」
にしてもでかい。ポ○モンみたいにバトルでもして見たいが、このでかさじゃ3dsの画面が埋まってしまうだろう。
リヴァイアサンは海に住んでたらしいので、宙に浮いている。地上をズルズルと動いたらそれはもう蛇だからな。
もしかしてブレスとか吐けるんだろうか?そしたらかっこいいのに。
「リヴァイアサン!ブレスだ!」
「…」
まあ、吐けないよな。
とりあえず前に動かしてみるか。そうイメージすると
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」
前に移動した。なんだこの効果音。
「リヴァイアサン攻撃だ!」
「…」
そっか、攻撃対象がいないわ。お、いいところに。
「おーい、イリスー!」
「…」
無視された…。近づいて話しかける。
「おい、イリス」
「何の用かしら?」
イリスがあからさまに嫌そうな顔で尋ねる。
「あの、魔獣を召喚して欲しいんですが」
「なんのために?」
「ちょっとリヴァイアサンと戦わせたいなと思って」
「ふーん。子供っぽい発想だけどまあいいわ」
グラウンドまで来て、俺とイリスが向かい合うようにして立った。
「それじゃ、遠慮なく行くわ。神の血を受け、我が前に姿を表せ、聖人よ。ロンギヌス!」
うわ、上級召喚のロンギヌスだ。ロンギヌスは前世でも有名だったロンギヌスの槍を使う。なんかリンクしてるな。
「切り裂け、ロンギヌス!」
「ウオオオオオオオオ!!!」
「ガンッ!」
「効かない…!?」
さすが最強の生物だ。なんの武器も効かない。
「リヴァイアサン!攻撃だ!」
「ガブッ!!!」
ロンギヌスが喰われた。…めちゃくちゃ強いな。
「ロンギヌスの負けね。いや、その前にあなた、そのリヴァイアサンの召喚にどのくらい魔力使ったの?」
あくまでもロンギヌスの負けなんだな。
「うーんと、体感で半分くらいかな?すこしクラクラする」
「それは使いすぎね。魔力は自身の3分の1使ったら戦闘不能と言っていいわ。授業に受けていないあなたにはわからないでしょうけどね」
ニヤっとしたな。こいつがニヤっとするのは嫌味を言う時だ。
「持久戦はからっきしダメね。戦争なんて連れてけないわ」
「戦争では召喚したら残りは寝てていいんじゃないか?そしたらリヴァイアサンが蹂躙してくれるだろうし」
「あのね、召喚獣は召喚者とリンクしているの。だから召喚者も戦争について行かないといけないし、意識や魔力が途切れたら召喚獣も消えるわ」
「なるほど…、それは問題だな」
「そう、だから調整しなさい。もう少し小さくするとか」
「なるほどね、わかった。助言ありがとう!」
「それほどでもないわ」
呆れたような…、いや違う、この表情は興味津々な顔だ。
そう言ってイリスは帰って行った。
さすがに俺も疲れた。魔力を使いすぎたな。
「ただいまー」
「おかえりない、ルター君」
家に着いた。帰り道が予想以上に辛くて何度も吐きそうになった。
「ゲッソリしてますね、大丈夫ですか?」
「ちょっと自作魔法使いすぎちゃって、さすがに疲れました」
「あはは、私も自作魔法について研究しましたねー。結局最後まで使えませんでした」
もちろん先生も無詠唱で魔術を発動できる。
「そして?どんな魔法ですか?」
「かっこいい竜を召喚しました」
「ほほう、ルター君にかっこいいと言わせるんだからかなりかっこいいいいんでしょうねぇー」
そういえば俺あんまりルイーゼ先生の前であんまりかっこいいとか使わなかったな。
「それで?その魔法は実用的なんですか?」
「いえ、実用的ではないので調整しようと思ってます」
「なるほど、弱いんですね」
「いえ、かなり強いです。ただ、消費魔力が、僕の魔力の半分なので、ちょっと実戦では使えないと思います」
苦笑いしながらそう言う。
「なるほど。今までの実用的じゃない自作魔法と事例が違いますね…」
「というと?」
「いえ、ただのデータ不足ですが、今までの実用的じゃない理由は、明らかにどの魔法も威力が弱かったからなんですよ。しかしルター君の自作魔法は魔力を使いすぎてしまうから実用的ではない…。そう考えるとただルター君の魔力の適正が高すぎるせいなんでしょうか?そう考えるならその調整も可能でしょうね」
「今までは、調整して威力が上がったという事例はなかったんですか?」
「はい、ありませんでした」
なるほど、意外と俺ってとすごいのかもしれない。
「さすがルター君です!」
そういうとルイーゼ先生は俺に優しく抱きついた。
風呂から上がって、服を着て、リビングにいる先生に話しかけた。
「先生、前から聞きたかったんですけどバリアスさんってどんな人だったんですか?」
白銀のバリアスには少し興味があった。今更かもしれないけどね。
「バリアスですかー、彼は容姿も、性格もよかったので女性受けもかなりよかったですよ?」
「ということは先生も好きだったんですか?」
「うーん、そういう感情はなかった気がします。彼はどちらかというと家族みたいな、そんなかんじですね。というかルター君、最近色恋に興味があるんですか?」
「いえ、ただ気になっただけですが」
「いいんですよ〜、そういう年頃ですしね〜」
いや、本当にただ純粋に気になっただけなんだが。
「よし、ルター君にいい人を紹介してあげましょうか?これでも顔は広いんですよ?」
「いえ、本当に大丈夫です」
「いや、ここは私がお嫁さんになるっていうのはどうですか?」
「いえ、本当に結構です」
少し怒り気味にいう、これが先生には効果的だ。
「す、すみませんルター君!調子にのりすぎました!」
「いえ、わかってくれたのなら大丈夫ですよ」
本当に俺に嫌われたくないんだな。まあ親代わりだしな。
「それじゃ、僕は寝ます。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい!」
ハリーポッターを隠してスネイプ先生を隠さないというw