六話 イリス・ユグニス
「今日は魔術同士の戦闘の授業をします」
そう言って移動したのは学校のグラウンドだ。
ここで魔術の訓練を行う。
「では、まずはお手本ですね。ガリフ君、お願いします」
「はい!」
お、張り切ってるな。
「それでは相手を指定してください、ガリフ君」
あ、それあかんやつや。
「では、ルター君で」
はぁ、最悪だ。動きたくないでござる。
まあいい、勇者のひ孫がどのくらいの実力なのか試させてもらおう。
「はい」
「大丈夫なの?死なないでね?」
アリス、心配してくれるのか、可愛い奴め。
「これが終わったら結婚しよう」
「え!?」
「冗談だよ」
駄目だ、さっきからテンションがおかしい。
まあ落ち着け、相手は10歳の子供だ。俺も同年齢だけどね。
さすがに使ってくるとしても中級クラスの魔法のはずだ。
そこを素早く対処して、さささっと終わらせてしまおう。
「準備はいいですか?では、始め!」
「ライトニング・ストライク!!」
ほう、無詠唱か。しかもライトニングストライクは上級魔術だ。上から雷が降ってくる。何?殺す気なの?普通の人じゃ死ぬって。
「サモンズウォール」
壁を召喚して落雷を防ぐ。普通の召喚壁だったら壊れてるだろう。だが俺はバイアスアビリティだ。
「サモンズナイフ」
ナイフを召喚して飛ばす。これくらいなら避けられるだろう。それが狙いだ。
「甘いぞ!」
お、いいね、右に避けた。
「リフレクター」
「うわ!?」
相手の足元にリフレクターを敷く。もちろん最高出力でね。
「うわああああああああぁぁぁぁぁぁぁ…」
ふう、一丁あがり。きたねえ花火だ。
「…ぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
もちろん死なれてもらっては困るので、最小出力のリフレクターを敷く。
これで怪我も何もしないはずだ。
「ガクガクガク」
「先生?ガリフ君は戦闘不能みたいですよ?」
「そ、そうね。勝負あり!」
ちなみに俺は一歩も動いていない。
平然と元いた場所に戻る。
「…すごいわね。心配したのが馬鹿みたいだわ」
「すごいだろ?」
他の貴族の視線は「調子乗るのなよ?」とでも言いたげだ。
魔術戦闘の授業がおわり、教室に戻る。
アリスは他の女子とすぐに仲良くなった。うん、楽しそうだ。
俺はというと…。まあわかるだろう?俺のクラスは貴族がほとんどだから軽蔑されるんだよ。
話す相手は1人もいない。…ボッチだよ。笑いたければ笑え。仕方のないことなんだ。
「今回の剣術の授業からは、王宮剣術、タグニス流剣術、北洋剣術に分かれて授業を行います」
ほう、なるほど。
まあ剣術の授業は毎年王宮剣術に人口が集中するらしい。
もちろん俺はルイーゼ先生から習った北洋剣術を取る予定なので、俺にとっては好都合だ。
「では、王宮剣術を習いたい人は手をあげてください」
一斉に多くの手が上がる。お、アリスも王宮剣術か。やばいな、ついに話せる人0人になるぞ。と、アリスがこっちを見てきた。
「私やめ…」
「はい、次はタグニス流剣術ですね。習いたい人は手をあげてください」
アリス哀れ。
こちらは数人手をあげた。もちろんガリフも手をあげた。勇者のひ孫ってめっちゃ自慢してたからな。誇りなんだろう。
いや、ちょっとまて、さっきから王女が手をあげてない気がする。てっきり王宮剣術習うと思ったのに。
「じゃあ、北洋剣術を習いたい人は手をあげてください」
2人の手があがった。俺と…、イリス王女だ。はぁ、よりによってこいつかよ。1番最悪だ。しかも2人だけ。史上最悪とでも言っていいだろう。
「それじゃあ、早速分かれましょう。王宮剣術の人はグリフ先生に、タグニス流剣術の人はカタリナ先生に、北洋剣術の人は私についてきてください」
へー、リカスグ先生って北洋剣術できるんだ。
「じゃあ、2人がこの剣術を選んだ理由が知りたいな」
嬉しそうな顔で先生が選んだ動機を聞いてくる。嬉しかったのかな?
「僕はルイーゼ先生が北洋剣術を教えてくれたからです。それなりに使えるつもりでいます」
そう、俺はルイーゼ先生に北洋剣術を習っていたのだ。だから一応それなりには使えるつもりでいる。
「イリスちゃんは?」
「私はゲスい貴族の子供とは一緒に居たくないので」
「なるほどぉー」
なるほどぉー、じゃねえよ。どんな理由だよ。
「あなたは大丈夫よ。私は平民は嫌いだけど、実績を残してる人は別よ」
「いや、俺は何もして居ない気がするんだが」
「キンペラー家のボンボンを倒したでしょう?あれはすごかったわ」
そりゃどうも。
「彼は昔から王宮に招かれて剣術や魔術を披露してたわ。彼は凄かった。だけど何かが足りなかった。それは人間性よ」
ほう、すごいことを言うな。
「それに比べてあなたは強さも、人間性も上だわ。人格者よ」
「それはさすがに言い過ぎだと思うぞ」
「そうね、言い過ぎたわ」
おい、否定しろよ。
「あ、あの…」
先生は困った顔をしている。
「それで、あなたに折り入ってお願いがあるの」
「うん」
「できればなるべく私と一緒に行動して欲しいの」
「その心は?」
「あなたといると色々学べるでしょうし、護衛にもなるわ」
「なるほど。ただずっととなるとちょっと…」
「気が向いたらでもいいわ」
「わかった。それでいこう」
「ありがとう、ルター・グランホルン君。これでも名前を覚えるのはかなり苦手なの。頑張って覚えたのよ」
「それはどうも」
何?ツンデレなの?
「あ、あの…」
「すみません、今終わりました」
そりゃ先生困るわ。
「う、うん。それじゃあこれから北洋剣術の授業を始めます」
簡単に言うと授業の内容はルイーゼ先生となったことの復習だった。
イリスは少し苦戦してたみたいだが、コツを掴むとすぐになんでもできるようになった。
「これで授業を終わります。教室に戻ったらすぐにホームルームなので素早く戻ってくださいね」
「「はい」」
教室に戻り自分の席に着くとアリスから話しかけられた。
「大丈夫だったの?あの王女から何もされなかった?」
「うん。仲良くなった」
「ええー」
アリスが意外そうな顔で俺の顔をのぞく。まあ驚くのも仕方ない。自己紹介の時に「上級貴族以外は話しかけないでください」とか言ってたもんな。
「まあ確かにあいつは性格が一癖二癖あるからな」
「何か言ったかしら?」
「うわ!?、違うんだイリス、今のは」
「イリス!?あなた達呼び捨てし合うの?」
「何か問題があるかしら、ア…、バルクルンさん」
「アリス・バスクルンよ。ちゃんと覚えなさいよね」
「失礼したわ。アルスさん」
「アリスよ!」
なんだこの茶番。俺蚊帳の外なんだけど。
「イリス、アリスは俺の昔からの友達で、一応次席で入学したから頭は悪くないと思う。仲良くしてくれないか?」
「そうだったんですね。すみません、てっきりそこらへんの貴族のボンボンだと思ってました」
「誰が貴族のボンボンよ!」
いや、思ったこと口に出すぎだろ。もう少し調整しろよ。友達できなくなるぞ。
「はあ、なんなのよあいつ。変人ってレベルじゃないわ」
「まあまあ、王女と友達になれるってなかなかないぞ」
「あんな奴と友達になるのは嫌よ」
「そこをなんとか!」
アリスは、一瞬考えるそぶりを見せて
「わかったわ。ルターの頼みだしね」
「ありがとう!」
「ただ」
「ただ?」
「…なんでもない!」
「なんなんだよ、気になるじゃないか」
「いいから!なんでもないの!」
そんなことを口にしながら、僕達は帰路につく。