五話 入学
「これで入学式を終わります。新入生はそれぞれのクラスに移動してホームルームを開始してください」
今日、俺ルター・グランホルンは王都魔術学校に入学した。
先生との約束を果たすべく…。
先生は幼い。実年齢は26歳だが、体は14歳である。
それは見た目がという意味ではなく体が成長していない、いや、"体の時が止まっているのだ。
黒死病。それは魔術がまだ発達していなかった4000年〜5500年前にかけて流行っとされる疫病だ。
当時は戦争が絶えなく続き、大国が次々に崩壊していき、暗黒期になった。
そこで、疫病である黒死病がはやり、世界人口の約半分が死んだとされている。
そこで登場したのが、魔術だ。
魔術の治癒魔法を使うことで、黒死病は完治し、それ以降もはやることはなかった。
ルイーゼ先生は10歳になってから咳をすることが増えていった。
最初は風邪か何かだろうと思って放置していたのだが、咳は治らず、特に咳以外の症状はなかったので特に気にしていなかった。
症状が悪化したのはそれから2年後である。
「ルイーゼ!どうしたんだ!」
そう言ったのは先生の幼馴染のバリアス・ケンブリー、二つ名は白銀だ。
彼は水魔法が得意で、それを氷に変えて飛ばすのが得意なのだとか。
先生は授業中に倒れ、保健室に連れ込まれた。
保健室の先生によると
「治癒魔法は使ってるのですが…、容態は良くなりません」
「病名はなんて言うんですか?」
「…黒死病です」
「黒死病なら治癒魔法で治るでしょう!なぜ治らないんですか!」
「彼女の病態は不自然です。黒死病なら発症から1年以内に必ず死亡してしまうはずです。…特殊なケースです」
「違う病気という可能性は?」
「黒死病を発症すると、手の甲にホクロのようなものができるはずです。ホクロとは違うので、すぐにわかるでしょう。それが、彼女にはあります」
それを聞いたバリアスは頭の中が真っ白になった。
(ルイーゼが死ぬ…?)
小さい頃からずっと一緒にいて…、恥ずかしい話だが、将来は結婚したい相手だ。
「何か…、治す手段でもなくていいです。病気の進行を止めるだけでいいんです」
「…ありますが…、おすすめはできません」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!一刻も早くその手段を取るべきです!」
「魔道具を使ってルイーゼの体の時間を止めます。止めると言っても普通に生活できますが、成長や、女性としての本能も失うでしょう。それは彼女にとって辛いことです」
「わかっています。俺はルイーゼの黒死病を治し、魔道具の解除の方法を探します。…絶対に救ってみせる」
そのバリアスは今、各地の古代遺跡をまわり、黒死病の治し方や、魔道具の解除の方法を探しているらしい。
俺も先生の力になりたい。だからこの学校に入学したんだ。
あの時、先生にひろわれなかったら、あの時死んでいただろう。
恩を返すため…、病気の治しかたと、魔道具の解除の仕方を見つけてやる。
新入生はA〜Fクラスに分けられた。俺はCクラスだ。
「私と同じクラスね!」
そんなこと言ってるのはアリスだ。
どうやらアリスは次席で入学したらしい。すごいな。
「ああ、そうだな。これからよろしく」
「うん!」
子供っぽいと言ったらいいのかなんと言ったらいいのか…、蔓延の笑みで返してくるな。
(あれ?)
1つだけ気になる名前を見つけた。
ガリフ・キンペラー
これって…
「初めましてお嬢様、私はガリフ・キンペラーと申します」
「わ、私?私はアリス・バスクルンです」
「バスクルン家でしたか!どうりで美しい!」
「そ、それはどうも」
困った顔でアリスがこっちを見てくる。知らねえよ、自分で解決しろ。
「知ってると思いますが、我がキンペラー家は勇者の家系ということで有名です」
そうだね、キンペラー家はただでさえ上級貴族だからな。
「私はその美しい金髪に見惚れてしまいました。一目惚れです。よかったら私と結婚前提でお付き合いいただけないでしょうか?政略結婚としてもいいと思いますし、メリットはいっぱいあると思いますよ?」
いや、唐突な告白だな。アリス困ってるぞ。
まあいいんじゃないか?アリス側もいい事尽くめじゃないか。
一生ない機会かもしれないぞ。
…ヒロイン候補1人消えるけど。
「ご、ごめんなさい。実は私、心に決めた相手がいるので…」
ん?それって…
「それって俺のこと?」
「ええええええーと、えーと。どうかなぁ。あははは」
完全に俺のことじゃねえか。でも期待にはそえないかもしれないけどね。
まだまだ出会いは残ってるからね。
ガリフは嫉妬の目でこっちを見てる。ガリフ哀れ。
「そこの者。よく見たらお前平民じゃないか。アリスさんから離れろ。貴様と一緒の空気を吸うと穢れるからな」
めっちゃ突き放してくるな。やっぱり貴族は平民のことを奴隷くらいにしか思ってないらしい
「すみませんでした。今すぐ移動します」
ここで問題を起こせばいくらルイーゼ先生でも庇いきれないだろう。反論するのはやめよう。
「いいえ、ルター。あなたが移動する理由なんてないわ。ガリフさん。お言葉ですがあなたが移動すればいいだけのことでは?」
「うう」
やめとけアリス。それ以上そうなると俺が悪者になる。もちろん冤罪だがな。
「わかった。私が退こう」
いざぎいいな。
「…そこの平民。覚悟しておけ」
こわっ。勇者ってみんなに優しいんじゃないの?
「はあ、何なのあいつ。めちゃくちゃムカつくわ」
「まあまあ、ここにいる人はみんなあんな感じでしょ」
「私が守ってあげる。これでもバスクルン家だから口出しができなくなると思うわ」
「いいよ別に。自分で何とかする」
「駄目よ、あんなのに好き勝手されたら腹が立ってくるの」
ご立腹でございますか。
「みなさーん、席についてください」
担任のリカスグ先生だ。大人の魅力がある女性だなぁ。
「まずは皆さんに自己紹介をしてもらおうと思います。学級のまとまりは仲良くなることからですね」
せんせーい。どうしても仲良くなれない人がいる場合はどうしたらいいんでしょうか。
「私はアリス・バスクルンよ。次席で入学したけど、勉強面は心配だから、みんなの力を借りたいと思うわ。よろしく!」
自慢入れるな、嫌われるぞ。
「…じゃあ次はイリス・ユグニスさんお願いします」
え?、聞き間違いじゃないよね?
「初めまして、イリスと申します。一応首席で入学させてもらいました。知っての通り時期王女になると思います。その時は是非ご支持をお願いします。…あと、上級貴族以下の人間とはあまり話したくないので、気安く話しかけないでください」
案の定やばい人だな。差別はすごいって聞いてたけどここまでとは思わなかった。このままだとお前のこと支持する人減ると思うぞ。
…そのまま自己紹介が続いておれの番になった。
「ルター・グランホルンと言います」
「何だ?平民かよ」
「平民と一緒の空気吸いたくねぇなぁ」
そんな声も構わず自己紹介を続ける。
「特別生として入学させていただいています。あと、ルイーゼ先生の弟子です。よろしくお願いします」
すると、さっきまでニヤニヤしておれのことをバカにしてたやつらの表情が固まった。
ルイーゼ先生は結構発言力あるからな。もっと馬鹿にするなら先生に言いつけてやるぞ。
そうして貴族と平民との溝を知ったところで入学1日目が終わった。
はぁ、先が思いやられるよ。