四話 この世界の剣術について
あの事件から1年がたった。
俺は今、アリスの家に来て、一緒にルイーゼ先生の授業を受けている。
「大いなる雷神よ、我に力を与えよ、ライジングボルト!!」
次の瞬間、雷球が生まれ、素早いスピードで飛んで行った。
「おー!よくできました!」
アリスが「どう?」とでも言いたそうな顔でこっちを見てるな。
王都魔術学校に合格するにはこれくらいの歳から本気で魔術の勉強をしないといけないらしい。
この1年はとても平凡な日常だった。
いつも通りルイーゼ先生の授業を受けたり、アリスと遊んだり。
そういえば俺のことを王宮に報告したらしい。
平民の俺がバイアスアビリティだということを知って、王宮の人はすこしがっかりしたらしい。
王都魔術学校には俺が10歳になったら特別生として入学していいらしい。
そのことに反対する貴族もいたが、俺がルイーゼ先生の弟子だと聞くと、すぐにその意見を取り消してくれたらしい。ルイーゼ先生ぱねぇっす。
アリスも、バスクルン家の名前を恥じさせないために今、一生懸命勉強しているところだ。
まあコネで簡単に入れると思うんだが。
「では、次は土魔法の詠唱ですね」
「わかりました」
そういうと、明らかにこっちを意識しながら詠唱を始めた。
「…ガイアウォール!!」
「おお!詠唱なしで発動しましたね!」
まさか無詠唱で魔術を発動できる才能がアリスにあるとは…!
「どう?これが私の実力よ!」
「おー、そりゃすごい」
「何?その愛想の無い言い方は?悔しかったら破壊魔法の1つくらいでも発動させてみなさいよ?」
よくアリスは俺が召喚魔法しか使えないとバカにしてくる。
「…召喚魔法ならできるよ?」
「駄目ね、先生に習わなかった?魔術は3つの系統の魔法を組み合わせて初めて真価を発揮するのよ?はぁ、なんでこんな奴が王都魔術学校の特別生としての入学が決まってるのよ…」
…こいつ、俺が召喚魔法使えても初球から中級くらいしか使えないと思ってるのか?
最上級魔法を使って目にもの見せてやろうとも思ったが、俺には自分の才能を自慢する趣味はない。
…将来こいつに追いつかれそうとか思ってないからね?
「はいはい、そこまでそこまで。アリスちゃん、ルター君の王都魔術学校入学に文句があるなら、アリスちゃんが合格してから言いましょうね」
ルイーゼ先生はいつでも俺を庇護してくれるな。
ルイーゼ先生にひろわれて本当に良かったと思うよ。
「先生はルターに甘すぎです!こんなんだったらルターはすぐに留年しちゃいますよ!」
なるほど、アリスはアリスなりに俺の身を心配してくれてるのか。
でも大丈夫。
「特別生に留年なんて制度ないからな?」
「え?そうなんだ…」
「そもそもルター君は優秀なので留年なんてするはずがありませんよ!」
ルイーゼ先生のその過大評価は一体いつになったらしなくなるんだろうか。師匠として、親代わりとして俺のことを可愛がるのはいいことだが、俺からみても本当に甘やかしすぎだと思うぞ。
「というわけで今日の魔術の授業はこれで終わります」
唐突だな!?
「代わりと言ってはなんですが、残りの授業で剣術を2人に教えようと思います」
なるほど、剣術か。というかルイーゼ先生剣術できたんだね。
前世で俺は剣道をやってたな、なつかしい。8年間やってないから今でもできるかはちょっと心配だ。
「まずはいつもの座学からですね。というわけで中に入りましょう」
「「はーい」」
「それでは授業を始めます。まず、剣術は、王宮剣術、タグニス流剣術、北洋剣術の3つの種類があります」
おっと、いきなり気になる単語が出てきたぞ。
「先生、そのタグニスは勇者タグニスという認識で合ってますか?」
「はい、まちがいないです」
おお、心の中であの人のこと馬鹿にしてたが案外すごい人なのかもしれない。
アリスが「当たり前じゃない」とか言いそうな顔でこっちをみてる。お前はもう少しポーカーフェイスを作れ。
「まず、王宮剣術の説明です。王宮剣術は名前の通りユグニス王国発祥の剣術です。主に武器はブロードソードやサーベルが一般的です。素早い立ち回りが特徴です」
なるほど、西洋の剣術ににてるな。ただ使うとしたらこれじゃないな。王宮剣術って言うくらいだからここ、ユグニス王国では1番人口が多いんだろうな。対策されそうだし。
「次にタグニス流剣術ですね。さっき言ったように勇者タグニスで知られる、タグニス・キンペラーが作った剣術だと言われています。使う武器は主にロングソードか両手剣です。こちらは逆に一振りで相手を仕留めることが前提となっている剣術で、動きはおそいです。ただ上級者になると急所を的確にねらい、素早く仕留めるので反撃する暇もなんだとか」
こちらはなんだか日本の剣術に似てる気がするな。というか初めてタグニスさんの本名でたし。
「最後に北洋剣術です。北のアルス大陸全般で使われている剣術です。使う武器はなんでもいいですが、素早く突き刺せるレイピアがよく使われます。こちらはカウンターを主体としていて、相手の行動を利用して攻撃します。実は先生は学生時代に剣術の授業で北洋剣術を選んでいたんですよ?」
お、そうなんだ。ルイーゼ先生が選んでたなら俺もこれを選ぶか。
「ここまでが座学です。次は剣術の実技をします。と言っても先生は北洋剣術しかできないので、お手本を見せるだけだと思います。それでは庭に移動しましょう!」
先生張り切ってるな。
「ではルター君。この木刀で思いっきり切りかかってください。」
「は、はい」
俺はなるべく先生に反撃させたくないので突きを選ぶ。なんだか振るとかえされそうでこわいんだよな。
「ふっ!」
俺が先生に向かって思いっきり突くと、一瞬何が起きたかわからなかったが、先生は剣に吸い付くようにギリギリで回避し、俺の腹のところで木刀をトントンと叩いた。現実で戦闘をしたら、この時点で死んでいただろう。
「先生すごい!」
アリスがキラキラした目で一連の流れを見てた。
いや、俺もびっくりした。先生が子供っぽいからという理由でここまでとは考えていなかった。
「ふふん!すごいでしょう!」
今日の授業はここまでで終わった。
先生と帰路につく。
(剣術か…。今後必要になってくる時が来るだろうか…)
「先生、週に何回でもいいので剣術を教えてもらえませんか?」
「え?いいんですか?先生は北洋剣術しかわかりませんけど」
「先生が北洋剣術を使うなら僕も北洋剣術を使います。一生先生の後を追って生きていきますよ」
「むふふぅ、それは嬉しいですねぇ。ただし私は厳しいですよ?」
今までの先生から考えると絶対それはないと思うけどね。
「大丈夫ですよ?上手くいかなければ叱ってもらっても」
「うーん、やっぱりそれは抵抗がありますね」
やっぱり最初から厳しくする気ないやん。
「チュッ」
先生が僕の頬にキスをしてきた。
「わっ」
「そんなこと言うから先生嬉しくなっちゃいましたよ。ルター君、大好きです」
「そ、それはどうも…」
「あれ?ルター君。頬が赤いですよ?いいまでにない反応ですねぇ」
先生はにやにやしながら俺の顔を覗く。
「いいんですよ?先生のことを好きになっても。逆に大歓迎です。先生と結婚しましょう」
「僕が成人する頃にはもう先生32歳ですよ?いつまでこの体格でいられるか、僕は心配ですけどね」
余談だが、この世界の成人は16歳だ。なので王都魔術学校も6年生まである。
「…」
先生は何も言わない。やばい、怒らしちゃったかな?
「せ、先生大丈夫ですよ?そんな体格でも僕は先生のことが好きですから」
「やっぱり言った方がいいんですよね」
「え?」
「ルター君、家に着いたら秘密の話があります。今までの誰にも話したことのない秘密の話です」
そう言っていた先生は、すこし悲しい顔をしていた。