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ロマニストがサーフィンをして見た景色  作者: 雨竜三斗
第三章 サーフィンショップの店員さん
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3-2 も~なんのためにここに来たのよ~っ

 優里亜はにあるショッピングモールにやってきた。藤沢、鎌倉周辺では珍しく幕張にありそうな規模である。夏休みということもあって家族連れ、カップル、学生グループで賑わっている。


 チェックのミニスカートにいつもより薄いニーソックス、薄手のパーカーのポケットに手を入れて、マネキンを睨む。


「う~む」


 鈍い声を出しながら睨んでいるのは水着だ。ソーニャのウェットスーツを見てから、優里亜は対抗手段を考えていた。


 敵は文字通り外国人のスタイルだ。オサムが目をやってしまうのは仕方ない。だったら、自分もそうやって目を引いていくしかない。

 そこで水着を新調しようという考えに行き着いた。ビキニにすれば、下はウェットスーツと合わせられるし、なにか機会があればオサムに見せることもできる。


(こう、フリルがついたのがあればあたしでもワンチャンあるかもだけど――)

「ユリア!」

「こういうのを着てると胸がないって思われるかしら……わぁあ!?」


 途中で思考が声に出ていたのと、優里亜の名前を呼ばれたので二重に驚いた。転けそうになったのをなんとかこらえて、声をかけた主を確認する。


「ソーニャと……お姉さん?」

「よう、優里亜。水着選びか」


 普段見るときはスーツなのに、今日は私服の静佳がソーニャの横に居た。


 グレーのニットベストと紺のジーンズというシンプルな装い。だが、履いている靴が高そうだと優里亜は感じた。

 隣のソーニャは袖のない白のワイシャツに短パンだ。動きやすそうな格好をしているからか、今日も元気に金髪を揺らしている。


「なっ、なんであんたと静佳お姉さんがいるのよ!?」

「ソーニャが普通の水着もほしいって言うから連れてきたんだ。優里亜こそ今更今年の水着を選ぶとか、行動が遅いんじゃないか?」


 八月に入り、長い夏休みも海で泳げる期間も一ヶ月を切っている。この事実を伝えながら、静佳は黒い目の奥にダイヤモンド入れたように光らせている。


「ちっ、違いますっ!

 ただぼーっと見てただけ。ウィンドウショッピングってやつ!」


「そんな英語あったっけ?」

 優里亜の聞き慣れない横文字にソーニャは首を傾げる。


「日本特有の言い回しだ。優里亜、日本語英語は海外のひとには通じないぞ」

「そっ、そんなの今は関係ないですっ!」

「そうだったなぁ。で、どうしてこの時期に水着を?」

 優里亜は言い返した後、このまま話をそらしてしまえばよかったと口を曲げた。


「それは……前着てたのがボロくなっちゃって」

「ふ~んホントに?」

「ほっ、ホントですって」


 肩をすくめる静佳の信じてない声と目に必死に反論するが、状況が悪いと優里亜は思う。


「じゃあ、ユリアはどういうのがいいと思った?」


 ソーニャはいつもの真夏の笑顔をかしげながら、不純物のないエメラルドのような目を輝かせて聞いた。静佳が面白そうに聞いてくるのとは違い、本当に純粋な気持ちだというのは、優里亜にもよく分かる。これは突き放せないと感じてしまい、優里亜は肩を引き、口をゆっくりと開く。


「えっと……こういうのが流行ってるから――」

 指差したのはさっきから気にしていた水色のフリルのついた水着だ。


「ほ~、いいんじゃないか?」

「静佳お姉さん、ほんとに良いって思ってます?」

「シャッコージェレーってやつ?」

「社交辞令ね、どういう間違えしてるのよ」

 優里亜が訂正すると、ソーニャの頭の上にクエッションマークが浮かぶ。


「まるでアニメに出てくるロボットの名前みたいだな」

 優里亜は静佳のよく分からない表現をスルーして、

「でもあたしには子供っぽいかなって思って、悩んでたんですよ」

「子供だからいいんじゃないか?」

「あたし大学生ですけど、来年は成人式ですよ?」

「私からすれば子供だ」


 社会人経験何年の静佳に言われてしまえばそこまでだ。

 それに静佳がいろいろな仕事をしてきたり、法律に詳しかったり、いい大学を出ていたり、普通のサラリーマンと比べて優秀なひとだということも優里亜は聞いている。それと比べば普通の大学生なんて小学生と大差ないのかもしれない。

 それが分かっていると優里亜は歯の奥を噛んで、勝てない反論を飲み込む。


「そうだ、オサムに選んで貰えば?」


 そんなところに年中晴れのち晴れなソーニャから、空気が読めてるのか読めてないのか分からない発言が飛び出る。いきなりオサムの名前が出てきて、優里亜の体中に高温の血が巡るのを感じる。


「な、なんでそこであいつが出てくるのよ!?」


 文字通り図星でも突かれたように否定。


「えー、いいじゃん。男の子がいいって思うものは似合うんだよ?」


 そのオサムに見せたいからこっそり選びに来たのとはいえない優里亜は、どうこの話題を切り抜けようか悩む。


 それを見て静佳は黒いダイヤモンドのような目を細めた。

(さてはこの子、オサムに見せるための水着を買いに来たな……)

 その理由に気がついた静佳は、スマホを取り出して親の仇を人質にとるように見せびらかす。


「いいんじゃないの? 今からオサム呼ぶ? 私が言えば無理でも来るわよ?」

「けっ、結構ですっ!」


(も~なんのためにここに来たのよ~っ)

 静佳が呼べば本当にオサムは来る。そう思って優里亜は脱兎のごとく逃げ出した。

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