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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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97/125

その97 ぽかぽかになりました



 琥珀色の液体が、グラスに注がれる。

 ほのかに温かいのは、火炎樹の実のせいだろう。


 くんくんと、匂いを嗅いでみる。

 酒精に混じって、コーヒーにも似た香ばしい香りがする。


 舐めてみる。

 舌先に、淡い苦み。

 それからひと口、口をつける。

 えもいえぬ香気が、口中から鼻に抜けていく。

 味わいは芳醇。その中で淡い苦みが、全体に一本の芯を通している。



「苦い……けど、うん。これはいいね」



 シェリルに微笑みかける。

 なんというか、大人の味って感じだ。

 私は子供舌なので、チョコとかラムネとか、甘いものが欲しくなるけど。



「喜んでいただけて光栄です。いくらでもお飲みになって下さい」


「いや、私お酒に弱いし、なによりこれってキミの薬みたいなものでしょ? 気持ちだけ貰っておきます」



 言いながら、くぴりともう一口。

 火の魔力を持ってるせいか、体が温かくなってくる。

 おなかの中からあったまる感じで、ちょっと気持ちいい。


 心なしか、シェリルちゃんの視線が生温かい。



「そういえばさ」



 ふと、気になって、黒髪少女に目を向ける。



「――キミと会う時、言いくるめられやしないかって、身構えてたりしたんだけど……なんというか、すごく丁寧だったよね? それも心境の変化からなのかな?」


「……いえ、以前のわたしでも、あなたには同じ対応をしたでしょう」



 苦笑にも似た笑みを浮かべて、影の魔女シェリルは答えた。



「――考えてみてください。神様を、騙す気になれますか? 後日にでも発覚して怒りを買えば、自分の身はおろか、国さえも滅ぼされかねないというのに?」



 ああ、そういえばそうか。

 そもそも、大前提として、影の魔女シェリル個人も、ローデシア王国宰相シェリルですら、交渉相手としては、私と対等じゃない。


 騙したり、あるいは交渉によって公平を欠く成果を得ようだなんて。



「……まあ、怖くて出来ないだろうね」


「でしょう。以前さる魔女の怒りを買って、痛感しました。魔女や幻獣は敵に回すものではない。誠意を以て当たるしかないと」



 なんというか、その言葉には深い実感がこもっている。



「ひょっとして、その魔女ってオールオールちゃん?」



 お酒を口にしながら、ふと気になって、尋ねる。

 黒髪少女は、すっごく不審げな顔になった。



「ちゃん? ……ええ。陋巷の魔女オールオールです。どうも相性が悪いようで、わたしのなにげない言動が、彼女の勘に触るようなのです。正直彼女だけは、どれほど本音を吐露しても、わかりあえる気がしませんが」



 まあオールオールちゃんは情優先で、シェリルちゃんは法優先だ。スタンスからしてもうケンカになる気しかしない。

 地味に、この子が根っこの部分を晒せば、案外仲良くなれる気もするけど。実姉に対する献身的な愛情とか。



「うなー」


「うなー?」



 シェリルちゃんが首を傾ける。

 酔ってきたかもしれない。くぴくぴ。



「女神様、もうそこまでにされた方がよろしいのでは?」



 見かねたのか、シェリルちゃんがやんわりと止める。



「まあ、そう言わずに。シェリルちゃんももっと飲もうよ」


「わ、わたしは、それほどお酒も強くないですし、魔力的にも許容量が……」


「じゃあ、べつのお酒にしよう!」



 シェリルちゃんの手元にあった呼び鈴を、ちりんちりんと鳴らす。



「じんぐるべーる!」


「女神様。姉様が起きてしまいます。どうかお静かにお願いいたします……!」


「ふふふー。シェリルちゃんはリーリンちゃんが大好きなんだねー」


「な、なっ!?」



 おお、シェリルちゃんが真っ赤っか。



「……シェリル様」



 と、扉の向こうからサムズさんの声。

 ふつうなら侍女さんとか執事さんの仕事なんだろうけど、あっちはあっちでシェリルちゃんが心配なんだろう。



「サムズ。なにかお酒と、お水と、つまむものを用意して。それから、巫女アルミラに事情を伝えて――」


「だめです」


「しかし、あまりお過ごしになっては……」


「怒られるのでだめです」



 私がダダをこねると、シェリルちゃんはあきらめたようにため息をついた。



「……どうぞ、女神様のお望みのままに」







 翌日。

 目が覚めると案の定二日酔いだったり、なぜかシェリルちゃんを抱えて寝てたり、なぜか半裸だったりしたけど、私は元気です。すいません自重します。


 ともあれ、水竜の甘露を飲んで全快したので、出発の支度を整えることにした。

 向かう先は、ローデシア王都フランデル。ジェット飛行術で飛んでいけば、一時間少々でたどり着ける距離だ。


 ただ、飛んで行って火竜王を締め上げて、責任取らせてハイ終わり、とはいかない。


 まず、ローデシア王国の守護神竜である火竜フラム。

 老齢であり、持ち前の覇気を失ったフラムだけど、王都の守護は、盟約に記された事項だ。

 本人の意志に関わらず、火竜フラムは出てくるだろう。幻獣は、契約によって存在を強化されている。契約の履行に関しては、さらに力を発揮する。


 これを敵に回すのは……まあ、やっかいだけど、可能だと思う。

 でも、火竜フラムを殺すのは……シェリルちゃんはともかく、リーリンちゃんが泣くのはすっごく罪悪感がある。


 続いて、王都を守ってるだろう火竜騎士団。これも簡単には潰せない。

 いや、潰すのは簡単なんだけど、それをすると、南部諸侯へのにらみが利かせられなくなる。

 事実上反乱状態にある南部諸侯が挙兵していないのは、西部諸邦最精鋭たる火竜騎士団の存在が大きい。それを損なうわけにはいかないのだ。


 逆に、火竜王や王妃オニキスに関しては、煮るなり焼くなりって感じ。

 宰相の職を罷免されたとはいえ、影の魔女シェリルは王族、しかも長老格だ。その権利を行使して、かなりの無理ができる。


 いろいろとめんどくさいけど、あくまでこれは理想だ。

 最悪火竜フラムが殺されるのも仕方ないし、火竜騎士団の壊滅もやむなし、とシェリルちゃんは言ってくれてる。

 さすがに火竜フラムが死んだら一大事なので、その時はローデシアの守護神獣になることも考えてほしいって頼まれてるけど。


 要するにアレだ。

 良心が許す範囲で好き勝手やっていいってことだ。

 私はそう解釈した。たぶんそんなに間違ってない。

 王都にダイナミックエントリーだけは、火竜フラムの出動案件なのでNGだろうけど。


 と、いうわけで。



「やあ」



 王都フランデルの後背、ウラ山脈のふもとに建つ、壮麗な神殿。

 火竜フラムのお宅を訪問することにしました。


 まずはうえ同士で話をつけなくちゃね!



次回更新26日22:00予定です。

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