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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その93 影の魔女に会ってみよう



 影の魔女シェリルは、ベッドに身を横たえ、眠っていた。


 黒い。

 というのが、ぱっと見の印象だった。

 生地から装飾まで、すべて黒いドレスを着込んだ少女だ。

 外見年齢は……11、2歳くらいかな? オールオールちゃん以上リディちゃん以下って感じ。

 姉のリーリンちゃんは赤毛だけど、彼女の髪は漆黒。肌は、対象的に真っ白い。お人形さんみたいな美少女だ。


 ぱっと見、ただ眠ってるように見える。

 具合が悪そうな様子はない。



「ひどく弱っておられます。近ごろは、眠っている時間の方が長くなりました」



 家宰さんが、沈んだ様子でつぶやく。



「――リーリン様、どうか声をおかけになって下さい」


「わかったのだ! シェリル! シェリル! リーリンが来たのだ! 起きるのだ!」



 素直にうなずいて、リーリンちゃんが騒がしく声をかける。

 ややあって。



「う……ううん」



 影の魔女が小さくうなり、うわ言のようにつぶやいた。



「……ねーねー……?」



 恐ろしいまでの静けさが、部屋を支配した。

 沈黙の中で、影の魔女シェリルはゆっくりと目を開く。

 ベッドの周りに立つ私たちの姿を、視線でひとめぐりさせて。


 少女の顔は、真っ赤っかになった。







「……失礼いたしました。姉様、おひさしぶりです」



 なにもかもなかったかのように、影の魔女シェリルはリーリンちゃんに挨拶する。



「ひ、ひさしぶりなのだ!」



 黙って出ていったことを叱られると思ったのだろうか。

 赤髪幼女は、私の姿を視線で確認しながら、挨拶を返す。



「……」


「……」



 なんだか微妙な沈黙が訪れた。

 うーん。私たちに関しては、存在ごと無かったことにしたそうな感じなので、話しかけにくいんだけど、全然話が進みそうにないし。



「リーリンちゃん、妹にねーねーって言われてたの?」


「きゃーっ!?」



 シーツを被って発狂したように叫ぶ少女。



「だいぶ昔の話なのだ! 懐かしいのだ!」


「きゃーっ! きゃーっ! 姉様、そこまで、そこまでなのだわ!」


「もぎゃっ!?」



 話を止めない赤髪幼女は、シーツから伸びた白い手に絡めとられた。



「やめるのだ! 暗いのだ! 見えないのだ!」


「では誓ってほしいのだわ今後一切わたしの幼いころの姉様に対する呼称について口外しないことを!」


「わかった! わかったのだ! しゃべらないからはなすのだ!」



 しゃべらないのか話すのか、どっちなのか。

 という冗談はさておき。



「……シェリル? 約束したんだからいいかげん放すのだ!」


「……いい匂い」


「シェリル!?」


「――ハッ!? 失礼いたしました。すぐお放しします」



 ずるずる、と赤髪幼女が疲れた表情で這い出てくる。

 それから、ベッドから飛び降りると、私の後ろに素早く周り込んで鉄壁のガードを築いた。


 影の魔女シェリルは、優雅にシーツをはね退け、姿を現す。

 いままでのことなど無かったかのように、洗練された仕草でベッドに腰をかけ、黒髪をひと掻き。それから静かに、私たちに視線を向けた。



「ようこそおいで下さいました。わたしが影の魔女シェリルでございます……サムズ、人払いを徹底して頂戴。それからお茶の準備を」


「承知いたしました」



 家宰さんが、ちょっと涙声で頭を下げた。

 どう見ても瀕死には思えないけど、家宰さんの様子を見るに、復活したってのが正しいっぽい。


 それから、部屋に明かりが灯され、あたたかい香草茶と砂糖菓子が用意された。

 席についたのは、私とリーリンちゃん、影の魔女シェリルの三人。アルミラさんは空気を読んだのかタイミングを見失ったのか、猫形態でリーリンちゃんの膝の上にいる。こっちに来てくれないものか。



「あらためまして……はじめまして、女神様。あいにくと伏せっておりまして、ろくな食材も用意しておりませんが、精一杯歓迎いたします」


「うん。察しの通り、私が女神タツキだよ。ありがとう……でも、無理して口調作んなくていいよ? ~なのだわって言っていいんだよ?」


「あ、あれは! 幼いころの口癖です! いまはこれが普通ですので、どうかお構いなく!」



 顔を真っ赤にして主張するシェリルちゃん。かわいい。



「まあ、それが普通だって言うんなら、それでいいけど……」


「女神様、別にわたしは嘘をついてるわけではありませんし無理もしてませんので、もの分かりのよさを発揮したていで話を進めないでくださいっ!」


「元気だねえ」


「だから、お願いですのでわたしを姉様と同じ区分ようじょに入れないでください!」


「まったく、仕方のないやつなのだ!」


「姉様!? わたし姉様にはいっぱい言うべきことがあるんですよ! なぜ山を出る時わたしに一言断って下さらなかったんですか! 姉様にまで見限られたんじゃないかって絶望して即死しかけたんですよ!?」


「ヤブヘビだったのだ!? 女神様、助けてなのだ!」


「ちょっと、なぜそこで女神様を盾にするんですか!? ――と、し、失礼いたしました。女神様を無視してしまって」


「いや、いいよいいよ」



 なんというか、二人の日常風景っぽいやりとりに癒されながら、私は笑顔を返す。

 お茶がおいしくてぽかぽかしてきます。



「むしろ元気そうで安心したよ……ひょっとして、キミが死にかけてたのって、リーリンちゃんが居なくなっちゃったから?」


「いえ……それが追い打ちになったのは確かですけれど、わたしが長命を保っていられたのは、やはり政治に対する執着が大きい――いえ、姉様をないがしろにしているわけではないのですけれど! それはあり得ないのですけれど!」



 これ死にかけた要因リーリンちゃんが7割くらい占めてるだろ。

 砂糖菓子をつまみながら、そんなことを考える。



「じゃあ、まだ元気になってない感じ?」


「そうですね。姉様と、女神様に来ていただいたおかげで、わたしの心は張りを取り戻しました。ですが、だからといって、衰弱した力が戻ってくるわけではありません。魔女としてのわたしは、いまだ半病人以下です……ですが、女神様、貴女の望みを叶える、その力添えなら出来ると確信しております」



 そう言って、影の魔女は静かに胸を張る。



「私の望みは、もう知ってると?」


「わたしは影の魔女です。あなたの心を読むことは出来なくても、ほど近い虚像フェイクを紡ぐことは出来ると自負しております」


「なら、教えてくれるかな? 私の望みを」



 試すように、問いかける。

 影の魔女シェリルは、すこしだけ目を伏せて、それから口を開いた。



「まず、大きくは西部諸邦の平和」



 と、彼女は言った。

 異論をはさむ余地はない。



「そのために、戦火に呑まれそうなローデシア王国の平和を」



 それも合ってる。

 今回ローデシアに来た理由。やりたいことはいろいろあるけど、それも集約すれば、彼女の言葉になる。


 そして彼女は、さらに言葉を加える。



「それもすべて、身の回りの平和のため……違いますか?」



 脱帽だ。

 女神タツキの行動原理を明快に表してる。

 いまパッと出てきた言葉じゃない。きっとあらゆる情報を集め、精査し、考察し、そして私の思考をトレースしたんだろう。


 でも、ひとつだけ、つけ加えるべき言葉がある。



「あと無理にとは言わないけど火竜食べたい」


「それはどうかご勘弁いただきたく」



 私が本音を口にすると、影の魔女は軽やかに土下座した。

 姉妹そろって見事な土下座でした。




 

次回更新17日22:00予定です。

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