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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その86 反則技を使ってみよう


 流行歌からその国の情勢を知る、というのは、取り立ててめずらしい手法じゃない。


 めずらしくはないけど、有効な手段だ。

 特に今回の場合、相手は歌を使って世情を操作してると思われるので、その意志を汲み取ることは容易だ。


 さらに、私にしか使えない反則技がある。

 すなわち。


 蒼の都市ライムング。

 水の都アトランティエ。

 そしてユリシスの城塞都市カイザリア。


 この三か所での歌の流行を、タイムラグなしに知ることが出来ることだ。

 こればかりは、通信手段を持ち、またアトランティエ王国、ユリシス王国二国の守護神獣である私にしかできない。


 ローデシアの情勢が刻一刻と変化している今、三都市の距離の差はそのまま相手の思惑の変化を示す。

 たとえばインチキおじさんなんかが分析すれば、かなり細かなところまで読み取れるだろう。


 と、いうわけで。

 アトランティエの執務室に私とエレインくん。

 ライムングからは、ニワトリさんの中継で太守イザークさん。

 ユリシスからは、ユリシスの双璧、マルグス・マルケルスが通信機越しに集い、それぞれの情報を持ち寄ることになった。


 結果は、しかし、みんなが首をひねるものだった。



「流行歌の内、ここ三ヵ月の間、ローデシア方面から流れてきたと思しきものが3ないし4曲。内容は一貫しており、特定個人の息がかかっていることを、強く想起させる……しかぁし」



 インチキおじさんが通信機越しに発言する。



「そのどれもが、新しい王妃を正当化し、騒乱を厭う……おそらくはローデシア国内に向かって発したものが自然に伝播したものでしょうな。ユリシス王国やローデシア王国に対する作為は見てとれない」


「水の都から流行し始めた歌にも、ローデシアに利するようなものは見られません。彼女があの女であるならば、独自の繋がりが残っていてもおかしくはないんですが」



 エレインくんが通信機に向かって報告した。



「コケーッ!」



 と、ニワトリさんの鳴き声。



「どうしたのニワトリさん、突然野生に帰ったの? 齧ってもいい?」


「良くないのであーる! いい加減余への食欲は捨ててくれまいか、であーる!」



 なんというか、山よりも大きくなってくれればすこしくらい齧っても痛くないんじゃないんだろうか、と期待してみたり。



「とにかく! ライムング太守、我が盟友イザークに代わって守護神鳥たる余、ドルドゥが伝えるのであーる! ライムングはローデシア王国にもっとも近き都市。また、ローデシアの南部諸侯は火竜王に反旗を翻さんとしているのであーる!」



 ところが、と、ニワトリさんは言う。



「流れてくる歌は、判を押したように変わらないのであ――る! たしかに平和の歌は民衆の厭戦気分を高める意図があるようには思えるが……イザーク! イザーク! ちょっとわかりにくいから噛み砕いて伝えてほしいのであーる! ――あ、いまのなし、みんな聞かなかったことにしてね、コケッ!」


「ニワトリさん……」


「タツキ殿、その憐れむような声はやめてほしいのであーる!」



 悲鳴を上げるニワトリさん。

 なんで私まで居たたまれない気分になるんだろう。

 ユリシスのみなさん、うちのニワトリさんがすみません。



「とにかく! イザーク曰く、これらはローデシア国内に向けたものですらなく、ローデシアの都――フランデルにのみ向けられた歌ではないか? その影響は西部諸邦一帯に波及してはいるものの、彼女・・が見えているのは、せいぜい都ひとつにすぎないのではないか、ということであーる!」



 ニワトリさんの言葉に、エレインくんが息を呑んだ。



「まさか……いや、しかし……そんなことがあり得るのか? すくなくとも、アトランティエにおけるあの女の手腕は魔的とすら言えるものだった。話を聞く限り、ローデシアでも同様だ。それが、諸外国はおろか、国内にすら目が届いていない、と?」


「ありうるかもしれませんな」



 と、インチキおじさんが口を挟んだ。



「我が国にも、戦や勘定はできずとも、保身にだけは異様に長けている。そんな人種がおります。危険なまでに偏った才能の主というのは、どこにでも居るものです」


「でも、すくなくとも王妃オニキスは、世論に目を配れるくらいには、周りが見えてるよ? それが外にまるきり目を配れないものなのかな?」



 私は首を傾ける。

 現実にはそんな人も居るのかもしれないけど、そうと決めつけるのはまだ危険な気がする。



「ま、いろいろと断ずるには早いとは思いますが、宰相たる影の魔女シェリルが排斥された現在、ローデシアの行政は、まともに機能しておりません。おそらく、情報が都に集まって来なくなっているのでしょう。ひょっとして、西部と南部の不穏な動きすら、しかとは把握していないのかもしれませんな」



 インチキおじさんが答えた。

 通信機越しだけど、たぶん肩をすくめながら言ってる。


 というのは、ともかく。

 外でなにが起こっていても、知らなければなにも手は打てないってのは納得できる。

 というか、影の魔女さん、どれだけワンマン宰相だったんだろう。いくら寿命が長いからって、自分が居る前提の組織作りは危険だと思います。


 まあ、牙の魔女さんとは違う意味で、自分と国家が一心同体な認識だったのかもしれないけど。



「しかし、それだと王妃オニキスの意図は、ローデシアの乗っ取りでも支配でもなく……王妃の地位を維持すること、としか思えませんな」


「ますます素顔が見えてこないな……だとしたら、あの女の底知れなさは、なんなんだ」



 インチキおじさんの言葉に、エレインくんが吐き捨てるようにつぶやいた。

 町娘さんを直接知ってるエレインくんの言葉は、すごく実感がこもってる。



「――アトランティエと、ローデシア。共通して起こりえた現象といえば、戦乱だが、まさかあの女とて、そのようなことを望んでいるわけでもあるまい」


「コケッ! まるで“国堕とし”の様であるな!」


「“国堕とし”?」



 ニワトリさんの言葉に、みんなが問いを返した。



「うむ! 人が越えられぬ東方の大山脈の先、大陸の東部で、百年以上前に起こったと言われる大戦乱。それを巻き起こした伝説の女の異称……らしいのであーる!」


「はて、大陸東部の……? わたくし寡聞にしてそのような噂、存じておりませんが、ライムングの神鳥よ、よろしければお教え願えませんか?」


「ふむ! ……コケッ!」



 インチキおじさんが問うと、ニワトリさんは小さく鳴いて。



「……忘れた! のであーる!」



 そんなことをのたまった。

 ダメだこのニワトリ……




次回更新30日20:00予定です。

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