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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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85/125

その85 設定を作ってみよう



 伝承があるとする。

 たとえば仏教の地獄。

 地獄の炎は、地上の炎よりもはるかに高熱だ。

 地獄が深くなるほどに、炎は熱く凄惨になっていく。どこのインフレバトルだってくらい。


 もちろん地上の自然現象としては、とうてい発生しえない高熱だ。

 魔力によって再現するとしても、物理法則が、そして「そんなものが魔法として行使されるなどありえない」という人々の常識が、障害となる……んだと思う。


 だとしたら。

 ロザンさんのお店からの帰り道、のんびりと空を飛びながら、私は考える。



「――逆も、ありえる」



 つまりは、「大山脈の幻獣王たる黄金竜マニエスなら、自然界であり得ないほど高温の炎を発することもできる」。

 こんな信仰があれば、魔力によって実現することも容易になるんじゃないか。



「私が黄金の炎を使うためには、私が黄金の炎を使えるっていううわさ、あるいは信仰を得るのが近道だってことなんだ」



 それは、たぶん可能だ。

 なぜなら、この髪。私の髪は、掛け値なしに黄金の輝きを持っている。

 黄金竜との共通点を持つ私なら、黄金の炎を使うことも可能じゃないか……みんなにそう思わせることも、可能だと思う。


 もっとも、料理にも使えない高熱だ。

 純粋に趣味の領域だし、今すぐやらなくてもいいだろう。


 と、思っていたんだけれど。



「――やりましょう! とっても素敵なことだと思いますわ!」



 相談した相手が悪かった。

 アルミラさんの、心の琴線に触れてしまったみたい。



「わたくし常々、タツキさんはもっと信仰されるべきだって思っておりましたの! この際ですので、どんどんあるべき理想の女神像を造っていきましょう!」


「いや、そこまで熱心にやらなくても……」



 やんわりと制止したけど、止まらない。

 リディちゃんといっしょになって、きゃっきゃうふふと「あるべきタツキさん像」を語りだした。



「まずは容姿、ですけれど……完璧ですわ! 直すところがありませんわ!」


「えーと、胸をもうすこしおおきくしたり……できないですか?」


「そんなもの、タツキさんには邪魔なだけですわ! ありのままのタツキさんが美しいんです――というか容姿に関して言い争っても益などありませんわ! まずは神としてのタツキさんの設定ですわ!」



 設定とか言い出したよこの子……



「はいはいはい!」


「はい、リディさん」


「まずは美の女神としての側面は欠かせないと思います! あと愛の女神として、信者に愛を授けて下さったらとってもうれしいです!」


「却下ですわ! 大衆に姿をお見せするだけでももったいないのに、愛とか――愛とか! ……巫女だけに愛を授ける、とか――ダメですわ! そこまで墜ちるわけにはまいりませんわ! がんばれわたくし!」


「アルミラ様……なんという発想……やはり神……!」



 かろうじて踏みとどまってるみたいだけど、やろうとしたら止めるからね?

 というか信仰で人格改造とか、発想がヤバすぎると思います。



「ですので、美の女神としての側面は当然盛り込むとして、まずはタツキさんの要望通り、炎を使う能力についてですわ。黄金の炎を使うための自然な設定……これは、黄金竜マニエスの眷属、もういっそ娘とかでよろしいのではないでしょうか!」


「タツキ様も黄金に輝く髪ですし、黄金の炎を使う理由付けとしてはとってもいいと思います!」



 それでいいのか伝説。

 心の中での突っ込みが通じるはずもなく、二人は私の設定を作っていく。


 曰く。



「伝説の幻獣王の娘」


「幻獣王から黄金色の髪と、黄金の炎を受け継いだ偉大なる美の女神」


「処女神」


「守護神としての側面を持ち、信仰する者に守護の加護を与える」


「深き海の主、水竜アルタージェ、アトランティエの守護神竜アトランティエを倒し、西海を手に入れた海の神」


「ライムングの神鳥ドルドゥとはお友達で、いつももふもふしてる」


「ダウの二重山に住まう赤の神牛ガーランを、黄金の炎で打ち倒した」



 などなど、盛りすぎじゃないかって思うけど、半分くらいは実話です。

 ……よく考えたらいろいろやってきたなあ。



「――と、こんなところでいかがでしょうか!?」



 アルミラさんが自信たっぷりに尋ねてくる。

 ドヤミラさんかわいいです。


 というのはさておき、ちょっと気になったことがひとつ。



「アートマルグ関連を省いたのは?」


「ユリシスでは、すでに神鮫アートマルグはタツキさんの別側面だという見かたがされているとか。ほうっておいても整合性の取れる形で伝承が加えられるかと」



 私の疑問に、アルミラはよどみなく答えた。


 まあ、あたりまえだけどアートマルグについてはユリシスの方がくわしい。

 いま下手に設定を作って、ユリシス視点で矛盾が生じるよりは、そっちの方がいいのかも。



「まあ、これに関しては急ぐことはないから、エレインくんとも相談して、ゆっくり広めていこう」


「わたくしとしては、今すぐにでも広めたいくらいですけれど!」



 アルミラさんやる気にあふれすぎです。

 反応したのか、部屋の隅でタツキさんフィギュアが勝利のポーズを取ってるのがすっごくかわいい。



「――こう、吟遊詩人とか使ってですね、いろんなところで弾き語ってもらうんですわ! 恩恵を受けている水の都一帯には、一瞬で広がると思います!」


「落ち着いてアルミラ。発想が町娘さんといっしょになってる」


「はうっ! ですわ……!」



 ハートにクリティカルなダメージを受けて、アルミラさんが撃沈した。


 ……ん?

 いまなにか、心に引っかかったような。



「タツキ様、どうかされたんですか?」



 考え込む私を見て、リディちゃんが小首をかしげる。



「……うん。ちょっと用が出来た。エレインくんと会ってくるから、アルミラの看病をお願い」


「看病……ええと、はい!」



 撃沈中のアルミラをちらと見てから、リディちゃんは元気よくうなずいた。







 執務室に行くと、エレインくんは、書類の処理をしながら、ホルクさんと無駄話していた。

 ホルクさん、最近私が厄ネタ持ち込みまくってるからといって、私を見て露骨に及び腰にならないでください。でも今回も厄ネタです。



「最近の流行り歌を調べてほしい。素性は問わないけど、ローデシア方面から流れてきた歌は、特に注意して」


「……理由を、お聞きしても?」



 エレインくんが尋ねてくる。

 表情を見れば、ある程度察したのがわかるけど、確認のためなんだろう。


 だから私は、エレインくんの予想通りの言葉を告げる。



「ローデシアの新しい王妃オニキス。彼女が彼女・・だったとしたら……間違いなく歌を利用する。どこに向けてどんな歌を流行らせてるのかわかれば、彼女の真意……とまではいかなくても、彼女がなにを望んでるかは、かなり正確にわかると思う」



 ローデシアの王宮の奥深く篭もる怪物。

 その正体を手繰り寄せるか細い糸は、間違いなくそこにあるはずだ。



次回更新27日20:00予定です。

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