表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/125

その84 幼女の寝言を聞いてみよう



 ロザンさんの料理を堪能して、その日は大満足で帰宅した。

 帰る前に食材を預けてあるので、数日も待てば、ロザンさんなら極上の水竜料理を作ってくれるだろう。


 うきうき気分で帰宅して……きちんと忘れず、エレインくんに報告。

 大丈夫。槌の魔女リーリンちゃんのことは、けっこう大事なので、食欲で呆けてても、それは忘れてない。


 話を聞いたエレインくんは、しばし、考え込んで。



「そうですか……ローデシアの中枢は、もはや機能していないようですね」



 言いながら、深いため息をついた。



「そんなにひどいの?」


「槌の魔女の名は、わずかに伝え聞いた程度ですが、ローデシアにとって間違いなく重要な人物のはずです。その出国を、たやすく許すとは」


「リーリンちゃんは、小うるさいシェリル――影の魔女が居ないから、とか言ってたけど」


「……ふむ」



 私の言葉をじっくりと咀嚼して、王様は口を開く。



「……ローデシア王国宰相シェリルは、あまりにも長い期間、ローデシアの表と裏の組織の頂点でありつづけました。その彼女が、突如失脚した影響は、外から見た我々が思うより、よほど大きいものなのかもしれません」



 うそ寒いものを感じたような、そんな表情だ。



「なにか、出来ることはある?」


「とりあえずは、槌の魔女の保護を。あまり街中をうろつかれても、よくない」


「了解。鍋のことをお願いしてるし、すぐには出歩いたりしないと思うけど、そう言っとく」



 となると、ひょっとして数日は水の都に居なきゃいけないかもしれない。

 水竜料理待ちだし、ちょうどいい。報告がてら、ユリシスのみんなには通信機で伝えておこう。







 翌日には、鍋が出来てた。

 赤の神牛ガーランの骨を素材とした、見た目は真っ白な中華鍋だ。



「こいつは、とんでもねえな!」



 軽く鍋を振るって、ロザンさんは、きば、と歯をむき出しにして笑う。

 赤髪幼女、リーリンちゃんは、徹夜で鍋を作っていたのか、床で完全に寝ちゃってる。



「これで、水竜の肉を焼けるの?」


「いや、魔力の炎が要るから、ワシだけでは無理だな。この人――槌の魔女が言うには、こいつがあれば焼けるって話なんだが」



 言って、ロザンさんが顎で示したのは、眠れる幼女が手に持ってる、きらきらと輝く水晶を押し固めたような立方体だ。



「これは?」


「――炉心なのだ! ……むにゃむにゃ」



 私の言葉に応じるように、幼女が突然声を上げた。

 でも幼女は寝たままだ。寝言だ。びっくりした。



「魔力を込めれば最高位の炎――黄金の炎すら生み出せるリーリンの超傑作なのだ!」



 いや、寝てる? 起きてる?

 なんだか知らないけど、ちゃんと説明してくれてるっぽい。



「黄金の炎? 青の炎より強いの?」


「青の炎は赤の上位だな! 世界法則により、赤の炎より高温であると定義されてる青の炎は、概念において、より強いのだ! すごいのだ!」



 この幼女、本当に寝てるのだろうか。

 槍を打ってたときも、無意識に説明とかしてたから、そういう癖なのかもしれない。



「――でも青の炎にも、その上があるのだ! 伝承で青よりも上位と定義されてる炎――冥府の炎である黒の炎と、大陸の東西を隔てる大山脈に住まう伝説の幻獣王――黄金竜マニエスの吐く黄金の炎! 人々に最高位だと信仰されてるそれらこそ、もっとも強い炎なのだ! すごいのだ!」



 なるほど。

 なんとなく理解した。


 物理法則においては、青の炎は赤の炎より高温だ。

 でも、もともと魔力っていうのは、想いを実現させる力だ。

 人々の想いが、信仰が、神話や伝承における炎をより強いものだと定義するなら、想いに補強されたそれらの炎は、なによりも強いものになる……というところか。


 そういえば、オールオールちゃんも、青の炎は赤い炎よりも上の段階だとは言ってたけど、青の炎が最上位だとは言ってなかった気がする。



「黒の炎と黄金の炎は特別だから。冥府の、神のものと定義づけられているから、人の手での再現は困難なのだ! それが再現できるリーリンは天才なのだ! すごいのだ!」



 ……ん?


 なんというか。

 聞いている限りは、ヤバいレベルで高温が出るっぽいんだけど。



「黄金の炎で、ドラゴンの肉は焼けるの?」


「焦げるのだ! 炭なのだ!」


「焦がしちゃダメでしょ!?」



 全力で突っ込む。

 料理に使えないなら本末転倒ってレベルじゃない。

 というか竜の肉を炭にするとか、人類史上最悪の凶行だ。



「あわてるななのだ! なにも出力を最高にすることはないのだ! というかリーリンは黄金の炎で肉を焼くなんて一言も言ってないのだ! 黄金の炎だって生み出せるって言っただけなのだ!」


「……盛大な脱線話だった!?」



 いや、なんというか、いろいろ役に立つ話だったけど。



「……まあ、この人も昼には目を覚ますだろ。それから料理を工夫するから、水竜料理はもうちょっと待っててもらおうか」



 肩を落としてると、ロザンさんが白鍋を手に笑う。



「うん。楽しみにしてる……それから、ロザンさん。勝手に街中をうろつかないように、この子に言っといてくれる?」


「わかったぜ。女神様の言葉なら、間違っても出歩かないだろうぜ」



 あまり長居して、ロザンさんの邪魔になってもいけない。

 幼女のことだけお願いして、その日はそのまま帰った。


 黄金の炎か……時間があったら、練習してみるのもいいかもしれない。




予定より遅れて申し訳ありません。

次回更新24日20:00予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ