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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その83 お鍋の素材を考えよう



 工房から出ると、店の個室だった。

 まあ、店のど真ん中に宝石を置いておけるわけもなし、当然か。


 待っていてくれたんだろう。

 ロザンさんをはじめとして、ホルクさんと給仕さんが、テーブルを囲んで座ってる。



「――お、出てきたか」



 ロザンさんが香草茶をテーブルに置いて、にやりと笑う。

 きょぱ、と剥き出した歯がとっても鋭い。



「結果は……聞くまでもないか」



 表情を見て察したのか、ロザンさんは問いを引っ込めた。



「うん。大満足!」


「とーぜんなのだ! リーリンは世界一の魔獣鍛冶なのだ! 女神様だって満足させられるのだ!」



 と、あとから出てきた赤髪幼女が胸を張った。



「そうかそうか――なら、料理の話だな」


「のだ?」



 一仕事終えた幼女にまったく一切の遠慮もなく、ロザンさんはマッドな笑みを浮かべた。







「まず、料理をする上で大事なのは、料理する素材と調理器具の相性なのだ!」



 ちょっとかわいそうかも、と思ったけど、赤髪幼女な魔女リーリンちゃんは早速話を始めた。

 ロザンさんがマッド料理人なら、リーリンちゃんはマッド鍛冶屋さんなのかも。



「まず、今回調理するのは水竜の肉だ。言うまでもねえと思うが、属性は水。女神様の持ってる素材にゃ神鮫アートマルグなんかもあるが、これは同じ水属性。同調した水の特性が強すぎて、とてもじゃないが火を通せん」


「アートマルグ!? ユリシス王国の神鮫まで持ってるのだ!?」



 幼女がものすごく驚いた。

 そういえば、私がユリシスの守護女神になってることも知らなかったし、ものすごく世情に疎いっぽい。たぶん普段は工房に引きこもってる系の子なんだろう。



「欲しい、欲しいのだ……でも後回しなのだ。女神様の御機嫌とりしてあとで分けてもらうのだ……」



 欲望に忠実なようで大変結構。

 ちゃんと仕事をこなしたら分けてあげるよ。私が持ってても使いきれないし。



「――と、料理の話なのだ! ロザンの言う通り、同属性の魔力は、おたがいを強めあうのだ! なので水の魔力が強い水竜の肉を焼くには、水属性の鍋じゃダメなのだ!」


「逆の――火属性の素材が要るってこと?」



 尋ねると、リーリンちゃんはこくこくとうなずく。



「最良なのは、同じ力を持つ逆属性の魔力を使うことなのだ! 水竜に等しい魔力を持つ素材――すなわち火竜の鱗なのだ!」


「火竜の……鱗」


「か、神竜フラム様はダメなのだ! ほかに、ほかに手段があるのだ! お願いだから殺さないでなのだ!」



 考えてることがわかったのか、幼女はあわてて止めにかかる。



「いや、鱗の一枚や二枚分けてもらうのに、わざわざ殺す必要ないよね? ちゃんと事情を説明してお願いすれば……無理かな?」


「ほかに手段があるのだ! もっと簡単な方法なのだ! だから火竜のことは忘れてほしいのだ!」



 必死なリーリンちゃんかわいいです。

 いや、半分くらいは冗談だったんだけどね?



「ほかに手段って?」


「さっき言ったように、同属性の魔力はおたがいを強めあうのだ! つまり、魔力の炎で焼けば、水竜より弱い火属性の素材を使った鍋でも、ちゃんと料理が出来るのだ! 食べないでほしいのだ!」


「安心して。いまローデシアの火竜をどうこうする気はないから」


「いま!?」


「大丈夫大丈夫。相手からおおっぴらにケンカ売って来なければ大丈夫……わかりやすい形でケンカ売って来てくれないかな?」



 幼女があわあわ言ってる横で、つぶやいていると、ロザンさんが口を挟む。



「おい、女神様よ、いい加減話を進めないと、料理が出来んぞ」



 はい! ちゃんと話を進めます!



「と、いうわけで、水竜よりは弱いけど、火属性の素材は……私が持ってるのだと、神牛ガーランかな。皮から骨から、素材になりそうなのは一通りあるけど」


「ガーラン!? ダウの二重山の赤の神牛なのだ!?」


「なのです」


「すごいのだ! 十分なのだ! 骨の一本も分けてもらえれば、すぐにでも鍋が作れるのだ!」


「すごいのだ!」


「すごいのだ!」



 謎の共鳴現象を起こす私と幼女。


 それから。

 神牛の骨を取り出して切り分けるため、一旦郊外に移動。

 すぐに戻ってきて、幼女に一抱えほどの骨の塊を渡した。



「こ、これが赤神牛ガーランの骨なのか!」



 リーリンちゃんは宝石でも見るような目で骨を抱えた。

 変なにおいが漂い始めた。見れば、幼女の皮服が焦げていってる。



「すごいのだ! とんでもない火の魔力なのだ!」



 服が焦げるのもお構いなしで、幼女は大喜びだ。



「これですごい鍋を作るのだ! ロザン! 形はどんなものがいいのだ!?」


「おお、そうだな。昔造ってもらった羅盾鼈の鍋があったよな? あれと同じ形がいい」


「わかったのだ! さっそく造るのだ! 行ってくるのだ!」



 言って、赤髪の幼女は赤い宝石――“工房”を取り出して。



「――あ、魔力の火のことも、リーリンにお任せなのだ! 女神様は出来上がりを楽しみにしているのだ!」



 そう言い残して、工房に飛び込んでいった。


 うん。工房にも炉とかいろいろあったし、なにより見るからに火がルーツっぽい幼女だ。なにかいい手があるんだろう。


 けっこう頑張って練習したので、使う機会があったらわたしの魔法をつかってステーキとかしてほしいなあ。



「まあ、鍋が出来てすぐに料理を出せるわけじゃない。焼きの加減を見切るのに、すこし待ってもらわにゃならんが……女神様よ。せっかくうちの店に来たんだ。もちろんなにか食ってくだろ?」



 食べます。もちろんです。たべさせてください。



「……んんんんっ!?」



 料理がおいしくて、とっても幸せです。



10月末まで更新が不定期になります。

次回更新、18日20:00予定です。

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