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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その82 赤髪幼女の鍛冶屋さん



「槌の魔女? ……この子が?」



 首を傾けると、ロザンさんはうなずいて肯定した。



「ああ、ローデシア――魔獣鍛冶の技術が発展した火と鉄の国にあって、それでも隔絶した実力を持っている」


「へえ? ローデシアの子だったのか」



 なるほど。

 つまりは、保護対象じゃないってことか。



「な、なんだか一段と圧力がすごくなったのだ!? ロザン! ロザン! 助けてほしいのだ!」



 あ、涙目になり始めた。

 いや、有用だって話はいま聞いたし、他国の子だからってすぐにどうこうする気はないんだけど。

 というかそこのチンピラさん。厄ネタっぽい事案だからって早々に逃げ腰になるのはやめようか。



「……ん? ロザンさん、以前幻獣を加工できるレベルの魔獣鍛冶に心当たりがあるけど、他国の人だから難しい、みたいな話してたよね? ひょっとして……」


「ああ、この人だ。本来、気軽に他国に来れる人間じゃないんだが、手紙で幻獣の素材の話をしたら、わざわざ出国してまで来てくれてな。ワシも驚いてたんだが……」


「まあ、国一番の魔獣鍛冶となれば、軍事機密の塊だろうしねえ……というか、よく来れたね?」



 私が声をかけると、赤髪の幼女は、頭を地面につけたまま口を開いた。



「口うるさいシェリルのやつが居ないから、出てくのは簡単だったのだ! も、もう頭を上げても大丈夫なのだ? 食べないのだ?」


「うん、いいよ」



 許可すると、幼女は安堵の息をつきながら、息継ぎするように頭を上げた。



「ふう、命拾いしたのだ……」


「お前さんがそれだけ怯えるなんて、やっぱすげえんだな、女神様ってのは」


「おっそろしいのだ……機嫌を損ねたら一瞬で死ねるくらいの絶望的な差があるのだ……」



 ロザンさんの言葉に、幼女は答えた。


 まあ、幻獣五、六人分だっけ?

 それだけ力があったら、それを感じ取れる人なら、こうなっちゃうか。

 オールオールちゃんは最初っから神様扱いだったし……牙の魔女さんも、せめて傷ひとつ、みたいな感じだったか。

 まあ、神鮫アートマルグや神牛ガーランなんかの幻獣勢とかアルミラやファビアさんの勇者魔法使い勢は普通に力の差がわからない感じだったし、力を感知すること自体が特殊スキルっぽい。



「あらためて、自己紹介しようか。私はタツキ。アトランティエとユリシスの守護女神をしてる」


「ふえええ? 知らないうちに世の中は変わってるのだなー……リーリンはリーリン。世界一の魔獣鍛冶なのだ!」



 幼女が胸を張った。

 うむ。オールオールちゃんよりは上と観た。



「あわわ……なんだかすごく観察されてるのだ……」


「害意は無いので気にしないで」



 リーリンちゃんがおびえるので、あらためて念を押す。



「キミはローデシアの魔獣鍛冶で、槌の魔女。ロザンさんとは知り合いで、彼から幻獣の素材が手に入るあてがあるってことを聞いて、アトランティエまで来た――って理解でいいのかな?」


「はいなのだ!」



 幼女は直立不動の姿勢で返事した。



「……ひょっとして、幻獣の素材を持ってるのって……」


「うん。私で間違いないよ。そして、キミに対して幻獣の素材を提供するのもやぶさかじゃない」


「ホントーなのか!?」



 幼女が我を忘れて身を乗り出してくる。

 でも、私だってなにも考えずに、素材を預けるわけにはいかない。



「ただし。ひとつ、試させてほしい」


「試す? 試すまでもないぞ! リーリンの技術は世界一だからな!」


「だから、それを実際に試したいんだ。仮にも私の大事な大事な食材を料理する調理器具を作ってもらうんだ。食材を台無しにしないためにも、テストは必要なんだ」



 言って、私はネックレスに念じる。

 取り出したのは、大昔に作って使わずに放置してた、竜の牙を使った銛だ。



「こ、これは……!?」


「銛……というか、槍というか。素材は竜の牙と骨と皮」


「すごい……すごいのだ……! でもひっどい造りなのだ! 罰当たりにもほどがあるのだ!」



 ひどい言われようである。



「道具も技術もなかったからね。まあ、それをちゃんとした武器に出来たら――」


「やるのだ! やりたいのだ! やらせてほしいのだ!」



 みなまで言わせず、赤髪幼女は私にがばっと抱きついてきた。

 うむ。うむ。







「とんてんかん! とんてんかん! たたくのだー! のばすのだー! たたむのだー!」



 朱に彩られたレンガ造りの部屋の中、赤髪幼女は歌いながら槌をふるう。


 槌の魔女リーリンの“工房”。

 彼女が持つ赤い宝石の中に築かれた、携帯式の工房だ。

 中は、複数の炉をはじめとして、およそ鍛冶、冶金、あるいは皮革加工に用いられるであろう道具がずらりと並んでいる。


 魔法仕掛けなのか、燃料が入っているようには見えないのに、赤々と炎が灯っているのが不思議な感じだ。


 いっしょに工房に入って、赤髪幼女はしばらく槍とにらめっこしてた。



「ふっふっふ、すごい魔力なのだ……リーリンの素の魔力じゃ、加工が難しいくらいなのだ……」



 ちょっとマッドな笑いを浮かべながら、しばらく独語した後。

 幼女はやおら金床を引っ張ってきて、いきなり槌を振い始めた。



 ――炉は使わないの!?



 と、内心で突っ込んでる間にも、幼女は槌を振う。

 よく見れば、槍を持つ手に、ものすごい魔力が集まってる。

 魔力は槍に巡り、呼応するように、金床が魔力を帯びて淡い燐光を発する。


 そこに、やはり淡い燐光を発する槌を叩きつけると、ドラゴンの牙が形を変え始めた。



「……すごい」


「魔力ってのは、相手に言うことを聞かせる力なのだ!」



 一心不乱に槌を打ちつけながら、無意識なのか、赤髪幼女は説明を始めた。



「――だから、こうやって、リーリンの魔力で満たしてやれば、すごーく硬い物も、すごーく柔らかい物も、自由自在なのだ!」



 とんてんかん、と歌いながら、幼女は槌を振う。



「でも、さすがは幻獣の長、竜種の牙なのだ! 結界と魔法陣で強化して、魔法の槌を使っても、かなり手こずるのだ! まあ、並の魔獣鍛冶なら10年がかりでやる工程を、こんなに早くこなしてしまうあたり、やっぱりリーリンは天才なのだ!」



 すっごくうれしそうだ。

 なんというか、水を得た魚。食材を得たロザンさん。料理を得た私、的な。


 そして、そんな光景を一時間ほど見ていただろうか。



「できたのだ!」



 槌の魔女リーリンは、にっこにこの笑顔で、ぴかぴかの槍を振り上げた。


 見た目は、まさに槍だ。

 彫刻のような装飾の施された、白く美しい長柄。

 穂先は刃のように薄く鋭く、そして白く輝いている。



「……きれいだ」


「そーだろーそーだろー! リーリンの傑作なのだ!」



 自信満々の幼女。

 いや、世界一と言うだけのことはある。

 早さも完成度も申し分ない。できれば試しになにか突いてみたいけど、工房ごとぶっ壊れる気しかしないので、ここは自重。



「名づけてやるといいのだ! 名を得て、槍はさらに強くなるのだ!」



 幼女が言う。


 名をつけろ、と言われると、ちょっと困る。

 グングニルとかゲイボルグとかロンギヌスとか、知ってる名前をつけるのも、なんか違う気がするし……


 しばし、迷って。



「竜槍……竜槍ブレス」



 私は槍に、そう名付けた。

 祝福ブレスであり、吐息ブレス。この白く美しい、竜の牙で出来た槍の名としては、相応しいと思う。



「いい名前なのだ!」



 幼女は笑う。

 名づけに応じるように、純白の槍は、その輝きを増した。




次回更新15日20:00予定です。

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