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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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81/125

その81 美味しいごはんを食べに行こう


 さて。

 ひさしぶりに自室で、ゆっくりと眠れた。

 報告なんかの関係で、明日か明後日には、ユリシス王国に戻っておきたいんだけれど。


 その前に、やっておくべきことがある。



「ロザンさんの店に行こう」



 私が言うと、タツキさんフィギュアがガタッ、と腰を上げた。

 完璧すぎる反応です。そして美しいです。



「はいはい。フィギュア様は座ってくださいまし」



 立ち上がったタツキさんフィギュアを、アルミラがふたたび座らせる。

 調教が完璧すぎてちょっと怖いです。



「よいことだと思いますわ。タツキさんは頑張ってらっしゃるんですから、たまには骨休めしてくださいまし……というわけで、フィギュアさんは今日はお休みですわ。タツキさんが出歩くと、どうしても人目につきますからね」



 こくこくとうなずくタツキさんフィギュア。

 かわいすぎてお持ち帰りしたいです。



「ああ、もう……素敵です……素敵です……」



 リディちゃんはもうだめです。

 衝動的に抱きつきに行かない分、成長してるのかもしれないけど。







 と、いうわけで。

 私はウキウキ気分でロザンさんの店を訪れた。



「厄日だぜ……」



 護衛役のチンピラ、ホルクさんが、似合わない正装で頭を抱えてる。

 まあ、護衛とかどう考えても要らないんだけど、絵面的には欲しいってことで、エレインくんが手配してくれた。

 ヒマつぶしに執務室で、エレインくんと雑談してたのが悪かったんだと思います。まあヒマになったのは私の祝福で魔獣被害が減ったせいなので、間接的には私が原因かもしれない。


 まあ、我慢してください。

 ちなみに例によってリディちゃんはアルミラとお留守番だ。



「さあさあ、ぼやぼやしてるヒマはない! ロザンさんの料理が私を待っているー!」


「ああ、わあったよ。とっとと行って用事を済ますぞ」


「おー」



 と、応じながら、勝利のポーズ。

 遠巻きに見てる群衆からの歓声が上がった。



「……さて、おじゃましまーす」



 と、店に入る。

 店内には美味しそうな匂いが漂ってる。

 やばい。香りだけで食欲がぐらんぐらんに揺さぶられてる。



 ――この感覚、ひさしぶりだなあ。



 ロザンさんの料理が食べられるんだなあ、と、あらためて期待に胸が高鳴る。


 だけど。



「あ、女神様!? い、いらっしゃいませ……」



 迎え出た給仕さんは、どこか困った様子。



「……どうしたの?」



 この人が、私に対して困った顔をするなんて、なにかあったんだろうか。



「いえ、遠方より足を運んでいただいて、本当にありがとうございます。ですが……その……」



 ちら、と、給仕さんは店の奥の方に視線をやる。

 奥の部屋からは、なにやらカチャカチャと音が聞こえてくる。

 これは……ナイフとかフォークが、食器に当たる音……にしては、ちょっとうるさすぎだけど。


 と、奥の部屋から甲高い声が聞こえてきた。



「わははー! あいかわらずおいしーな、ロザンの料理はー! もっとお代わりをよこすのだー! いくら持ってきてもいいぞー!」


「は、はい! 承知いたしました!」



 別の給仕さんが、山のように重ねた皿を抱えて、部屋から厨房へと小走りで向かっていく。


 ……なるほど。事態は理解した。

 なぜか給仕さんが蒼い顔になってるけど、大事なのは現在進行している状況だ。



 ――喰らい尽くそうとしているのだ。



 ロザンさんの料理を。

 私の目の前で、別の客が。



「お、おい、嬢ちゃんよ……冗談だよな? ほかの客のとこへ怒鳴りこんで行ったりしないよな?」


「するよ?」



 恐る恐る聞いてきたホルクさんに、私は笑顔を向ける。



「大丈夫。ちょっとお話して、これ以上の食事を控えてもらうだけだよ」


「ほ、本当か? 信じていいか? 正直こうして話してるだけでも息苦しいんだが。人傷沙汰は勘弁だぜ?」


「はっはっは、変なことを言うんだね、ホルクさんは」


「は、は、そうだよな、変だよな?」


「――私が本気で怒ったら、人間なんて骨すら残らないに決まってるじゃないか」


「ちっとも安心できねえ―っ!!」



 ホルクさんが絶叫した。

 大げさだな。さすがに正当な理由がないと、人殺しなんてしないって。仮にも保護すべき自国の民なんだし。



「もー、なんだなんだー? さっきからうるさいなー!  リーリンが落ち着いて食べられないじゃないかー!」



 ふいに、件の部屋から少女が出てきた。

 燃えるような赤髪をお下げにした、幼い少女だ。

 ごわごわの皮服を着込んで、腰に下げた皮帯には、小さな刃物やら槌やらが縫い止められてる。


 赤い瞳の、ぱっちりと大きな目を、こちらに向けて。

 顔には怒りをたたえて……それが驚きの表情になって……さらには青ざめて。



「――ごめんなさいなのだー!!」



 最後には全力で土下座した。


 ホルクさん、お願いだからそんな目で見ないで。

 私は無実だ! なにもやっていない!



「ゆるして! ゆるしてくださいなのだー! 命ばかりはおたすけなのだー!」


「あ、あの……タツキ様……リーリン様も謝っておられますし、どうかお許しを」



 給仕さんまでそんなことを言ってくる。


 私本気でなにもやってないんだけど!?

 なんだか空気がすっごくどうしようもない感じなんですけど!?


 内心悲鳴を上げてると、救いの神は現れた。



「……なんだなんだ、さっきから騒がしいぞ」



 厨房から、ロザンさんが顔を出したのだ。



「ロザンさん、ひさしぶり!」


「おお! ひさしぶりだな、女神様――で、どうしたんだ、この状況は?」



 ロザンさんは、土下座したままピクリとも動いてない幼女に目を向ける。



「ろ、ロザン! 助かったのだ! なんとか命だけは助かるよう口添えしてほしいのだ!」



 土下座の姿勢は崩さずに、幼女が声を上げた。



「ああ? ……ああ、まあ、女神様よ。なにがあったか知らんが、タイミングがよかったな」


「命乞い! 命乞いを先にしてほしいのだ!」



 幼女の悲鳴を無視して、ロザンさんは会心の笑顔を向ける。



「この人はな、ワシらが求めていた人材だ」


「私たちが求めていた……人材?」


「ああ。槌の魔女リーリン――西部一の魔獣鍛冶だ」


「世界一なのだ!」



 土下座したまま、幼女――槌の魔女リーリンはロザンさんの言葉を訂正した。


次回更新13日20:00予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初手でゲザるとは……力の差をしっかりと理解してるようで何よりwww
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