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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その80 お部屋に帰ろう



 小船に乗ってゆるゆると、夕暮れの水路を行く。

 船の上には、私とアルミラさん。変に隠したりせず、姿を晒してる。

 屋敷と神殿の往復は、毎日の恒例行事的なものになってるらしく、水路脇にはずらっと見物人が並んでいた。



「おお、女神様がお通りになられるぞ!」


「あいかわらずお美しい……あの髪、まるで本物の黄金のようじゃないか!」


「ありがたいお姿じゃ……!」


「いや、あのお姿を拝見しないと、一日が終わった気がせんわい!」



 みんなが歓声を上げる。

 私は、アルミラさんの指導に従い、勝利のポーズ。

 歓声が、ひときわ高く上がった。


 違うんです。

 いつもと違うことすると、みんなそれだけでパニックになりそうだから、仕方なくです。

 普段からこんなにテンション高いわけじゃありません。テンション高くなるとついやっちゃうけど。


 ともあれ、下町の家に帰るという銀髪幼女と別れた私は、みんなの歓声を浴びながら、屋敷に戻ってきた。

 エレインくんと会うのはひさしぶりだったけど、通信器でいろいろ話してるせいで、とくに相談しなきゃいけないこともない。


 挨拶と、簡単な報告だけ済ますと、私は自室に直行した。

 ひさしぶりの自分の部屋だ。ゆっくり休もうと、即座にベッドに身を投げる。

 今日のところは、なんと言われようと、食事も部屋で済ませる。食事は抜かないけど。抜かないけど。



「うあー、気持ちいい……」



 ふかふかのベッドに身を横たえて、のびをする。

 しばらくして、ふと、こちらを見る視線に気づいた。


 金髪碧眼の少女だった。

 見覚えのある顔だ。顔立ちは幼いけど美少女だ。

 というかライムング太守の孫娘にして扉を開きし者、リディちゃんだ。


 息が荒い。

 よし、ステイ。

 待ちたまえリディ。

 そして座りたまえ、リディ。

 なぜキミは私のベッドの陰で、黙って私を見てたんだ。



「お帰りなさいませ、女神様!」



 よし。

 その忠誠心が鼻からほとばしるような表情はやめようか。

 そしてあらためて、キミ自身の行動を一から十まで説明してもらおう。



「はい! わたくしは巫女ではありませんので、残念ですけど女神様に直接触れるようなお世話ができません。アルミラさんがダメって言うので!」



 うむ。すごく妥当な判断だと思います。



「ですので、毎日神殿にお参りしたり、女神様がいつお帰りになられてもいいよう、部屋を掃除したりしてました!」


「……ええと、ちょっと聞いていいかな?」


「はい、なんなりと!」



 ベッドの上で向かい合いながら、私は根本的な疑問を彼女に投げかける。



「キミは、ライムング太守イザークの名代、マルコイさんの随員として、この水の都に来てたんだよね?」


「はいっ!」


「国王就任からの忙しい時期も終わって、さすがにマルコイさん、ライムングに帰っちゃってるよね? いっしょに帰らなかったの?」


「はい! 非常に残念でしたが、10日ほど前に帰る予定でした!」



 ものすごくいい笑顔で、リディちゃんは応じた。



「でも、帰る直前にライムングから報せが来て、帰らなくてもよくなったんです! なんでも、ローデシアの情勢が不穏で、それがうちのご近所にも飛び火しかねないから、国王様のそばに自分の代理人を置いときたい、ってことみたいです!」



 ぶっちゃけすぎではなかろうか、と思うけど、状況は理解できた。


 イザークって人は、古狸らしい。

 古狸なんて言われるってことは、自都市の利益を確保するために、騙しや嵌め手なんかを使うこともあったんだろう。


 それはそれとして、アトランティエ王国の東北部にあるライムングは、件の火薬庫、ローデシアに、国内で一番近い大都市だ。

 ローデシアの混乱と、それに引きずられるようにして起こるだろう、近隣の群小都市の混乱。近場に火がつけば、ライムングもただ黙って見てはいられない。

 混乱に乗じて利益を得ようとするのか、それとも胡散臭く立ち回って経済圏を安定させるか……たぶん後者をとるんだろうけど、そういう怪しい動きが都の王様にどう映るか、仮にも古狸と呼ばれる人間なら、よく知ってるんだろう。


 だから国王のそばに、自分の胡散臭い動きの理由を説明してくれる人間――息子のマルコイさんを置いておきたかった……と、こういうことだろう。

 目の前にいる少女は、そのおかげを被って、こうして水の都に留まる事が出来たのだ。


 というわけで。

 用事がないときはずっと連絡してくる癖に、こういうことは連絡してこないニワトリさんにはひとつ、物申さないといけないようだ。


 明日に。

 今日はもう休んで眠りたい。

 その前にご飯だけど。ご飯を抜くとかありえないけど。



「まあ、しばらく会えないと思ってたから、会えてうれしいよ」


「はいっ! あたしも本物の女神様のご尊顔を拝せてすっごく幸せですっ!」



 リディちゃんのテンションの駆けのぼりっぷりがヤバい。



「アルミラも、もうすぐ来る――というか、まだ来ないってことは、食事の支度をしてくれてるんだと思うけど、夕食はいっしょに食べようか」


「ありがとうございますっ! やっぱり本物の女神様はお優しい……」



 感激するリディちゃん。

 まあ、タツキさんフィギュアはいちいち反応したりしないだろうしね。

 ……ひょっとしたら、アルミラさんがリディちゃんにだけ塩対応するように教え込んでたのかもしれないけど。


 うん。ふつうにありえそうです。



「じゃあ、ちょっとアルミラに伝えて来てくれないかな? 夕食三人分、この部屋でって」


「わかりました! 即座に言ってきます!」



 びしぃっ、と、右手を挙げて、リディちゃんは部屋を出ていった。

 うん。なんというか、視線とかはアブナイけど、ユリシスの百合っ娘に比べると全然健全です。


 その日は三人で夕食をとった。

 リディちゃんが若干テンション高かったけど、アルミラさんもうれしそうで、私も自然と笑顔になった。


 お風呂もいっしょに入りたかったです。








次回更新11日20:00予定です。

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