表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/125

その79 ただいまアトランティエ



 アトランティエが見えてきた。

 魔法の練習をしてた時、いつも見てた光景だ。

 ジェット飛行をやめて、風に乗って宙を舞う。

 抱えてた幼女がほっと息を吐きながら、腕の中でくたっとなったのは、ともかく。



 ――懐かしい。



 街並みを見下ろして、心の中でつぶやく。


 ユリシスもいいけど、アトランティエはこの世界で訪れた最初の街で、こちらの世界での故郷だ。

 なにより、こちらの世界での最初の友達で一番の親友、アルミラが居る。



 ――アルミラ、どうしてるかなあ?



 考えながら、内の城壁のあたりにある屋敷に目をやって。



「あれ?」



 首をひねった。

 城壁の内側、神殿付近は、神竜アトランティエによって、まっさらな平地と化している。

 エレイン王子の即位の時に、台座くらいは作ったけど、基本的にはそれだけ。他にはなにもなかったはずだ。


 その、まさに神殿跡地に、なにやら立派な建物が建っている。



「……あれはなんだろう?」


「あんた様の神殿じゃないかね?」



 くたっとなりながら、銀髪幼女が答えた。



「神殿……は、わからなくもないけど、こんなに早く?」


「復興に動員した人足をそのまま神殿の建設に向ければ、そう難しくもないだろう。魔法も使ったろうしね」


「なるほど……にしても、建てるなら王宮を優先すればいいのに」


「アトランティエはあんた様で保ってるところがあるからね。しかも他国の神にもなるとなれば、あんた様の象徴となるような神殿が必要なんだろうね……もっとも、さすがに建てられたのは神殿本体だけで、付随する居住区なんかはまだ出来てないようだがね」



 なるほど、と納得する。

 となれば、あれが私の新しい職場――後々は住処ってことになるんだろうけど。


 とりあえず神殿の前に降りてみる。

 下から見ると、かなりでかい。造りはかなり違うけど、ギリシャの神殿みたいな印象だ。

 よく考えれば、この中に、即位の儀式の時に使った台座が収まってるんだから、でかいのは当たり前か。



「……おおぅ、足元がゆらゆらと」



 地面に降りたオールオールちゃんは千鳥足だ。

 ジェット飛行の連発は、やっぱりキツかったね。



「大丈夫?」


「まあ、平気かね。今日はもう、あんた様に抱えられるのは勘弁だけど」



 そんなこと言わないでください。

 というのはさておき。



「とりあえず中に入ってみようか。ひょっとして分身体(フィギュアさん)もアルミラさんも、こっちに居るかもしれないし」


「だね。とりあえず……呼ぼうかね」



 そう言って、魔女オールオールは呪文を唱える。

 文脈からして声を遠くに届ける魔法だ。



「アルミラよ、聞こえるかい?あたしと野良神様が帰ってきたよ。出てきておくれ」



 声をかければいいのに、なんでわざわざ魔法を。

 と思ったけど、ひょっとして歩くのも億劫なくらいフラフラなのか。ならそう言ってくれればいいのに。


 と、意地っ張りな幼女に目をやって考えていると、中から足音が聞こえてきた。


 やっぱりここに居たらしい。

 やや小走りに、こちらに近づいてくる足音。

 その姿があらわになって――思わず絶句した。


 ゆったりとした、一枚布の巫女服。

 純白のそれよりも、なお白いほっそりとした腕。

 無表情でぺたぺたと駆けてくる、黄金色の髪の美少女。


 タツキさんフィギュアだった。







「――美の神が、降臨されたか」



 神殿の入り口で、びしっ、と眠れるファラオのポーズを取ったタツキさんフィギュアに、思わずつぶやく。

 この姿はまさに神。崇めざるを得ない。



「いや、あの格好(ポーズ)はおかしくないかい?  いや、いつものあんた様だと言われると、否定できないけれど」


「ごめんなさい。私の日常です。再現完璧です」


「……まあ、あんた様の素行をとやかく言うつもりはないけどね」



 その言葉に、私は明後日の方を向く。

 幼女のジト目が気持ちいいです。


 そうこうしていると、ふたたび神殿の奥からパタパタと足音。


 そしてたゆんたゆん。

 今度は間違いない。神殿から駆け出てきたのは、アルミラだ。間違いない。



「タツキさん! オールオール様!」



 アルミラは、そのままの勢いで抱きついてきて――タツキさんフィギュアにファインセーブされた。



「ふぎゃー! なにしますの!?」



 アルミラさんが威嚇めいた鳴き声を上げるけど、タツキさんフィギュアはなにも言わない。


 というか。



「なぜフィギュアさんが抱きとめたの? ひょっとして日常的に命じてたから習慣で?」



 だとしたら、実物はここにありますよ!


 全力で主張するけど、アルミラさんは顔を真っ赤にして否定する。



「誤解ですわ! リディじゃないんですから、タツキさんの分身にそんなことはいたしませんわ!」



 開いちゃいけない扉を開いちゃったライムング太守の孫娘、リディアちゃんへの信頼は抜群だ。



「じゃあ、なんでこんなことに?」



 アルミラに尋ねる。

 タツキさんフィギュアに抱えられっぱなしなのが妙にシュールだ。



「それは……おそらくタツキさんならこういう場面でこうする、という動きや仕草を徹底的に教え込ませたせいかと」



 気のせいか、リディちゃんのやろうとしたことより怖さを感じます。

 まあ、アルミラさんに飛びつかれたら、私だって大喜びで受け止めるだろうから、間違ってはいない。フィギュアさんそこ代わってください。アルミラさんでもいいです。



「えーと、じゃあ、タツキさんフィギュア、ステイ」



 呼びかけると、タツキさんフィギュアが待機状態になった。

 アルミラさんは、解放されてほっと一息。



「ありがとうございます、タツキさん」


「うん。まあ、タツキさんフィギュアの面倒をしっかり見てくれてたみたいで、ありがとう」


「そんな……心配しておりました暴走もなかったので、面倒というほどのことはありませんでしたわ」



 それでも、それなりに気苦労はあったんだろう。

 アルミラさんは、私の労いの言葉に、嬉しそうに笑った。


 ほわっとして安心できる微笑だ。

 ひさしぶりに見る彼女の笑顔に、心があったかくなる。



「ただいま、アルミラ」


「お帰りなさいまし、タツキさん」



 あらためて、笑顔で挨拶を交わし。



「……アルミラや、あたしにも、こう、なにかないものかね」



 幼女が拗ねた声で主張した。

 放っておいてごめんなさい。





次回更新9日(月)20:00更新予定です。よろしくおねがいいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ