表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/125

その78 守護神獣に会いに行こう



「だから、この国もアトランティエの盟下に入ったことだし、守護神獣同士、これからもよろしくってことなんだよ」



 湿地に設けられた石造りの祭壇の上。

 私はそこに鎮座する神獣を見上げながら、そう言った。



「ゲロゲーロ。アトランティエの盟下に収まることは、我が契約の子らが願い、拙者も納得したことだ。ましてや、その途方もない力を見せられれば、否やは無い。こちらこそよろしく頼みたい。ゲロゲーロ」



 蛙の神獣――神蛙フローギスはおごそかにうなずいた。



「うん……ところで、カエルさんは料理とかに興味無い? 中華料理とか好き?」


「――野良神様よ、挨拶も終えたしそろそろ失礼しようかのう?」



 大事な話をしていると、突然銀髪幼女に首元を引かれた。

 ええい幼女よ止めてくれるな。



田鶏デンチーって知ってる!? また今度御馳走してほしいんだけど……!」


「ええい、ユリシスの大兎ピエトロの時といい、その食い意地をなんとかせぬか!」



 首根っこを掴まれて、ずるずると引きずられていく。

 ああ……お頼いしたら、勢いでかじらせてくれたかもしれないのに。







 というわけで、ユリシスで手が空いたので、ファビアさんにタツキさんフィギュアを託し、国内の神獣と顔合わせ巡業なうです。

 お目付役として銀髪幼女が来てくれたんだけど、兎さんといいカエルさんといい、止められてばかりで大変不本意なのです。



「いや、盟下の神獣を食べるとかありえないからね、ちょっとは自重しておくれ」



 風に乗って湿地帯を出て、街道に舞い降りると、銀髪幼女は私に苦言を呈した。まあ当たり前ですよね。



「面目ない。つい……」


「つい、で神獣を滅ぼせるんだから、始末におえない……ついでにいえば、たった一旬で、二大国の主だった神獣に挨拶して回れる素早さもね……死ぬかと思ったよ」



 すこし疲れた様子で、銀髪幼女が言った。

 さすがにジェット飛行であちこち連れ回したのは、体に堪えたみたい。



「疲れた?」


「すこしね」



 言いながら、幼女は逆に、元気だと主張するように胸を張った。かわいい。



「でもありがとう。助かったよ、オールオール。この西部の地理って、私、あんまり分かんないからね。キミが居なかったら、いろいろ迷ってローデシアの方に迷い込んじゃってたかも」


「それは……いろいろとぞっとしない話だねえ」



 想像すると、本気でやばい。

 うっかり戦争勃発とか、やらかしにもほどがある。



「まあ、神獣たちとも話が出来たし、これで不測の事態があったときも、不確定要素がへったんじゃない?」


「ああ。神獣はそれぞれ在り方が違う。人の都合で動くものばかりではない。神同士の話し合いは必要だったろうね」


「なにも無いに越したことは無いんだけどね。やっぱりそれは難しそうかな」


「難しいかね?」


「ローデシアの現状は三つ巴だからね。しかもアトランティエとユリシス――外国の勢力を引き込もうとしてる。もちろんエレインくんやユミスさんがうかうかと乗るとは思わないけど、ローデシアは荒れないほうが嘘だって感じ」


「三つ巴、か……あの女が反乱に乗るとも思えないけれど」


「あの女……?」



 聞いて、思い出す。

 三勢力のひとつ、ローデシアの宰相は、大昔のローデシアの王族で、魔女だ。オールオールちゃんが知っていてもおかしくはない。



「オールオールは、ローデシアの宰相のこと、知ってるの?」



 尋ねると、銀髪幼女は顔をしかめた。



「知ってはいる……が、嫌な奴だよ」


「嫌な奴?」



 首をかしげる。

 幼女はすこし、説明のために言葉を探して。



「野良神様よ、ローデシアの長い手については、あんたも聞いたことがあるだろう?」



 そう、尋ねてきた。



「長い手……? ああ、エレインくんとかインチキおじさん――マルグスさんがそんなこと言ってたね」


「……野良神様よ、頭の中で人様にゆかいな呼び名をつけるのは構やしないけど、口に漏らす癖はどうにかした方がよくはないかい?」



 そうですね。

 幼女のこともオールオールちゃんって言っちゃってた気がするし、気をつけとこう。



「それで――ええと、長い手の話だね」


「ローデシアの他国での諜報、活動能力のすごさを評したものだと思ってたけど……その口ぶりだと、別の意味合いがある?」


「そうだね。長い手には、別の意味合いがある」



 ありゅ、と、銀髪幼女は忌々しげに吐き捨てる。



「あの宰相――影の魔女シェリルが組織した、諜報組織そのものをさす言葉さ。なにか正式な名前はあるのかもしれないが、とにかく正体の知れない組織でね、他国の者はそう呼んでいるね」


「なるほど……単なる形容じゃなくて、実体を持った組織網の名前なのか」



 納得してうなずく。



「すると、いまのアトランティエとかユリシスにも入り込んでたりする?」


「だろうね。アトランティエは、まあ、あんなことがあった後だ。揺さぶれる力が残っていたならもっと揺さぶってたろうし、弱体化してるとみて間違いないだろうがね」



 そういえば、エレインくんが、アトランティエの港での暴動は、水の都の安定化を望まない勢力によるものだろうって言ってた気がする。

 案外あれも、ローデシアからの干渉だったのかもしれない。反応の速さを見るに、現場判断だと思うけど。



「その、長い手を操って、西部諸邦に蜘蛛の糸を張り巡らせる、冷血の宰相。それが影の魔女だよ。正直、失脚してくれてせいせいするよ」


「ローデシアの西部では、旗頭にされそうになってるらしいけど」


「うなずくまいよ。そもそもそんな野心があれば、あの女は三度はローデシアの王になってるさ。自分が作った組織をこよなく愛し、ゆえに王のどんな理不尽にも逆らわない……正直理解に苦しむがね」



 まあ、オールオールちゃんの似つかわしくない拝金主義とか、牙の魔女トゥーシアさんの異常なまでのアートマルグへの執着とか、魔女と呼ばれる人って、どこか偏執的なとこあるよね。



「まあ、西部――ユリシス近隣が落ち着いたままなら、それはそれでありがたいよね。となると問題は南部――アトランティエの方か」


「どうだい、野良神様よ。アトランティエに戻ってきたんだ。一度水の都に戻って、そのあたり、みんなと話しておいては」



 銀髪の魔女の、誘いの言葉。

 不意の誘惑に、たまらなくなった。

 たしかに、ここまで来てアトランティエに立ち寄らない手はない。というより、立ち寄らない自分を想像できない。



「一度帰ろう。アトランティエに」



 即座に、返して。

 幼女の体を抱えて宙に舞い上がる。

 空を駆けながら、私はアルミラたちの顔を思い出して――微笑んだ。




次回更新6日20:00予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ