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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その77 百合っ娘たちと食卓を囲おう



「とまあ、そんなわけで、こっちは無事におさまりそう。私も元気にやってるよ」


「おめでとうございます。早くお会いしたいですけれど……」


「うん。もう少しこっちにいた方がよさそうな感じ。私もアルミラたちと、早く会いたいし、ロザンさんの料理を食べたいんだけどね」



 羽根越しにアルミラさんと会話しながら、ちらりとテーブルに目をやる。

 テーブルの上には、山盛りの料理が、所狭しと並んでいる。


 食材は、すべて魔獣だ。

 私の食い意地がどこかから洩れたのか、それともファビアさんが、それなりに不満のある私の食生活を改善しようと思って積極的に広めたのか……騎士やら有力者やらが、討伐した魔獣の肉を、供え物としてもってきてくれるのだ。


 基本、魔力を持つ獣の肉は美味しい。

 体に魔力が馴染んでるほど――つまりは幻獣に近いほど、私にとっては美味しく感じる。


 だから、まあ、魔獣もまずくはないんだけど……

 この国の料理が私に合わない主な原因は味付けの差にある。

 だから、料理人が味見できず、細かな味付けが出来ない魔獣料理は、やっぱり微妙に口に合わない。


 料理人さんもそれはわかってるのか、いろいろと感想を聞いては試行錯誤してくれる。

 なので、そう遠くない将来改善してくんだろうけど、とりあえず目の前にある大量の料理(改善前)は始末しないといけない。この国の人たちからの好意だし。もったいないし。


 と、いうわけで、ユリシスの守護神獣になった私は、にわかに用事が増えた。

 といっても、やることといえば、いろんな要人との顔合わせくらいだ。


 ただ、これが妙に時間がかかってめんどうくさい。

 まあ、必要な段取りなので、偉大なるファラオのポーズで応対してます。


 で、そんな行列のできる面会もひと段落して、残ったのは魔獣の山。

 保存がきくように加工するのもいいけど、私が食い意地を張って「料理してくれたら食べる」って言っちゃったから……いまの状態になってる。



「タツキ殿、追加の料理をお持ちいたしました!」



 ファビアさんが、大皿を抱えてやってきた。

 いや、さすがにそろそろ飽きてきたから、今日のところはこれくらいにしときたいんだけど。


 表情に出ていたのか、ファビアさんはにこりと笑って蓋を取る。

 中に並んでいたのは、甘そうなお菓子だった。さすがファビアさん、いいお嫁さんに――殺気!?


 よく見ると扉の端に白い手。

 百合っ娘だ。心の中まで読まないでほしい。怖いから。



「あの、クラウディアさん、じっと見てるなら、よかったらいっしょに食べない?」



 せめて目のつく位置にいてほしいので、私はクラウディアさんに声をかける。



「……クラウディア、お前は……まあいい。タツキ殿の好意だ。甘えるといい」


「は、はいっ!」



 あきれたようなファビアさんの言葉に応じて、百合ッ娘は素早く席についた。

 コマネズミのような動きだった。



「ファビアさんもいっしょに食べようよ」


「ありがとうございます。それでは、ご相伴にあずかります」



 ファビアさんはにこりと笑って席に着いた。

 ファビアさんも百合っ娘も、幻獣の肉を食べた勇者か、その血統である魔法使いだ。魔獣だって食べられるはず。


 ファビアさんは、迷わずブタの丸焼きに行った。

 パリパリに焼いた皮についてる脂身は本気で美味しい。

 塗られてる煮詰めの味が……ちょっと独特で舌に馴染まないけど。これもうちょっと甘辛かったら最高なのに。



「美味しい。魔獣をこんなぜいたくな食べ方したのは初めてかもしれません」


「ファビアさん、いいとこのお嬢様なのに」


「魔獣の肉は、消耗した魔力を癒す戦場食になりますし……武門の家柄ですからね。母の――統領である牙の魔女の方針で、幼いころから日常の贅沢は戒められてきました。もちろん、テーブルマナーなどは、同じくらい徹底して叩き込まれましたが」


「わたくしの家も、お姉さまのところほど厳しくはありませんでしたが、似たようなものです」



 お菓子をつまみながら、クラウディアさんが言う。



「――まあ、父はあの王のことになると、ためらいなく蔵の底をぶち抜きますけど」



 財布ならぬ蔵とは豪快な……まああのおじさんらしいけど。



「そういえば、女神様、さきほどの声は、どちら様なのです?」



 そのあたりから聞いてたのか。

 なんというか、扉越しにじっと様子を見られてたかと思うと、恐怖しか感じないんだけど。



「あれは、遠くの人と話せる道具を使って、アトランティエに居る友達と話してたんだよ」


「アトランティエにいる……神獣様ですか?」


「いや、人間の友達で……アルミラっていうんだけど」


「ああ、女神様に仕えてらっしゃる巫女様ですね」



 説明すると、おじさんから話を聞いてたのか、百合っ娘は納得したようにうなずいた。



「美しい方なんですか?」



 興味をそそられたのか、百合っ娘が、軽く身を乗り出して尋ねてくる。



「美しい……うん。美人さんなのはたしかかな? こう、茶褐色の髪を長く伸ばしてて……大きい」


「大きい?」


「大きい……大きいですね……」



 私の言葉に、クラウディアさんが小首をかしげて、ファビアさんは自分の絶壁を見て落ち込んだ。



「安心して、ファビアさん。私も小さいし」


「大丈夫です! お姉さまのなだらかな胸はとっても魅力的です! わたくし大興奮です!」



 私がよくわからない励ましの言葉をかけると、察したクラウディアさんがとどめを刺しに行った。容赦なしだ。


 ファビアさんが地の底まで落ち込んだのはさておき。

 ……いや、さておけないな。空気が微妙に気まずい。

 百合っ娘もそれを察したのか、務めて明るく声をあげた。



「め、女神様、そのアルミラ様は、どんな方なのですか?」


「えーと、明るくてお気楽で元気な子かな? 賢いんだけど、どこか抜けてて……あと大きい」


「胸の話はさっき聞いているのですけれど……いい方のようですね」


「うん。私の大好きな友達だよ」



 笑顔で返す。

 百合っ娘が、ほんのちょっとだけ顔を赤らめた。



「そ、その“友達”という表現は、わたくしたち人間が用いる“友達”とおなじ意味でよろしいんですわよね? “恋人”とか“愛人”みたいな意味合いがあったりしませんわよね?」


「ないけど。というか私ファビアさんも友達だと思ってるし、そういう意味に取られるとキミに呪殺されかねないんで、それは無いってはっきり否定しておきます」



 私が断言すると、百合っ娘は安堵のため息をついた。

 私と百合っ娘じゃあ実力が違いすぎて、物理的にも魔力的にもどうにかされるような危険はないんだけど、怖いものは怖い。



「アルミラ殿とは、わたしもお会いしている……正直、わたしの恥ずかしい場面しか見られていない気がするが……」


「どういうことですか!? そのあたりくわしく!」



 百合っ娘が高速で食いついた。

 ああ、おもらしした時とか、その後のお風呂でお世話してもらったりとか、タツキさんフィギュア事件とその後のアルミラさんフィギュア事件の時とか……



「い、いや、まあいいでしょう。わたしも、あえて自分の恥を晒すつもりはない。忘れてくれ」


「忘れられるわけないでしょう! いったいお姉さまになにがあったんですか!? 教えてください! ぜひとも教えてください!」


「ちょっと待て――クラウディア、なにを想像している! そういう話じゃない!? くっつくな!?」



 ファビアさんに取りすがるクラウディアさん。

 顔を真っ赤にして答弁を拒否するファビアさん。


 うむ。心洗われる光景だ。

 優しい笑顔を向けながら、静かに食事を続ける。


 案外早く、完食できた。



 ――さて、守護神獣就任の忙しさも、終わりが見えてきたことだし。



 椅子の背もたれに体重を預けて、私は考える。



 ――私は私で、動くべきかな。もしもの時に備えて。



 アトランティエ王国、ユリシス王国。

 守護を約束した二つの国を守る。それが、守護女神である私の務めなんだから。



次回更新4日20:00予定です。

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