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その7 船をつくってみよう



「――さて、この絶海の孤島からの脱出手段ですが」



 仲間が増えたところで、孤島脱出のための会議を始める。

 メンバーは私、子猫のアルミラ、総勢2名だ。


「はいですわ」とアルミラが前足を挙げる。



「タツキさんには、なにかご思案があるんですの?」


「うん……私はとりあえず、船を作ってみようと思ってます!」


「流木で筏を作るんですの? かなり危険だと思うんですけれど」



 アルミラの不安はもっともだ。

 強度の問題は言うに及ばず、水と食料、それにアルミラを筏の上に乗せるとなると、おとといのような嵐が来たら、全部流されかねない。



「やっぱり危険だよなあ……水とか食料とかアルミラが」


「タツキさんも危険ですのよ!?」


「平気平気。私は丈夫だし」


「いえ、タツキさん自信がありすぎだと思うんですの。無茶をして、万が一、その綺麗な顔に傷でもついたらどうするおつもりですの? ご自愛くださいまし」



 いや、たぶん傷はつかないと思うけど。

 岩礁に拳を叩きつけても大丈夫なパーフェクトボディです……胸とかは小さいけど。スタイルは別にパーフェクトじゃないけど。


 いや、いいんだ。

 いきなり女になっちゃったのは、もうあきらめるとしても、巨乳だったら本気で目のやり場に困ってただろうし。



「心配してくれてありがと……うーん。だったら、こんなのはどうかな? 竜の骨に皮を貼り付けて、船に仕立て上げるってのは」



 水竜は巨大な蛇型だ。

 うまく加工すれば、半円筒型の船っぽいものができるかも知れない。



「まあ、手持ちの材料で、嵐でも大丈夫な船を作ろうと思ったら、それしかありませんものね……といいましても、竜の皮はともかく、骨の加工となると、タツキさんの手に、というか、人の手に余ると思うんですの」



 いや、たぶん余らないというか……実際見てもらった方がいいか。



「大丈夫。私、かなり強いから。ちょうどいいから、見てみて。私にどれくらいのことが出来るか」



 昼も近い。

 日課になってる魚取りを実演してみせよう。


 とう! と海に飛び込んで、餌を求めて飛んでくるいつものあん畜生を捕まえ、帰還。


 この間、体感で2、3分。

 様子を見ていたアルミラは、ぽかんと口を開けて呆然となってる。



「……え、と、タツキさんって、本当に女神様とかじゃございませんの?」


「いや、ふつうに人間……のはずだけど……まあ、こうなっちゃったのも、原因があって」


「原因? なんですの?」



 子猫が首を傾ける。

 私はドラゴンと水竜を指差しながら、言う。



「ドラゴンの肉、食べたから」


「……なるほど、ですわ」



 アルミラがぽん、と手をあわせる。えらくかわいい。



「ドラゴンの肉を食べた者は、竜の力を得る、といいますものね。それなら納得……両方ですの!?」


「うん。両方、全部」


「ぜぜぜ、全部ですのっ!?」



 アルミラは悲鳴のような声をあげて尻尾をピンと立てる。



「――ドラゴンは幻獣種の頂点、他の幻獣種と比べても隔絶した存在ですのよ!? ひと口食べただけでもとんでもない力を得ることが出来ますのに! 竜の力に耐えられずに、血泥になったり光を失ったり獣と化したりなんて逸話は、枚挙に暇がありませんのに、全部!? しかも二体分!?」



 なんだかとんでもなく驚かれている。



「もう、すごいとしか言いようがありませんわ……」


「いやあ、照れるなあ」


「褒めてませんわよ!?」



 なぜか怒られた。

 まったく知らなかったのに、そんなこと言われても困る。



「まあ、そんなわけで、私はすっごく力持ちになってるから、竜の骨をぶち折ったり加工したり出来るくらいの力はある……と思う」


「……切り替えましょう、希望が見えてきましたわ!」



 アルミラは尻尾をぴんと立て、やけを起したように叫ぶ。



「船の構造に関しては、わたくしも少々心得ております! 助言できることもあると思います!」


「うん、助かる! 正直船の構造なんて分かんないから、どんどんアドバイスお願い!」



 私も釣られて、元気よく声を上げた。


 そのあと、漁ってきた魚で食事になった。

 アルミラが「生で食べるんですの?」と謎の抵抗を示した。猫なのに。







 そんな感じで、船の製作が始まった。


 水竜の、尾に近い部分を10mくらいへし折って、竜骨――船体の骨格がわりにする。

 それから、水竜の皮をロープ状に細切りにして、船底となる背骨部分の要所要所を固定、補強。


 次いで、水竜の皮で船全体を覆う。

 上部は凹ませて、固定のために、水竜の皮のロープで肋骨と皮を縫い結んでいく。

 バラストがわりに船底にドラゴンの骨と鱗を敷いたけど、かなり量が多くて、重すぎなんじゃって気がする。まあアルミラのアドバイスだから大丈夫だろうけど。


 水竜の皮は冷たいので、居住部分には流れてきた板材を敷いておく。

 それから上部に幌のように水竜の皮を張っていき、船底からぶち抜くようにしてドラゴンの翼を、マストのかわりとして立てる。


 実に三日がかりの大仕事だった。

 ためしに海に浮かべてみたけど、上々だ。

 水竜の船体は波を鎮め、風竜の翼が風を起こして進む。

 なんだか魔法めいた不思議な船になってしまったのは、だいたいアルミラのせいだと思う。竜の皮とか骨の特性とかいろいろ検証してたし。



「できましたわー!」



 アルミラが船の周りではしゃいでいる。

 二本の足で立ってバンザイする子猫は、人間ぽくてなんかかわいい。



「水竜と風竜の素材を贅沢に使いまくった竜帆船ドラゴンシップ! 幻獣種の頂点! 竜種をこれだけ使った船なんて、国がいくつかまとめて買えるレベルですわよこんちくしょう!」



 いや、ちょっとヤケになってるっぽい。

 というか、わりと手仕事感満載なのに、すごい高いなドラゴンシップ。まあほとんど材料価格なんだろうけど。



「しかし、おかげでドラゴンハウスがちょっと残念な感じになっちゃったなあ……」



 翼をもぎ取って鱗を剥いでるので、ドラゴンハウスはもうぼろぼろだ。

 水竜も、残骸めいた感じになっちゃってるし……まあ、ここから脱出するためなんだから、仕方ないけど。



「とにかく、船は出来た! あとは、荷物を乗せられるだけ乗せて、出発だ!」


「おー、ですわ!」



 思いきり手を振り上げると、アルミラもそれに続く。

 いよいよこの岩礁を離れ、大海原に乗り出す時が来た。





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