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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その69 フカヒレさんじゃありません



 牙の魔女さんは、とりあえず大丈夫そうだ。

 となると、今度はこの警鐘と、それを聞いて飛び出していったファビアさんが気になる。


 えーと、このなかで事情をわかってそうなのは……

 牙の魔女さんとかそのお連れさんに聞くのもアレだし……



「クラウディアさん――って居ない!?」


「あの娘なら、さきに行った娘を追い掛けて行ったよ」



 と、オールオールちゃん。

 神速すぎる。さすが百合っ娘。



「――この警鐘は、魔獣の襲来を知らせるものだ……近ごろ増えた」



 察したのだろう。

 腰を地に落としながら、牙の魔女トゥーシアが説明してくれた。


 なるほど。

 守護神獣亡き都だ。

 空白地となった縄張りに、他の幻獣や魔獣が集まるってのは、エレインくんも言ってたことだ。


 事情をわかってるファビアさんが血相変えて出て行ったってことは……きっとヤバい。



「なるほど……じゃあ、ちょっと行って来るよ」


「ああ、行っておいで――この国にとって、あんた様が何者なのか、示してやるといい」



 銀髪の魔女は、あどけない笑みを浮かべて、あと押ししてくれた。



「了解! じゃあオールオール、牙の魔女さんはお願い!」



 言い残して――飛ぶ。

 上空に舞い上がるまでは一瞬。

 それからぐるり、周囲を見渡す。


 見えた。港だ。

 半魚人か、それに類するなにかか。

 なにやら得体の知れない代物が、つぎつぎと陸に上がってきてる。



「――って数多っ!? なにこれきもい!?」



 湾内を埋め尽くすその数、ざっと数百? 数千?

 とにかく尋常じゃない数だ。


 港に集まってる兵士たちは、よく防いでる。

 でも、上陸を防ぎきるには、数が違いすぎる。

 すでにかなりの数の半魚人が、都に入り込んでいる。



「ファビアさんは……居た」



 屋敷から港に向けて、ざっと目を走らせると、見覚えのある金髪と赤毛の少女。


 港を抜けた半魚人の一群と戦ってる。

 けど、母の剣を振るうファビアさんは、どうにも生彩を欠いてる。

 いっしょに戦ってる百合っ娘が、がんばってフォローしてるけど、厳しい。



 ――魔法を封じられてるからか。



 気づく。

 ファビアさんの魔法は、捕虜にしたとき封じちゃってる。

 オールオールちゃんもついてきてくれてるし、捕虜の引き渡しまでは、とそのままにしてたのが仇になった感じだ。


 とにかく、二人のところまで飛んで、ほとんど墜落するように豪快に着地。

 すかさず霧の吐息ミストブレスで半魚人たちをぶっ飛ばす。



「女神様!」


「ごめん! いま魔法封じを解く!」



 驚き目を瞬かせる彼女に、一声かけて、念じる。

 魔法は思いを実現する力だ。やり方なんてわからなくても、私の魔力なら、力づくで――



「――解けろ」



 唱える。

 ファビアさんを縛ってる魔力が、きれいさっぱり消え失せたのがわかった。



 ――あ、ひょっとして自殺封じまで解いちゃってる?



「ご安心を、女神様。母にああまで言っておいて、自分が死ぬわけには参りません」



 表情で察したのか、ファビアさんは笑って答える。

 解き放たれたような、すっきりとした笑みだった。



「わたしは生きて、この都を守ります」


「うん。じゃあ、ここは任せた。私も敵の数を減らして来る。こうまで入りこまれると、すっごく面倒くさいけど」



 基本、私の魔法って広域殲滅魔法だし。


 ふたたび上空に飛びあがって、戦況を見る。

 ファビアさんは、別人のように無双を始めてる。

 その働きは、ほかの兵士たちと比べても段違い。


 やっぱり強いんだ。

 正直牙の魔女さんとか銀髪幼女クラスじゃないと強いって感じないから、ファビアさんが強いって認識ぜんぜんなかった。



 ――と、いまは半魚人退治だ。



 陸に上がる半魚人の数は、どんどん増えてきてる。

 まだまだ海に潜んでるっぽいし、本当に数え切れない感じだ。


 兵士たちは押されまくってて、どこもかしこも大ピンチ。

 まずは海の中の敵から、とか言ってられない。全員を一片に助けなきゃいけない。


 都市を覆うほど広範囲で。

 入り乱れる敵味方の中で、敵だけを狙う。


 そんな魔法は――ある。

 思いきり魔力を込めて、命じる。



「――出ろ。神鮫アートマルグの“軍勢”よ!」



 体からほどけるように。

 現れたのは、魔力で編まれた大量の鮫。その数――優に数千!


 洋上を鮫の嵐と変えた神鮫アートマルグの“軍勢”。

 その権能を得た私なら、再現は造作もない。



「行け! 海から上がってきた魔獣を喰らい尽くせ!」



 指を、足元に向けて振り下ろす。



 ――鮫の嵐が吹き荒れた。



 鐘が鳴る。

 凶暴な顎を開いた鮫が、怒涛となって襲いかかる。

 都の各所で鮮血が舞った。湾の内は赤く染まった。

 魔獣の群れが骨も残さず地上から消え去るのに、それほど時間はかからなかった。


 すべてが終わったのを確認して、鮫を戻す。

 港のあたりで、ファビアさんたちが、こっちをぽかーんと見つめてるのを見つけたので、すぐそばに舞い降りる。



「大丈夫だった?」



 声をかけると、ファビアさんは手に持つ剣を所在なさげにぶらぶらさせて、「大丈夫です」と答えた。


 百合っ娘は、いまだ呆然として私を見てる。

 なんというか、信じられないものを見るような、そんな視線。

 というか、まわりの兵士たちも、みんなおなじ表情で私を見てる。



「……アートマルグ様?」



 百合っ娘が言った。

 わっと、兵士たちが声をあげる。



「そうだ、姿こそ違えど、まぎれもなく神鮫アートマルグ様だ!」


「我らの神がお還りになったんだ!」


「万歳! 万歳!」


「アートマルグ様! アートマルグ様!」



 ……完全にやらかしたやつだこれ。




次回更新18日20:00予定です。

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[一言] ―――討ち、喰らい、取り込む。討ち、喰らい、取り込む。他の誰も味わえない、幻獣神獣の味。 そう―――喰らい、取り込むが故に、他の権能を揮う守護女神こそが、もっとも新しき異界より落ちてきたヒト…
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