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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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62/125

その62  百合の花咲く妹分


 アトランティエを出て5日。

 快速で海上を駆けた竜帆船は、ユリシス首都カイザリアにたどり着いた。

 海流にも風にも囚われない竜帆船と、魔女オールオールちゃんの的確な操船の結果だ。



「……でかい」



 竜帆船の甲板から港を、その奥に広がる街並を見て、思わずつぶやいた。



「カイザリアはユリシスの中核たる城塞都市です。巨大な軍港を備えるこの都市は、かつては大陸進出のための拠点でした。大陸深くにまで版図を広げた今となっては、群島と大陸を繋ぐ要衝として栄えております」



 ファビアさんが説明してくれる。

 言われてみれば、石造りの町並みは、どこか物々しい気がする。



「なかなか物騒な都っぽい?」


「この地上に、あなた様ほど物騒なおかたもいないと思うがね、野良神様よ」



 私のつぶやきに、船室から銀髪幼女の声。

 横で聞いてたファビアさんが、なんとも言えない表情になった。


 まあ、わりと真剣に、単騎で国を滅ぼしかねない存在だしね。

 やらないけど。



「さて、ひさしぶりの陸だけど……ユリシスの料理って美味しいかな?」



 その言葉に、なぜかファビアさんは私から目をそむけた。

 ひょっとしてあんまり美味しくないのかな? しょぼーん。







「女神様、上陸の手はずが整いました」



 甲板の上にいると悪目立ちするので、ファビアさんに任せて、船内で身支度を整えてると、そんな声がかかった。


 ひさしぶりの陸だ。

 銀髪幼女に一声かけてから、外に出て、そのまま桟橋に上がる。

 べつに船内が窮屈だったわけじゃないけど、なんとなく伸びがしたくなる。



「うーん……」


「女神様、これからどうされますか?」



 のびーってしてると、先に上がってたファビアさんが、尋ねてくる。



「えーと……まずは、交渉役としてユリシスに入ってる使者の人に会ったほうがいいかな。いちおう現場の意見とかアドバイスを聞いときたいし」


「では、まずは書面で報せなくては。いきなり訪ねると、非常に驚かれるかと」



 ファビアさんが言った。

 まあ、いきなり自分とこの神様が「来ちゃった」なんてやったら、たしかに心臓に悪そうだ。ファビアさんの意見を採用で。



「使者の滞在先は……見当がつきます。わたしが通達の手はずをとりましょう。船は、収納できるのですよね? なら……」



 てきぱきとこなしていくファビアさん。

 すっごく頼もしい。おもらしして沈んでた人と同一人物とは思えない。

 そんなこと言ったら、また泣き顔になっちゃうから、言ったりしないけど。


 なんて事を考えてると。



「――お姉さま?」



 と、岸の方から声がかかった。

 見れば、声の主は、十代半ばくらいの美少女だ。

 燃えるような赤毛に、くりくり大きなブラウンの瞳。

 スタイルはかなりいい。仕草は洗練されてて、お嬢様、って感じがする。



「クラウディア。どうしてここに」



 ファビアさんの問いには答えずに。

 赤毛の少女は桟橋を一気に駆け、ファビアさんの絶壁に突貫した。



「お姉さまお姉さまお姉さまーっ!」


「こ、こら、クラウディア!?」



 頭を胸にぐりぐりと押しつける赤毛の少女――クラウディア。うむ。



「お姉さまが帰ってくるかもしれないって知って、毎日ずっと港に居ました! 一番にお迎え出来てよかったです!」


「そ、そうか……」



 なんというか、非常に愛の重そうな子だ。

 はたで見てる分にはいいけど。



「ファビアさん、その子は」


「――ああ、彼女は……」



 ファビアさんが答えかけると、クラウディアはこちらをキッとにらみつけてきた。



「……お姉さま、この方は?」



 底冷えするような声で、ファビアさんに尋ねる少女。

 やばい。



「ああ、このお方は……女神タツキ様。アトランティエの守護女神様だ」



 ファビアさんが説明すると、少女の目が点になった。

 まあ、そりゃそうだよね。



「え? ……あ、冗談ですよね?」


「冗談じゃない。というかわたしは冗談なんて言わない」


「え? そりゃすっごく美人でお姉さまったらまた女ギツネにたぶらかされたのかって思いましたけど……女神?」


「またってなんだ。いい加減わたしに親しくしてくれる女性を女ギツネ扱いするのはやめろ。あとタツキ様が女神であらせられるのは事実だ。それなりの態度で臨んだ方がいい」



 うむ。

 ファビアさん←クラウディア。

 うむ。お姉さま呼びはなかなか素敵だと思います。



「えーと、なんだったら証拠見せようか?」


「やめてください都がパニックになります!」



 提案したら即座に止められた。

 その必死っぷりで通じたのか、赤毛の美少女は、こちらに向けて、ちょっと青ざめた顔で優雅に一礼した。



「は、初めまして、アトランティエの守護女神様。わたくしファビアお姉さまと姉妹の契りを交わしております、クラウディア・マルケルスと申します」


「クラウディア・マルケルス……マルケルスって、たしかファビアさんのマクシムス家と双璧の、勇者の家柄だっけ?」



 私が尋ねると、ファビアさんはこくりとうなずいた。



「はい。縁あって、幼いころより親しくつき合ってきたのですが……」


「きゃ、お姉さま、恋仲だなんて……恥ずかしいです」


「いや、そんなことは一言も言ってない」



 うん。

 なんというか、ダメな子みたいですね。

 触ると火傷しちゃいそうなので、心の中で、ファビアさんを仲介役に任命します。







 それから、タイミングをはかったかのように、オールオールちゃんが船から出てきたので、竜帆船をネックレスに回収する。



「アトランティエからの使者であれば、マクシムスうちの別邸が提供されているはずです。報せは走らせておりますので、そちらに向かいましょう」



 ファビアさんの言葉に従い、4人で別邸に向かう。

 4人だ。なぜかクラウディアもついてきてる。



「ひさしぶりにお姉さまとお会いできたんですもの、ずっとごいっしょいたします」



 うん。

 まあいいんじゃないかな。


 別邸にたどり着くと、門前で、使者さんに迎えられた。

 健康に問題がありそうな顔色をした使者さんとともに屋敷に入り、それぞれ部屋をあてがってもらう。


 それから、使者さんと会って、私がここに来た経緯なんかを説明した。

「段取りを致しますので、少々お時間を頂戴いたします」と、使者さんは頭を下げて退出していった。

 胃の調子でも悪いのか、お腹を押さえてふらふらしてたので、使者さんの健康がちょっと心配です。




次回更新9月1日20:00予定です。

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