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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その60 ユリシスを目指そう



「――いい風だなあ」



 船の舳先に立って、つぶやく。

 目の前に広がるのは紺碧の海、青い竜帆船ドラゴンシップは、風を切って快速で進む。


 目的地は、ユリシス王国。

 七つの群島を中心に、北方に勢力を築く軍事国家。


 向かうのは、3人。

 私と、人質だったユリシスの女勇者、ファビアさん。

 そして銀髪幼女な魔女、オールオールちゃんの三人だ。



「……たとえ、故郷で恥をさらそうとも……ユリシスのために力を尽くせるなら……」



 ファビアさんは、複雑な心境っぽい。

 オールオールちゃんはといえば、太陽がまぶしいのが嫌なのか、じっと船室に篭もってる。


 どうしてこんなことになってるのかって言うと……話は、満漢全席の最中にさかのぼる。







「――タツキ殿の考えを、教えていただけますか?」


「うん」



 エレインくんの問いに、私はうなずいて、腹案を明かす。


 ユリシスの守護神鮫アートマルグは、覇権主義の神獣だ。

 その存在によって、ユリシスは支配を強固なものにしてきた。


 だからこそ、その裏返しとして。

 アートマルグ亡き今、ユリシスの支配は根底から揺らいでいる。



「……いま、ユリシスには神獣が居ない。問題の根本は、それだよね?」


「ええ。それゆえユリシスは、有効な対策を打てないまま、乱れようとしています」



 私の確認に、エレインくんはうなずいた。

 そう、問題はそこ。神獣が居ないことだ。



「だったら、解決は簡単。神獣をすげ替えればいい。新しい神獣を戴けば、ユリシスは安定する。私たちも安心してアトランティエを統治できる」


「その神獣を、どこから調達するおつもりですか……まさか」


「そのまさかだよ」



 にやり、と笑って、私は答える。



「――べつに、神様を兼任しても、問題ないよね?」



 どーだ、と、胸を張る。

 エレインくんは、すっごく疲れた表情で肩を落とした。



「おおありですよ。ユリシスがそれを呑むかどうかを脇に置いても、タツキ殿が一方に在る時、もう一方に危機が訪れれば、どう救うというのですか。両国間の連絡には、急いでも十日はかかるんですよ?」



 ああ、そういう問題もあるのか。

 万が一のことを考えとかないと、名義貸し程度のノリじゃ相手も納得しないか。



「……あ、そうだ。ここに、ニワトリさんの羽根があります」



 思いついて、オールオールちゃんに改造してもらった、ニワトリさんの羽根を取り出す。



『余を呼んだであるかタツキ殿!』



 魔力を込めると、さっそくニワトリさんが話しかけてきた。その速さがちょっとキモイ。



「こうやって、非常時に通信できれば問題ナシじゃない? 頑張って飛んでけば、半日くらいで駆けつけられるだろうし」


「まあ、タツキ殿がそうおっしゃるのなら、可能なのでしょうが……」


「というわけでニワトリさん、近々羽根を毟りに行くからよろしくね!」


『頼まれれば提供くらいするから、無理に毟らないでほしいのであーる!?』



 ニワトリさんが悲鳴を上げたけど、これで問題は解決……のはず。

 オールオールちゃんに調整してもらえば、羽根同士の通信とかもできるだろうし。


 ……ん? これを各都市に配置したら、各地の現状がリアルタイムでわかる?

 調整とか死ぬほど難しそうだけど、可能なら……ニワトリさんの羽根が無くなるか。

 さすがに可哀想だから、生えかわりの時期に、ちょっとずつ分けてもらうくらいにしとこう。



「どう? これで連絡の問題なんかは解決したっぽいけど」


「正直、話がまとまるとは思っておりませんが……ファビア殿に相談の上で、彼女の助力が得られるというのなら……」


「行ってきていい?」



 身を乗り出すけど、エレインくんは落ち着かせるように首を横に振る。



「それでもすぐに、とは参りません。いまはまだ諸侯や地方の有力者などの多くが、都に残っています。長期間タツキ殿が姿を見せなければ、不安に思う者も出ましょう」


「でも、あんまり時間を置くと、ユリシスがヤバいんでしょ? なら……こういうのはどう?」



 思いついて、魔力を通して念じる。

 目の前に生み出されたのは、人型の水。

 それは、私のイメージそのままに、私そっくりの姿に変化した。



「タツキさんフィギュアに、“エレインくんの命令に服従して”って言っとけば、影武者くらいにはなると思う」


「――ダメですわ!」



 と、アルミラさんが、ふいに身を乗り出して来た。揺れた。ありがとうございます。



「エレインなんかに好きにさせれば……タツキさんをあられもないお姿にして……そんな――破廉恥ですわ! 破廉恥ですわーっ!」


「いや、姉貴の発想のほうがよっぽど破廉恥だよ」



 私もそう思います。

 あとアルミラさんの中のエレインくん像、ヒドくないですかね?


 でも、エレインくんが却下なら、タツキさんフィギュアを誰に預ければいいんだろう。



「ううん……リディちゃん――は置いといて」


「危険すぎて選択肢にも入りませんわ」



 アルミラさんの却下が早い。

 それから、なぜか給仕さんが期待に胸を膨らませるような表情をしてるけど、当然選択肢には入りません。



「オールオールちゃん」


「ぜったい研究対象ですわ」


「ホルクさん」


「破廉恥ですわ!」



 アルミラさん、判定が厳しい。

 あとは……料理の神ロザンさんにそんな雑務をさせるわけにはいかないし、となると、任せられる人がいない。



「でも、ほかに誰が居る?」



 尋ねると、アルミラさんはたゆん、と胸を張って言った。



「わたくしが! 不祥このわたくしが、タツキ様フィギュアの補佐を務めさせていただきますわ!」


「……え、アルミラ、いっしょに来てくれないの?」


「あ――ああっ!?」



 アルミラさんが、顔を真っ赤にして急に叫び出した。



「そうですのね……はじめからいっしょに行くって考えていただいてて……ああ、でも、タツキさんのお体を、ほかの誰かに触れさせるなんて出来ませんわ! タツキ様、申し訳ありませんが、わたくし今回は留守を預からせていただきますわ!」


「う、うん。あとをよろしく……」



 早口でまくしたてるアルミラに気圧されて、うなずいてしまう。



「しかし、まだ本決まりではないにしろ、タツキ殿が往かれるとすれば、まず協力してもらうファビア殿には同行してもらうとして……ほかに誰を連れていけばいいものか」



 と、エレインくんが悩みだした。

 ファビアさんが協力してくれるのが大前提だから、いっしょに行くのは当り前だ。

 けど、ファビアさん脳筋ぽいし、私にもいろいろと相談する相手が要る。それを誰にしようかってとこだと思う。



「いっそファビアさんと二人で行こうか? それならなにかあっても、(力づくで)どうとでもなるし」


「いや、なにか起こされては本気で困るので、タツキ殿をお止めできる人間が要るんですが……姉貴以外となると難しい」


「……いえ、いますわ。お一人」



 アルミラが、つぶやくように言った。



「――ユリシスの守護神獣を目指すタツキさんに、助言ができて、意見も言えて、さらにはアトランティエの味方なお方が」


「姉貴、それは……」



 問うエレインくんに、アルミラは自信たっぷりに答えた。



「陋巷の魔女、オールオール様ですわ」







 というわけで、満漢全席が大満足の内に終わった後。

 ファビアさんの説得はエレインくんに、銀髪幼女の説得はアルミラに任せて、私は蒼の都市ライムングにひとっ飛び。


 そこで守護神鳥ドルドゥさんの羽根を毟って帰ってくると、同行予定の二人の説得も無事終わってた。

 通信手段の確保のため、オールオールちゃんに、毟ってきたニワトリさんの羽根を調整してもらい、それから準備を整えてアトランティエを出発。いまに至る、というわけである。


 出発の時、エレインくんがファビアさんを熱く口説いてたのが、すごく印象的だった。

 口説くといっても、私がユリシスの守護女神になったら、ユリシスとアトランティエ両国に、どれくらい利があるかってのを、あらためて伝えてただけみたいだけど……あれ遠くから見たら、ファビアさんを口説いてるようにしか見えなかったと思います。


 諸侯の人たちとか、同じように、オールオールちゃんに必死でお願いしてるアルミラさんとかから見たら、特に。

 まあ、それだけ国のために必死だったってことなんだろうけど。南無南無。


 ともあれ、エレインくんのためにも、アトランティエのためにも、この旅は成功させなくちゃいけない。


 雲ひとつない空の下、ユリシス王国に向けて、竜帆船はゆく。

 波は凪いでいて、旅の障害なんてまるでない。


 あ、魚の魔獣っぽいのみつけた。

 獲りに行っていいですか?




次回更新28日20:00予定です。

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