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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その56 銀髪幼女に会いに行こう



 王子様がアルミラさんの地雷を踏み抜いた翌日。

 クレイジー料理人ロザンさんに、神牛の肉を預けてからは5日ほど経った。


 神牛料理が出来たって報告は、まだない。

 最初はすぐに料理が出来るんじゃないかって期待してたけど、けっこう苦戦してるみたい。


 というわけで、私は暇である。

 日課だった魔法の練習も、練習場所だった神殿跡の工事が始まっちゃったので、他にいい練習場所を探さなきゃな、なんて思いながら、なんとなく止まっちゃってる。


 まあ充電中ってことで、数日くらいはだらーっとしてもいいんじゃないかって思います。



「タツキさん、お休みするのはいいのですけれど、あまりだらしない格好はちょっと……」



 猫のアルミラさんが、ごろ寝してる私のお尻に乗って、苦言を呈す。ごめんなさい。でも魂が重力に逆らえないんです。



「大丈夫、ここには見られて困る人なんて……」



 言いかけて、私はのろのろと、まくれ上がった服の裾を整える。

 ベッドの足元に齧りついていた金髪の少女、リディアちゃんは、心底残念そうにため息をついた。気のせいだろうか、ため息に艶がある気がする。



「リディも、色欲はダメだと言ったでしょう?」


「色欲じゃないです。信仰です。お姿を見るだけで尊い気持ちになるんです。素敵です」



 リディちゃんが、もう手遅れな感じの抗弁をする。



「たしかに、その感情は否定いたしませんが――」



 アルミラさん否定!

 おねがいだから否定してください!



「――だからといってふしだらな格好のタツキさんを凝視していいわけではありませんわよ!」


「ふしだらって言われた!?」


「いえ大丈夫です女神様! そのままの女神様で居てください!」


「あ、やっぱダメっぽい!」



 リディちゃんに肯定されて、さすがに危機感を覚える。

 神めいた強さのせいで、危機意識とかそのへんの感知能力が鈍りまくってて、私のガードはゆるゆるだ。

 それは自覚してるけど、女の子の教育に悪いとなれば、さすがに意識してきちんとしとかなきゃって思う。



『美しさは罪、であるな』



 と、髪に飾ってる羽根から、ニワトリさんの声。



「……ああ、そういえば、オールオールちゃんに羽根の加工をしてもらわないと」


『なぜいまこのタイミングでそんな寂しいこと言いだすのであーる!?』



 それはニワトリさんが、ちっとも自重しないからです。







「と、いうわけで。来たよ!」



 魔女オールオールの家の扉を開けると、手を挙げて挨拶する。

 銀髪幼女は、部屋の奥で、なにやら実験めいたことをやってた。



「誰だい……いや、野良神様なのはわかってるけれど、その格好はどうしたんだい?」



 幼女な魔女が、不審そうな表情を浮かべる。

 その格好、っていうのは、いまの私の状態――霧を纏った正体不明のナニカになってるのを言ってるんだろう。



「目立たないように!」


「……逆に目立つんじゃないかい?」


「たとえそうだとしても、一見して私だとわからなければセーフ!」


「……まあいいけどね」



 オールオールちゃんは、あきらめたようにため息をつく。

 それから。古びた椅子に体重を預けて、銀髪の幼女は問いを発した。



「で、今日は何の用で来たんだい? 言っとくけど、貴女様が元の世界に戻る方法は、まだ手がかりすら見つかってないよ」


「それは急いでないから、ゆっくりでいいよ。しばらくはここにいるつもりだし」


「そうかい」



 私の言葉に、幼女は口元をゆるめる。



「ここを気に入ってくれたようで、なによりさ」



 無邪気っぽい笑顔だ。

 やっぱりオールオールちゃん、この街が大好きっぽい。



「あ、今日来た理由なんだけど――これ」



 と、私は髪にさしてた白い羽を、テーブルの上に置く。



「……ほう?」



 オールオールちゃんの目が変わる。

「よいちょ」と身を乗り出して、テーブルに置いた羽根を手に取ると、静かに観察を始めた。



「魔獣……いや、幻獣の羽根だね。どうやって手に入れたんだい?」



 銀髪幼女は、つぶやくように言う。

 その分析は正確だ。



「ライムングの神鳥にもらったんだけど……私の魔力を受けて、常に繋がっちゃってるから、なんとかしてほしくて来たんだ」


「ライムングの……音を司る神鳥ドルドゥの羽根をね」


「この間会って、アトランティエとの盟約を引き継いだ。それで、連絡用に貰ったんだ」



 説明すると、オールオールちゃんはちょっと安心したように息をついた。



「食い意地の張ったあなた様が、よく食べようと思わなかったものだ」


「正直食べたかったけど我慢しました!」


『コケーッ!?』



 と、いきなり羽根からニワトリさんの悲鳴が上がった。

 オールオールちゃん、魔力通して通信状態にしちゃってたか。



「大丈夫だよ、ニワトリさん。前も言ったけど、もう食べないから」


『いまさらながら紙一重の生に感謝なのであーる!!』



 うん。

 ニワトリさんはさておき、あらためて本題。



「これを、私が望んだときだけ通信出来るようにしてほしいんだけど……できる?」


「まあ、それほど難しいことじゃないかねえ……対価は、なにか考えてくれてるかい?」



 期待に胸を膨らませる銀髪幼女。

 表情が、お菓子コーナーの前の子供そのものだ。



「待って、まだお願いがあるんだ。いっぺんでいい?」



 と、私は身を乗り出すオールオールちゃんを制する。

 テーブルに体重を預ける仕草が、ちょっと幼女っぽかったのは秘密だ。


 あらためて、私は首に下げたネックレスを手に持ち、示す。



「ここに、神牛ガーランがあります」


「……音に聞こえた赤の神牛かい。呆れたもんだね……倒したのかい?」


「うん。それでね、この中には、守護神鮫アートマルグの血とか、守護神竜アトランティエの血とか、赤の神牛ガーランの血とかが入ってるんだけど」


「血まで集めて……飲む気なのかい?」


「いや、たしかにアトランティエの血はすっごく甘美で美味しかったけど、さすがに飲み切れないっていうか、やっぱり血を飲む行為に抵抗が……」



 血の美味しさを語る私の表情に、オールオールちゃんがドン引きの表情になる。

 ちがうんです。私もアカン感じだとは思ってるんです。美味しいけど。



「――いや、だから私も、ほかの利用手段とか考えてたんだけど……この血で、植物をおいしく変性させる実験とか出来るならやってくれないかなって」


「また妙なことを考えたね……しかし美味しくって、あたしが味見するのかい? 品種改良なんかは半分くらいあたしの領域だけど、正直食味に関しては専門外だよ?」


「味見は私がするよ。それで死ぬことはないだろうし……出来そうならお願いしたいんだけど、報酬ってどれくらいかかるかな?」



「できる」と幼女が言ったので、私は提供できそうな素材を挙げていく。

 生贄の祭壇で回収したドラゴン二匹の牙とか爪とか鱗。水竜の甘露。あとはアトランティエ、アートマルグ、ガーラン、ついでに豚の魔獣さんの皮や骨その他。


 名前を挙げただけで、オールオールちゃんの目がきらっきらに輝いてるのは、ともかく。



「よりどりみどりだけど……報酬がわりに、頼みがあるんだ。いいかい?」



 銀髪幼女は遠慮がちに、上目づかいで尋ねてくる。かわいい。



「……いいよ」


「まだなにも言ってないからね!?」



 しまった。

 オールオールちゃんのおねだりがかわいすぎてつい。



「……まったく。知り合いだからって、不用心に言質とらせてどうするんだい」



 心配してくれるオールオールちゃん素敵です。

 ロリお姉さんです。


 ともあれ、銀髪幼女はあらためて、言った。



「――あんたの血が欲しい」


「やだ、なんかえっちな響き」


「ちがうわ! 異世界から来て、それだけの幻獣を食べたあんたのことを、詳細に調べてみたいんだよ! ……もしかしたら、元の世界に戻る手がかりがあるかもしれないしね」



 がーっ、と、両腕を振り上げて抗議する銀髪幼女。

 なんだかんだ言いながら、私のために役立てることも考えててくれて素敵。いいツンデレです。



「それじゃあ、その条件で、よろしくお願いします」



 幼女の提案を受けると、ガラスの小瓶を渡された。

 雰囲気のある、分厚くゆがんだガラスに、血を溜める。

 ナイフじゃ私の肌を傷つけられなかったから、風竜の爪を使う羽目になったのは、ともかく。


 私の血が入った小瓶は、無事オールオールちゃんの手に渡った。



「よし。進展があれば、こちらから訪ねていくからね。楽しみに待ってな」



 銀髪幼女は上機嫌でそう言った。



 ――屋敷に来る時は、リディアって金髪少女に気をつけてください。オールオールちゃんはきっとストライクです。



 という心の中の忠告は、数日後、彼女がニワトリさんの羽根(改良版)を持ってきてくれたときに、現実のものとなった。南無。



 

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